【PFSOZ】四人の来客
「どうしてくれるんだ、てめえ!」
男は敷地内に入って来るなりそう怒鳴った。その声に驚いて、数羽の雀が飛び立った。
ここはヤードの拠点の一つ、入り組んだ路地裏の更に奥、地元の子供たちでさえ来ない空地である。生え放題の雑草の上に乱雑に積まれた葛籠の上に寝そべったまま、ヤードは顔だけあげた。
「やあ、いらっしゃい」
「いらっしゃいじゃねえよ!」
男は更に激高して続けた。
「おかげでこっちは大損だ、てめえの役立たずな情報のせいでよ!」
「心外だね、ボクの雀たちが集める情報ほど確かなものは無いのに。……闘技場での大会の話かな?」
王都で行われている剣と魔法の大会、一昨日やって来た男はその大会の勝者を教えてくれと言ってきたのである。
「だから試合に出る選手の腕前から体調、プライベートな事まで微に入り細を穿った情報をあげたのに。金額を考えたら大サービスだよ?」
ヤードは上半身を起こし頬杖を突いて微笑んだ。
「あんなもんで分かるわけないだろうが!」
男は一歩踏み出して三度怒鳴る。男が怒っている理由をヤードは知っている。賭博に負けたからだ。年に一度の大会、合法なものから違法なものまで各所で賭博が行われていた。
「俺が欲しかったのは勝つ奴の情報だ!」
「そうは言われても勝負の行方は時の運、未来予想なら情報屋じゃなくて占い師の所へ行ってもらわないと」
ヤードは頬杖をついていた手をヒラヒラさせた。男は拳を振り回してうなる。
「勝つ奴が決まってんだろうが!そういう情報を寄越せって言ってるんだよ!」
「つまり八百長って事?」
ヤードは笑顔を消して男の目を見つめた。
「この国で一番大きなお祭りで、八百長が行われてると?」
「俺はそう聞いたぜ」
男は胸を張って言ったが、ヤードの真剣な眼差しに少したじろいだ。
「た……確かな情報筋…だぜ」
「少なくともボクの知る限りでは、あの大会に八百長は無いね。
仮に八百長があったとして、そんなでかくて危ない情報をあの程度のギランで得る事が出来ると……本気で思ってたの?」
「う、うるせえ!何にしても昨日の負けで俺は終わりだよ!」
男は唾を飛ばしつつ腰の後ろに差していた短剣を取り出した。
「それでボクに八つ当たりする為にここへ来たんだ?」
平静を装いつつ、ヤードはこっそりと服の下のハサミへと手を伸ばした。男は今にも飛び出して来そうだ。
「お前のせいで負けたんだから当然だろ」
短剣を構えた男の体に力が入ったと思った時、その男の肩にポンと手が置かれた。
「私を呼んだ情報屋ってのは君ですか?」
新たに現れた、フードを被った背の高い青年は鋭い目をヤードから離さずに言う。「何だてめえは!」と男が噛みついたがそちらには一瞥もくれなかった。
「ヤード君でしたっけ?」
「そうボクが呼んだんだ、取立人のロイさん」
微笑んだヤードとは対照的に、取立人という言葉を聞いた男の顔から血の気が引いた。青年……ロイから距離を取ろうとするが、肩に置かれた手に強く掴まれてそれは叶わなかった。
「彼を探してるんじゃないかと思ってね」
「確かに」
ロイはここで初めて男の顔に目を向けた。口角をあげて笑みを作っているが、目は笑っていない。
「この男は金を返さずにヴァラシン組から逃げ回っていた者ですね」
「う…うわあああ」
男は甲高い悲鳴をあげて、手にしていた短剣を振り上げた。しかしその手はピタと止まる。男の目は、ロイの背後から出てきた二匹の犬に釘付けになっていた。闇から生まれた炎のような、明らかに普通の生き物では無いその犬たちに睨まれ、男は短剣を地面に落とした。
「思ったより賢いですね、手を出していたら私の猟犬たちにズタズタにされていましたよ。さて」
猟犬のロイは気を取り直したようにヤードに顔を向けた。
「有益な情報大変助かりました、お礼はいかほどがよろしいでしょう?」
ヤードは集まって来た雀たちに餌をやりながら答えた。
「今回はボクが怪我しなくて済んだからお代は貰わないよ」
そうですか、男を掴まえたままその場を立ち去ろうと振り返ったロイの足が止まる。敷地の入り口に更に二人の客が立っていたからだ。大きく足をさらけ出す衣装を身にまとった女性は腰に手を当てたまま言う。
「悪いけどその男、アタシも用があるんだよね」
