■■百物語フクキタル
「それじゃあ始めよっか」
電気を点けていない寮の一室。
その真っ暗な部屋の中に13個のオレンジ色の光が揺れている。
「今日は集まってくれてありがとね。それじゃあ今から百物語をしていくよ」
セイウンスカイが説明を始める。
「自分の番になったらこわーい話をする。話し終えたら手に持っているロウソクの火を吹き消す。そしたら半時計回りで次の人が話し始める。それの繰り返し。……じゃあ私から話すね。……あれは小学生の夏休み、一人で釣りをしていた時の話なんだけどね……」
川に引き込まれそうになった話。
夜のターフで誰もいないのに聞こえてくるもう一つの足音。
誰もいないはずの方向から叩かれる寮の部屋の壁。
手に持っていた大量のにんじんがいつの間にか全て無くなっていた話。
寮の部屋で寝ていたら急に身体が動かなくなり、後ろを振り向いたら同室の子が寝ぼけて布団に入ってきていた話。
それぞれが体験したことや創作話などが語られていき、徐々に光源が減っていく。
残るロウソクの火はあと一つとなった。
「それじゃあフクキタル先輩、お願いします」
最後のロウソクを持っていたのは、セイウンスカイの隣に座るマチカネフクキタルだった。
彼女はセイウンスカイを一瞥した後、ロウソクの火をジッと見つめる。
「……これは、私の友達の友達から聞いた話です。
その友達というのもウマ娘なのですが、綺麗な栗毛が特徴的で興味あるものにはすぐに手を出し、すぐ飽きる。そんな子だったそうです。その子も今、私たちがしているように友達を集めて百物語をしたそうです。
真っ暗にした部屋の中、一人ひとりがロウソクを持ち、怪談話をしていきます。
その部屋で聞こえてくるのは語り手の声と緊張して思わず動いてしまった尻尾のカサリッという擦れる音。
話を聞くのに集中しているからか外の音は全く聞こえてきませんでした。
参加者たちの話はどれも聞いたことがあるようなものばかり。
そのはずなのですが、語り手が怖がらせようと真剣に話しているのと、唯一の光源であるロウソクの安定しない揺らめきを見ていると、気持ちがざわつく感じがしたそうです。
話し終えた語り手は『フッ』とロウソクに息を吹きかけます。
火が消えたロウソクから白い煙が一筋、ゆったりと立ち昇っていくのが見えました。
その人の輪郭は隣に座っている次の語り手が持つロウソクの明かりでかろうじて映っている状態です。
順番が回ってきた語り手は話し始めます。
その話もどこか聞いたことのある都市伝説のようなものでした。
栗毛のウマ娘の話す順番は私と同じように最後でした。そのため、その間はずっと聞いているしかありません。
聞いたことのない話やもっと驚く様な内容だったら、彼女も飽きずに聞いていたのかもしれません。ですが彼女は
『もっとドキドキするような話が聞きたい』
そう、思ってしまったのです。
暗くて見えない天井に視線を向けていると『フゥー』と長く息を吐く音とともにロウソクの火が消えました。
栗毛の彼女の2つ隣の子が話し終え、左隣の子が姿勢を正し始めます。
『やっと次が私の番か』
そう思った彼女が隣の子の方向を見ると、やけに上の方に顔が見えたそうです。
同じ身長であるはずの隣の子を、見上げないと話している口元すら見えないほど、角度が付いていたそうです。
暗闇の中でろうそくの火を見すぎて感覚がおかしくなったのかと思い、下を向いた時、気づきました。
身体が白いと。
そしてその白くなった身体を誰かが両手で握っていることに。
『えっ?なにこれ?』
彼女は声に出しましたが、周りは反応しません。
集団で無視されたのかと思うほどこちらに見向きもしませんでした。
『ねぇ、みんな!』
彼女は声を張り合げて言います。
百物語を話している左隣の子には悪いと思いつつ声を出しますが、誰も反応しません。
どうして?と彼女が混乱している中、『フッ』という火を吹き消す音が聞こえます。
その時、目の前が一瞬グニャリと歪みました。
まるで、風にあおられて揺れるロウソクの火のように。
彼女は気づいたそうです。
自分が今、ロウソクそのものになっていると。
手足がなく、口もないので声も出せない。
顔も固定され前しか向けないが、眼球を動かすような感覚でちょっとだけ視線を動かせる。
そんな状態に陥ったそうです。
彼女の心臓はバクバクと速く動きます。
『ねえみんな聞いて!無視しないで!助けて!』
彼女は必死に叫びます。
その声に応えるように声が響きます。
『これは私の友達の友達から聞いた話です』
彼女の後ろ、少し上から声が聞こえてきました。
その声は彼女自身の声でした。
自分ではない自分が淡々と百物語を話していきます。
誰か分からない自分の声が発する音の波でロウソクの火はゆらゆらと揺れます。
その度、視界は歪むため彼女は叫びますが誰も反応してくれません。
