タイシンとトレーナーと聖なる日
まだ日も昇らない早朝、白い吐息が正門前に増えていく。皆、悴んだ指先で眠い目を擦り、出張先へ向かうバスを待っている。重苦しいスーツを身にまとい、憂鬱そうにうなだれている者もしばしば。それもそのはず。何せ今日は、世間では聖なる日なのだから。子供たちどころか大人たちでさえ眠っているであろう時間に俺たちは何をしているのだろうか。仕事。確かに一言で片付けるならそうだろう。別に仕事自体に文句はない。この職業は天職だと思っているし、担当ウマ娘との日々も楽しい。だからこそ、突然入った今日12月25日の出張が気乗りしないのだ。
だが俺は今、満ち足りている。これから俺の元に、ぶっきらぼうのサンタクロースがやってくるからだ。冷たい指先に白い息をかけながら彼女を待つ。ふと周りに目を向けると、仰々しい正装にちらほらとジャージ姿が混ざっている。自分の他にも朝練ついでにサンタクロースがやってきているようだ。微笑ましい光景に心を温めていると、聞き慣れた、優しい声がかかる。
「トレーナー、おはよう。」
振り返ると、小さな手いっぱいに包みを持つ彼女の姿があった。実家で学んだのだろうか、どこか、花束を想起させるかわいらしいラッピングだ。包装に見惚れる自分を制止し、言葉を返す。
「おはようタイシン!」
挨拶を返すと、彼女はほんの少しだけ微笑む。目の前にいなければ分からないほどに。少しあたりを見渡した後、気恥ずかしそうに手に持った包装を手渡してくる。
「・・・はいこれ。メリークリスマス。」
受け取ると、大きさの割には結構軽い。何が入っているのだろうか。
「ありがとうタイシン!今開けてもいいか?」
感謝の意を伝え、その場で開けていいかどうか尋ねる。彼女は少しあきれたように、そして少し嬉しそうに答える。
「いいよ。というか、そのために今持ってきたんだし。」
丁寧なラッピングを慎重に開けると、中には小さめのクッションのようなものがあった。あまり見慣れていない形のため注意深く観察していると、察した彼女が教えてくれた。
「それ、ネックピローね。出張で長距離移動するときにでも使って。」
以前、移動中に中々寝付けないと言ったことを覚えていてくれていたのだろうか。実用性もあり、配色も赤緑のクリスマスカラーだ。なるほど、勉強になる。
「ありがとうタイシン!大事に使わせて貰うからな!」
「大事にしないと蹴っ飛ばすからね。」
今回は自分の脚の安否を心配しなくても良さそうだ。だって、こんなにも穏やかな蹴る宣言は、聞いたことが無いから。
ふと周りに目を向ける、何人かのトレーナーがこちらを見ている。口元の緩みを抑えようと頬の内側を少し噛む。それでも緩んでしまう口元を、痒いふりして手で押さえると、少しうつむいた彼女が目に入る。何か失言でもしたのか思う間もなく、彼女は寂しげに言う。
「・・・ねぇ、ホントに夜中までかかるの?」
予定だとそうなっていると事前に伝えておいた。確かに彼女の言い分は尤もだ。何故、面識もない偉い人の話を聞きにわざわざ一日かける必要があるのか。出来ることなら、彼女のそばにいたい。しかしそうしてしまうと、彼女のそばにいる権利そのものを失いかねない。自己を殺し、多数に迎合しなければならない大人というのはつらい。今だけ子供に戻って駄々をこねたいものだ。
「・・・そうだな。ごめんな・・・。」
アンタは悪くない、何度目か分からないその台詞が来ると思った。しかし、耳に届いたのは、彼女の声とはかけ離れた陽気な男の声だった。
「話は聞かせて貰った!その悩み、俺が解決してやろう。」
音も無く背後に立たれたため、のけぞりながら振り返る。誰だと問う声を発する直前、それが顔見知りであることに気づいた。
「せ、先輩!?」
声の主は、トレーナー学校の頃からお世話になっている先輩だった。同じ職場ということで、度々顔を合わせてはいるが何故か久しぶりな感じがする。どういうことかと尋ねようとした時、俺よりもほんの少し早く、担当が警戒混じりの声で尋ねる。
「・・・どういうこと・・・ですか。」
先輩は、待ってましたと言わんばかりに答える。
「いや、な。この手の緊急の出張は何も今回が初じゃない。前回の出張と特に変わりが無いなら、他人に仕事を押しつければ半日で帰ってこれる。」
「えっと・・・?」
「おいおい察しが悪いな。・・・俺が引き受けてやろう、その仕事。担当とクリスマス過ごしたいだろ?」
まさかの提案に一瞬固まる。ありがたい話だが・・・担当とクリスマスを過ごしたいのは俺
だけじゃ無いはずだ。
「でも!先輩はどうするんですか!先輩の担当だって・・・」
「俺か?ちょうど昨日、プレゼント選びをミスって担当に今日の予定フラれたから気にしなくていいぞ?」
「えぇ・・・。何渡したんですか・・・。」
「特選高級醤油詰め合わせだが?」
お歳暮じゃないんだから・・・。ふと担当に目を向けると、彼女は小刻みに震えながら俯い
ている。タイシン、そこは笑ってもいいぞ。