奇麗な青い髪から角が覗いている、この竜人の女性にロイは見覚えがあった。
「ヴァラシンに出入りしてる取り立て屋の一人……パイピェンさんでしたか」
次にロイは彼女の頭の上に視線を送った。パイピェンの頭上に小さな生き物が座っている。一見すると服を着たペンギンというていの生き物は、ロイに向かって手を振っている。
「翡翠さん、あなたもこの男に用ですか」
翡翠と呼ばれた彼女……フェアリー種の女性はにこやかに返事をした。
「スイもその人にギラン貸しててな、ここにいるって聞いたから探しに来たら、そこでパイピェンと出会ったんや!」
隙を見て逃げようとしている男を更に強く拘束しながら、ロイはヤードに目を向けた。
「保険ですか」
「たくさん呼んだ方が安心でしょ?」
ヤードは満面の笑みで返した。ロイはため息をつく。
「どうすんのこれ」
パイピェンが腕を組み壁に背を持たれかけ、気だるげに言う。その上に居座る翡翠が、手にした肉叩きをポンポンしながら「スイは譲らんよ!」と言う。
「私の依頼人に伝えれば、もしかして一本化してくれるかもしれません。二人とも一緒にご足労願えませんか」
ロイがそう言うと、パイピェンと翡翠は「ほう」「助かる」などと答える。そして三人でガッチリと男を囲んで、この場を離れる事になった。
「これも何かの縁、今後とも御贔屓に~」
ヤードは去っていく三人の背中にゆっくり手を振ったのだった。
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お借りしました!
猟犬のロイ さん[illust/102024387]
取り立て屋 パイピェン さん[illust/102124021]
金貸し屋 翡翠 さん[illust/102014174]
自キャラ
雀使いのヤード[illust/101973368]
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問題ありましたらパラレルスルーでお願いします
【PFSoZ】illust/101965643
男は敷地内に入って来るなりそう怒鳴った。その声に驚いて、数羽の雀が飛び立った。
ここはヤードの拠点の一つ、入り組んだ路地裏の更に奥、地元の子供たちでさえ来ない空地である。生え放題の雑草の上に乱雑に積まれた葛籠の上に寝そべったまま、ヤードは顔だけあげた。
「やあ、いらっしゃい」
「いらっしゃいじゃねえよ!」
男は更に激高して続けた。
「おかげでこっちは大損だ、てめえの役立たずな情報のせいでよ!」
「心外だね、ボクの雀たちが集める情報ほど確かなものは無いのに。……闘技場での大会の話かな?」
王都で行われている剣と魔法の大会、一昨日やって来た男はその大会の勝者を教えてくれと言ってきたのである。
「だから試合に出る選手の腕前から体調、プライベートな事まで微に入り細を穿った情報をあげたのに。金額を考えたら大サービスだよ?」
ヤードは上半身を起こし頬杖を突いて微笑んだ。
「あんなもんで分かるわけないだろうが!」
男は一歩踏み出して三度怒鳴る。男が怒っている理由をヤードは知っている。賭博に負けたからだ。年に一度の大会、合法なものから違法なものまで各所で賭博が行われていた。
「俺が欲しかったのは勝つ奴の情報だ!」
「そうは言われても勝負の行方は時の運、未来予想なら情報屋じゃなくて占い師の所へ行ってもらわないと」
ヤードは頬杖をついていた手をヒラヒラさせた。男は拳を振り回してうなる。
「勝つ奴が決まってんだろうが!そういう情報を寄越せって言ってるんだよ!」
「つまり八百長って事?」
ヤードは笑顔を消して男の目を見つめた。
「この国で一番大きなお祭りで、八百長が行われてると?」
「俺はそう聞いたぜ」
男は胸を張って言ったが、ヤードの真剣な眼差しに少したじろいだ。
「た……確かな情報筋…だぜ」
「少なくともボクの知る限りでは、あの大会に八百長は無いね。
仮に八百長があったとして、そんなでかくて危ない情報をあの程度のギランで得る事が出来ると……本気で思ってたの?」
「う、うるせえ!何にしても昨日の負けで俺は終わりだよ!」
男は唾を飛ばしつつ腰の後ろに差していた短剣を取り出した。
「それでボクに八つ当たりする為にここへ来たんだ?」