誰にも届かない必死な訴えを続けているうちに、後ろの自分が話を終えようとしています。
『いやだやめないで!話を続けて!終わらないで!ちゃんと聞くから!』
『そうして彼女はその日から少し性格が変わってしまったように物静かな子になってしまったようです』
『フゥー』
最後の語り手である栗毛のウマ娘がロウソクの火を消し、百物語は何事もなく終わったそうです」
マチカネフクキタルの淡々とした話し方に、聞き入る者、青ざめて身動き一つ出来ない者など様々だった。
「……百物語をする時に『つまんない』、『もっと刺激が欲しい』なんて思わないことです。
あなたが語り手になった時、それは『あなた』じゃないかもしれません。
話し終えたら吹き消される、このロウソクの火になっているかもしれませんよ?」
「フゥー」
語り手であるマチカネフクキタルは手元のロウソクに息を吹きかけた。
唯一の光源であったロウソクの火が消され、部屋の中は暗闇に包まれた。
誰も言葉を発さず、ただ重たい空気で満たされていた。
誰かが何か言おうとした時
バンッ!
「すみませんまだ百物語はやってますか!?本当はこういうの苦手でしょーじき嫌なんですけど、だからこそ挑戦してみんなと友達になれたらなーって思って来ました!」
急にドアが開かれ、廊下の光が差し込んでくる。
逆光ではあるが、髪の毛の形や声で参加者全員、その人物が誰か瞬時に分かった。
マチカネフクキタルだった。
「ふ、ふふフクキタルせん、ぱい?……いやだって今そこで話してた……」
キングヘイローは震えた指先を先ほど語り手がいた方へと向ける。
そこには、火が消えたロウソクがポツンと置かれていただけだった。
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全文(3869字)は小説で
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電気を点けていない寮の一室。
その真っ暗な部屋の中に13個のオレンジ色の光が揺れている。
「今日は集まってくれてありがとね。それじゃあ今から百物語をしていくよ」
セイウンスカイが説明を始める。
「自分の番になったらこわーい話をする。話し終えたら手に持っているロウソクの火を吹き消す。そしたら半時計回りで次の人が話し始める。それの繰り返し。……じゃあ私から話すね。……あれは小学生の夏休み、一人で釣りをしていた時の話なんだけどね……」
川に引き込まれそうになった話。
夜のターフで誰もいないのに聞こえてくるもう一つの足音。
誰もいないはずの方向から叩かれる寮の部屋の壁。
手に持っていた大量のにんじんがいつの間にか全て無くなっていた話。
寮の部屋で寝ていたら急に身体が動かなくなり、後ろを振り向いたら同室の子が寝ぼけて布団に入ってきていた話。
それぞれが体験したことや創作話などが語られていき、徐々に光源が減っていく。
残るロウソクの火はあと一つとなった。
「それじゃあフクキタル先輩、お願いします」
最後のロウソクを持っていたのは、セイウンスカイの隣に座るマチカネフクキタルだった。
彼女はセイウンスカイを一瞥した後、ロウソクの火をジッと見つめる。
「……これは、私の友達の友達から聞いた話です。
その友達というのもウマ娘なのですが、綺麗な栗毛が特徴的で興味あるものにはすぐに手を出し、すぐ飽きる。そんな子だったそうです。その子も今、私たちがしているように友達を集めて百物語をしたそうです。
真っ暗にした部屋の中、一人ひとりがロウソクを持ち、怪談話をしていきます。
その部屋で聞こえてくるのは語り手の声と緊張して思わず動いてしまった尻尾のカサリッという擦れる音。
話を聞くのに集中しているからか外の音は全く聞こえてきませんでした。
参加者たちの話はどれも聞いたことがあるようなものばかり。
そのはずなのですが、語り手が怖がらせようと真剣に話しているのと、唯一の光源であるロウソクの安定しない揺らめきを見ていると、気持ちがざわつく感じがしたそうです。
話し終えた語り手は『フッ』とロウソクに息を吹きかけます。
火が消えたロウソクから白い煙が一筋、ゆったりと立ち昇っていくのが見えました。
その人の輪郭は隣に座っている次の語り手が持つロウソクの明かりでかろうじて映っている状態です。
順番が回ってきた語り手は話し始めます。
その話もどこか聞いたことのある都市伝説のようなものでした。
栗毛のウマ娘の話す順番は私と同じように最後でした。そのため、その間はずっと聞いているしかありません。
聞いたことのない話やもっと驚く様な内容だったら、彼女も飽きずに聞いていたのかもしれません。ですが彼女は
『もっとドキドキするような話が聞きたい』
