試し斬り(ストーリー付き)
ボクシング部の練習場。
リングの上には、グローブをはめた男女2人。
他の部員達は先程ロードワークに出ていき、練習場には彼らしかいない。
彼女が先輩に教えてもらいたいことがあるので2人は後からロードワークに加わる、ということだった。
「明日香、教えてもらいたいことって何だ?」
明日香と呼ばれた小柄な美少女が振り向く。
「先輩、実はちょっと違うんです。教えてもらいたいっていうか…」
「?…教えてもらいたいっていうか、何だ?」
少女は男の目の前に進み、背が高い男の顔を上目遣いで見上げた。
「先輩…私のこと、思いっきり殴ってくれませんか?私、実はドMなんですよ…。
男の子のパンチでノックアウトされるのが夢で…私の夢、叶えてくれませんか?」
…絶句する男。
彼はかなりのハードパンチャーで、他校のボクシング部員からも恐れられている存在だ。
それは彼女も知らないはずがない。なのに…。
「ぜ、全力で殴るなんて…女の子にそんなことできるわけ…」
「私の夢、叶えてくれたら…私のこと、好きにしていいですよ。
先輩がしてほしいこと何でもしてあげますし、先輩のしたいことも何でもしていいですよ♪」
「な、何でも…」
男の顔色が変わる。明らかに動揺している。
「そう、何でも…」
「ほ、本当に『何でも』いいのか…」
「はい…先輩、ずっと私のこと、見てたでしょう?知ってるんですよ…
何でも、好きにしていい…私のこと、めちゃくちゃにしてもいいんですよ」
目の前の可憐な美少女に憧れを抱く者は校内に少なくなかったが、彼もその1人であった。
小柄で童顔だが、整った顔立ち…。
体操服で練習に励む彼女を眺めていると…ついつい体に目が行ってしまう。
形の良い胸、かわいいお尻、ブルマから伸びる太もも…あの体を、好きにしていいというのか?
顔は上気し、鼻息が荒くなり…すっかり秘めた欲望に支配され、普段のストイックなボクサーの姿は消え失せていた。
彼は普段は決して愚かな人間ではない。
しかし、そんな彼に我を失わせるほど、ボクシングだけに打ち込む青春は禁欲的で…そんな童貞の彼にとってあまりにも彼女は魅力的だった。
そんな彼女に、扇情的な言葉をかけられて…彼は欲望に狂った。
「…その気になってくれたってことで良さそうですね。じゃあ、次のゴングで始めましょう」
彼女の言葉もろくに耳に入っていないようで、男は落ち着き無くそわそわしている。
そして、程なくゴングは鳴った。
(カーン)
まだゴングの音色が消えていないうちに男が襲いかかる。
もう、男の頭の中は一色だった。この美少女を殴り倒して、思い通りにする…。
彼にはもはや一切の迷いもなく、彼女に向けてその剛腕を解き放った。
美少女の顔面に右拳が炸裂し醜く歪む…
…ことはなかった。
彼女は素早くサイドステップし、男の拳は虚しく空を切る。
彼には理解できなかった。
彼女が避けた意味も。
彼女がくすりと浮かべた微笑みの理由も。
そして、彼女が強く硬く握りしめたその右拳の行方も。
次の瞬間…
一切の躊躇も容赦もなく撃ち出された彼女の右拳は、男の顔面下半分に突き刺さっていた。
突進してきた男の勢いに加え、大振りのパンチの派手なアクション。
その力が全て…いや、倍にもなって跳ね返ったカウンターパンチは、男の鼻を潰し、前歯にヒビを入れた。
彼女のグローブと男の顔の隙間から鼻血が溢れ出る。
男は…涙を流していた。
彼女のパンチのもたらした激痛によるものか、それとも騙された心の痛みゆえか…
何で?どうして?そっちが頼んできたんじゃ…痛えよ…何なんだよ…
口を塞がれた彼の言葉の代わりに、ぶっ、ぶしゅっ…と鼻血が噴き出る。
そして彼女は…笑っていた。
「…気が変わっちゃいました。ごめんなさい、先輩♪
私のパンチ、どうですかぁ?手応えはあったんですけど…って、もう聞こえてないかな?」
彼女がぺろっと舌を出すと、男の黒目が大きく揺れ、白目となり…
彼女のグローブがゆっくりと引かれると、支えを失った男の体はそのまま前のめりに顔からマットに倒れ込んだ。
びちゃり、と音がしてマットに血が飛び散る。
びくびくと痙攣している男を、彼女は目を細めて眺めた。
彼女には悩みがあった。
彼女は体が小さく、最軽量級の中でもひときわ小さい部類になる。