平静を装いつつ、ヤードはこっそりと服の下のハサミへと手を伸ばした。男は今にも飛び出して来そうだ。
「お前のせいで負けたんだから当然だろ」
短剣を構えた男の体に力が入ったと思った時、その男の肩にポンと手が置かれた。
「私を呼んだ情報屋ってのは君ですか?」
新たに現れた、フードを被った背の高い青年は鋭い目をヤードから離さずに言う。「何だてめえは!」と男が噛みついたがそちらには一瞥もくれなかった。
「ヤード君でしたっけ?」
「そうボクが呼んだんだ、取立人のロイさん」
微笑んだヤードとは対照的に、取立人という言葉を聞いた男の顔から血の気が引いた。青年……ロイから距離を取ろうとするが、肩に置かれた手に強く掴まれてそれは叶わなかった。
「彼を探してるんじゃないかと思ってね」
「確かに」
ロイはここで初めて男の顔に目を向けた。口角をあげて笑みを作っているが、目は笑っていない。
「この男は金を返さずにヴァラシン組から逃げ回っていた者ですね」
「う…うわあああ」
男は甲高い悲鳴をあげて、手にしていた短剣を振り上げた。しかしその手はピタと止まる。男の目は、ロイの背後から出てきた二匹の犬に釘付けになっていた。闇から生まれた炎のような、明らかに普通の生き物では無いその犬たちに睨まれ、男は短剣を地面に落とした。
「思ったより賢いですね、手を出していたら私の猟犬たちにズタズタにされていましたよ。さて」
猟犬のロイは気を取り直したようにヤードに顔を向けた。
「有益な情報大変助かりました、お礼はいかほどがよろしいでしょう?」
ヤードは集まって来た雀たちに餌をやりながら答えた。
「今回はボクが怪我しなくて済んだからお代は貰わないよ」
そうですか、男を掴まえたままその場を立ち去ろうと振り返ったロイの足が止まる。敷地の入り口に更に二人の客が立っていたからだ。大きく足をさらけ出す衣装を身にまとった女性は腰に手を当てたまま言う。
「悪いけどその男、アタシも用があるんだよね」
奇麗な青い髪から角が覗いている、この竜人の女性にロイは見覚えがあった。
「ヴァラシンに出入りしてる取り立て屋の一人……パイピェンさんでしたか」
次にロイは彼女の頭の上に視線を送った。パイピェンの頭上に小さな生き物が座っている。一見すると服を着たペンギンというていの生き物は、ロイに向かって手を振っている。
「翡翠さん、あなたもこの男に用ですか」
翡翠と呼ばれた彼女……フェアリー種の女性はにこやかに返事をした。
「スイもその人にギラン貸しててな、ここにいるって聞いたから探しに来たら、そこでパイピェンと出会ったんや!」
隙を見て逃げようとしている男を更に強く拘束しながら、ロイはヤードに目を向けた。
「保険ですか」
「たくさん呼んだ方が安心でしょ?」
ヤードは満面の笑みで返した。ロイはため息をつく。
「どうすんのこれ」
パイピェンが腕を組み壁に背を持たれかけ、気だるげに言う。その上に居座る翡翠が、手にした肉叩きをポンポンしながら「スイは譲らんよ!」と言う。
「私の依頼人に伝えれば、もしかして一本化してくれるかもしれません。二人とも一緒にご足労願えませんか」
ロイがそう言うと、パイピェンと翡翠は「ほう」「助かる」などと答える。そして三人でガッチリと男を囲んで、この場を離れる事になった。
「これも何かの縁、今後とも御贔屓に~」
ヤードは去っていく三人の背中にゆっくり手を振ったのだった。
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お借りしました!
猟犬のロイ さん[illust/102024387]
取り立て屋 パイピェン さん[illust/102124021]
金貸し屋 翡翠 さん[illust/102014174]
自キャラ
雀使いのヤード[illust/101973368]
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問題ありましたらパラレルスルーでお願いします
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2022-12-08 02:15
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