そう、思ってしまったのです。
暗くて見えない天井に視線を向けていると『フゥー』と長く息を吐く音とともにロウソクの火が消えました。
栗毛の彼女の2つ隣の子が話し終え、左隣の子が姿勢を正し始めます。
『やっと次が私の番か』
そう思った彼女が隣の子の方向を見ると、やけに上の方に顔が見えたそうです。
同じ身長であるはずの隣の子を、見上げないと話している口元すら見えないほど、角度が付いていたそうです。
暗闇の中でろうそくの火を見すぎて感覚がおかしくなったのかと思い、下を向いた時、気づきました。
身体が白いと。
そしてその白くなった身体を誰かが両手で握っていることに。
『えっ?なにこれ?』
彼女は声に出しましたが、周りは反応しません。
集団で無視されたのかと思うほどこちらに見向きもしませんでした。
『ねぇ、みんな!』
彼女は声を張り合げて言います。
百物語を話している左隣の子には悪いと思いつつ声を出しますが、誰も反応しません。
どうして?と彼女が混乱している中、『フッ』という火を吹き消す音が聞こえます。
その時、目の前が一瞬グニャリと歪みました。
まるで、風にあおられて揺れるロウソクの火のように。
彼女は気づいたそうです。
自分が今、ロウソクそのものになっていると。
手足がなく、口もないので声も出せない。
顔も固定され前しか向けないが、眼球を動かすような感覚でちょっとだけ視線を動かせる。
そんな状態に陥ったそうです。
彼女の心臓はバクバクと速く動きます。
『ねえみんな聞いて!無視しないで!助けて!』
彼女は必死に叫びます。
その声に応えるように声が響きます。
『これは私の友達の友達から聞いた話です』
彼女の後ろ、少し上から声が聞こえてきました。
その声は彼女自身の声でした。
自分ではない自分が淡々と百物語を話していきます。
誰か分からない自分の声が発する音の波でロウソクの火はゆらゆらと揺れます。
その度、視界は歪むため彼女は叫びますが誰も反応してくれません。
誰にも届かない必死な訴えを続けているうちに、後ろの自分が話を終えようとしています。
『いやだやめないで!話を続けて!終わらないで!ちゃんと聞くから!』
『そうして彼女はその日から少し性格が変わってしまったように物静かな子になってしまったようです』
『フゥー』
最後の語り手である栗毛のウマ娘がロウソクの火を消し、百物語は何事もなく終わったそうです」
マチカネフクキタルの淡々とした話し方に、聞き入る者、青ざめて身動き一つ出来ない者など様々だった。
「……百物語をする時に『つまんない』、『もっと刺激が欲しい』なんて思わないことです。
あなたが語り手になった時、それは『あなた』じゃないかもしれません。
話し終えたら吹き消される、このロウソクの火になっているかもしれませんよ?」
「フゥー」
語り手であるマチカネフクキタルは手元のロウソクに息を吹きかけた。
唯一の光源であったロウソクの火が消され、部屋の中は暗闇に包まれた。
誰も言葉を発さず、ただ重たい空気で満たされていた。
誰かが何か言おうとした時
バンッ!
「すみませんまだ百物語はやってますか!?本当はこういうの苦手でしょーじき嫌なんですけど、だからこそ挑戦してみんなと友達になれたらなーって思って来ました!」
急にドアが開かれ、廊下の光が差し込んでくる。
逆光ではあるが、髪の毛の形や声で参加者全員、その人物が誰か瞬時に分かった。
マチカネフクキタルだった。
「ふ、ふふフクキタルせん、ぱい?……いやだって今そこで話してた……」
キングヘイローは震えた指先を先ほど語り手がいた方へと向ける。
そこには、火が消えたロウソクがポツンと置かれていただけだった。
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全文(3869字)は小説で
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18844396
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865
33404
2022-12-04 20:00
Comments (42)
トレーナー「知るかバカ!。そんな事より、ウマぴょいだッ!!(直球ストレート)」
三津田信三の表紙っぽいな
この後一週間はウララと一緒のベッドで寝るキングであった
View Replies知ってる? 百物語。 全て揃ったとき。恐ろしいことが起こる。 そのためにも白物語にする必要がある 1足りなければ起こりはしない さぁ。止めて見せろ 百物語を
View Repliesもはやドッペルゲンガー💧
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