そして、比較的脚は長いのだが、腕が短い…それは即ちリーチの短さというボクサーとしての欠点。
試合になって、相手にガードを固めて距離を取られると、俊敏な彼女でもなかなか相手にパンチを当てることは難しい。逆に、自分よりリーチの長いパンチを一方的に浴びるばかりだ。
だからと言って、強引に距離を詰めたとしてもガードをこじ開けるようなパンチがあるわけでもない…
そんな彼女が考えた作戦…それが、カウンターパンチ。
わざと隙を見せ、とどめを刺しに来た相手を逆に仕留める…
判定勝ちを狙っているボクサーでも、本当はKOやRSCで勝ちたい。ポイントで勝つよりも、相手を叩きのめして勝ちたい…それがボクサーの本能だ。それを利用する。
油断して打ってきたパンチをかわして、無防備な顔面にパンチを撃ち込む…相手の力を利用するから、こっちは大振りはいらない。短く、鋭く…。
様々な映像を見て、頭の中でイメージトレーニングを繰り返し、実戦でもうまくいくだろうという手応えは得ていた。
ただ、慎重な彼女は、実際の試合の前に実践をしておきたかった。
…そう、言わば『試し斬り』を。
まぁ、今回は隙を見せたというよりは誘惑したというほうが正しいが。
「ふふっ、期待以上…すっごい…こんなになっちゃうんだ、私のパンチで…」
恐ろしいパンチの実験台となった哀れな男をうっとりと眺めていた彼女。
そこに、練習場に何人かの集団が歩いてくる気配を感じて…彼女は叫んだ。
「だ、誰か来てください!大変なんです!!!」
彼女の悲鳴を聞いて駆け込んでくる数人のボクシング部員達と顧問の先生。
「おい、どうした…って、えっ、何があったんだ!?」
「せ、先輩にカウンターの撃ち方を教わってたら…先輩が躓いたところに私のパンチが…」
「わかった、大丈夫だから安心しろ…保健の先生呼べ、いや救急車か?」
慌ただしく動いている顧問と部員達。
何故彼を選んだか。
彼が彼女に気があったから…それはそうだ。
だが、一番の理由は、彼がプライドが高いということ…
騙し討ちだったとはいえ、まさか色仕掛けに乗った上で女子部員に失神KOさせられた、なんて彼が明かすはずもない。
事故だった…彼女がそう言っていると聞いた彼は、口をつぐむだろう。
顧問も、優しい人だが事なかれタイプ…深く追求はしないはず。
あー、早く次の試合来ないかな、楽しみ…
でも、どうせならまた誰か男子部員殴ってみたいな…今度は誰がいいかな?
慌ただしい練習場の隅で、彼女は人知れず口元を歪ませていた。
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他の部員達は先程ロードワークに出ていき、練習場には彼らしかいない。
彼女が先輩に教えてもらいたいことがあるので2人は後からロードワークに加わる、ということだった。
「明日香、教えてもらいたいことって何だ?」
明日香と呼ばれた小柄な美少女が振り向く。
「先輩、実はちょっと違うんです。教えてもらいたいっていうか…」
「?…教えてもらいたいっていうか、何だ?」
少女は男の目の前に進み、背が高い男の顔を上目遣いで見上げた。
「先輩…私のこと、思いっきり殴ってくれませんか?私、実はドMなんですよ…。
男の子のパンチでノックアウトされるのが夢で…私の夢、叶えてくれませんか?」
…絶句する男。
彼はかなりのハードパンチャーで、他校のボクシング部員からも恐れられている存在だ。
それは彼女も知らないはずがない。なのに…。
「ぜ、全力で殴るなんて…女の子にそんなことできるわけ…」
「私の夢、叶えてくれたら…私のこと、好きにしていいですよ。
先輩がしてほしいこと何でもしてあげますし、先輩のしたいことも何でもしていいですよ♪」
「な、何でも…」
男の顔色が変わる。明らかに動揺している。
「そう、何でも…」
「ほ、本当に『何でも』いいのか…」
「はい…先輩、ずっと私のこと、見てたでしょう?知ってるんですよ…
何でも、好きにしていい…私のこと、めちゃくちゃにしてもいいんですよ」
目の前の可憐な美少女に憧れを抱く者は校内に少なくなかったが、彼もその1人であった。
小柄で童顔だが、整った顔立ち…。
体操服で練習に励む彼女を眺めていると…ついつい体に目が行ってしまう。
形の良い胸、かわいいお尻、ブルマから伸びる太もも…あの体を、好きにしていいというのか?
顔は上気し、鼻息が荒くなり…すっかり秘めた欲望に支配され、普段のストイックなボクサーの姿は消え失せていた。
彼は普段は決して愚かな人間ではない。
しかし、そんな彼に我を失わせるほど、ボクシングだけに打ち込む青春は禁欲的で…そんな童貞の彼にとってあまりにも彼女は魅力的だった。
そんな彼女に、扇情的な言葉をかけられて…彼は欲望に狂った。
「…その気になってくれたってことで良さそうですね。じゃあ、次のゴングで始めましょう」
彼女の言葉もろくに耳に入っていないようで、男は落ち着き無くそわそわしている。
そして、程なくゴングは鳴った。
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まだゴングの音色が消えていないうちに男が襲いかかる。
もう、男の頭の中は一色だった。この美少女を殴り倒して、思い通りにする…。
彼にはもはや一切の迷いもなく、彼女に向けてその剛腕を解き放った。
美少女の顔面に右拳が炸裂し醜く歪む…
…ことはなかった。
彼女は素早くサイドステップし、男の拳は虚しく空を切る。
彼には理解できなかった。
彼女が避けた意味も。
彼女がくすりと浮かべた微笑みの理由も。
そして、彼女が強く硬く握りしめたその右拳の行方も。
次の瞬間…
一切の躊躇も容赦もなく撃ち出された彼女の右拳は、男の顔面下半分に突き刺さっていた。
突進してきた男の勢いに加え、大振りのパンチの派手なアクション。
その力が全て…いや、倍にもなって跳ね返ったカウンターパンチは、男の鼻を潰し、前歯にヒビを入れた。
彼女のグローブと男の顔の隙間から鼻血が溢れ出る。
男は…涙を流していた。
彼女のパンチのもたらした激痛によるものか、それとも騙された心の痛みゆえか…
何で?どうして?そっちが頼んできたんじゃ…痛えよ…何なんだよ…
口を塞がれた彼の言葉の代わりに、ぶっ、ぶしゅっ…と鼻血が噴き出る。
そして彼女は…笑っていた。
「…気が変わっちゃいました。ごめんなさい、先輩♪
私のパンチ、どうですかぁ?手応えはあったんですけど…って、もう聞こえてないかな?」
彼女がぺろっと舌を出すと、男の黒目が大きく揺れ、白目となり…
彼女のグローブがゆっくりと引かれると、支えを失った男の体はそのまま前のめりに顔からマットに倒れ込んだ。
びちゃり、と音がしてマットに血が飛び散る。
びくびくと痙攣している男を、彼女は目を細めて眺めた。
彼女には悩みがあった。
彼女は体が小さく、最軽量級の中でもひときわ小さい部類になる。
そして、比較的脚は長いのだが、腕が短い…それは即ちリーチの短さというボクサーとしての欠点。
試合になって、相手にガードを固めて距離を取られると、俊敏な彼女でもなかなか相手にパンチを当てることは難しい。逆に、自分よりリーチの長いパンチを一方的に浴びるばかりだ。
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そんな彼女が考えた作戦…それが、カウンターパンチ。
わざと隙を見せ、とどめを刺しに来た相手を逆に仕留める…
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ただ、慎重な彼女は、実際の試合の前に実践をしておきたかった。
…そう、言わば『試し斬り』を。
まぁ、今回は隙を見せたというよりは誘惑したというほうが正しいが。
「ふふっ、期待以上…すっごい…こんなになっちゃうんだ、私のパンチで…」
恐ろしいパンチの実験台となった哀れな男をうっとりと眺めていた彼女。
そこに、練習場に何人かの集団が歩いてくる気配を感じて…彼女は叫んだ。
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「せ、先輩にカウンターの撃ち方を教わってたら…先輩が躓いたところに私のパンチが…」
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彼が彼女に気があったから…それはそうだ。
だが、一番の理由は、彼がプライドが高いということ…
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事故だった…彼女がそう言っていると聞いた彼は、口をつぐむだろう。
顧問も、優しい人だが事なかれタイプ…深く追求はしないはず。
あー、早く次の試合来ないかな、楽しみ…
でも、どうせならまた誰か男子部員殴ってみたいな…今度は誰がいいかな?
慌ただしい練習場の隅で、彼女は人知れず口元を歪ませていた。
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2022-12-09 18:30
Comments (1)
Wow. She didn't even care what happened to her Senpai, she just laughed. She's sadistic isn't she?