ともあれ、願ってもない幸運だ。先輩には悪いがありがたくパシらせていただこう。
「タイシン、まぁ・・・そういうわけで夜までには帰ってこれそうだ。・・・イルミネーション、見に行こうか。」
「・・・ん、分かった。」
彼女の控えめな返事と同時にバスの音が聞こえてくる。どうやら時間のようだ。
「それじゃ、行ってくる。」
「ちょっと待って。」
振り向く俺を呼び止め、彼女は近づいてくる。目の前で立ち止まり、背伸びをしながら俺の首元に手を伸ばす。
「ネクタイ、曲がってる。しっかりしてよ、帰ってくるんでしょ?」
周りの同僚の視線が痛い・・・。だが、おかげでやる気は出た。結び終えた彼女と、手を振り合いながらバスに乗る。席に座り、首の後ろにネックピローを添える。到着までの数時間、いい夢が見れそうだ。
どうもどらいかれーです。前回、投稿は毎週日曜24時(月曜0時)と言ったな?あれは嘘だ。というのは冗談でして、1作目でクリスマスについて触れてたんで、クリスマス回をぶっ込みました。まぁ番外編ってことでお願いします。というか投稿遅れてすいません。友人宅で鍋パしてたら帰りが0時回ってました。このキャプションについてですが、小説書くなら恐らくこんな感じになります。試験的に読んでくれるとありがたいです。
さてさて、世間はクリスマスですが当然恋人は無く。まぁ予定はあるのでぼっちで家でゴロゴロ・・・にはならなくて安心。というかまた雪降ったんですよね。ホワイトクリスマスというかホワイトアウトクリスマスだよ。寒いって?寒波のせいだよ。
そういえば皆さん、本日更新のうまゆるにタイシンが出演するそうで。とりあえず100回ほどヘビロテしますかね。動画をヘビロテと言うのかは知りませんが。
次回は明日更新となってます。今回のはイレギュラーなので、通常の作品の更新は通常通りやります。ではまた次回会いましょう。次回はトレーナーの意外な弱点が出てきます。お楽しみに~。
聖なる1歩半のような文章が書けるようになりたい・・・。
だが俺は今、満ち足りている。これから俺の元に、ぶっきらぼうのサンタクロースがやってくるからだ。冷たい指先に白い息をかけながら彼女を待つ。ふと周りに目を向けると、仰々しい正装にちらほらとジャージ姿が混ざっている。自分の他にも朝練ついでにサンタクロースがやってきているようだ。微笑ましい光景に心を温めていると、聞き慣れた、優しい声がかかる。
「トレーナー、おはよう。」
振り返ると、小さな手いっぱいに包みを持つ彼女の姿があった。実家で学んだのだろうか、どこか、花束を想起させるかわいらしいラッピングだ。包装に見惚れる自分を制止し、言葉を返す。
「おはようタイシン!」
挨拶を返すと、彼女はほんの少しだけ微笑む。目の前にいなければ分からないほどに。少しあたりを見渡した後、気恥ずかしそうに手に持った包装を手渡してくる。
「・・・はいこれ。メリークリスマス。」
受け取ると、大きさの割には結構軽い。何が入っているのだろうか。
「ありがとうタイシン!今開けてもいいか?」
感謝の意を伝え、その場で開けていいかどうか尋ねる。彼女は少しあきれたように、そして少し嬉しそうに答える。
「いいよ。というか、そのために今持ってきたんだし。」
丁寧なラッピングを慎重に開けると、中には小さめのクッションのようなものがあった。あまり見慣れていない形のため注意深く観察していると、察した彼女が教えてくれた。
「それ、ネックピローね。出張で長距離移動するときにでも使って。」
以前、移動中に中々寝付けないと言ったことを覚えていてくれていたのだろうか。実用性もあり、配色も赤緑のクリスマスカラーだ。なるほど、勉強になる。
「ありがとうタイシン!大事に使わせて貰うからな!」
「大事にしないと蹴っ飛ばすからね。」
今回は自分の脚の安否を心配しなくても良さそうだ。だって、こんなにも穏やかな蹴る宣言は、聞いたことが無いから。
ふと周りに目を向ける、何人かのトレーナーがこちらを見ている。口元の緩みを抑えようと頬の内側を少し噛む。それでも緩んでしまう口元を、痒いふりして手で押さえると、少しうつむいた彼女が目に入る。何か失言でもしたのか思う間もなく、彼女は寂しげに言う。
「・・・ねぇ、ホントに夜中までかかるの?」
予定だとそうなっていると事前に伝えておいた。確かに彼女の言い分は尤もだ。何故、面識もない偉い人の話を聞きにわざわざ一日かける必要があるのか。出来ることなら、彼女のそばにいたい。しかしそうしてしまうと、彼女のそばにいる権利そのものを失いかねない。自己を殺し、多数に迎合しなければならない大人というのはつらい。今だけ子供に戻って駄々をこねたいものだ。
「・・・そうだな。ごめんな・・・。」
アンタは悪くない、何度目か分からないその台詞が来ると思った。しかし、耳に届いたのは、彼女の声とはかけ離れた陽気な男の声だった。
「話は聞かせて貰った!その悩み、俺が解決してやろう。」
音も無く背後に立たれたため、のけぞりながら振り返る。誰だと問う声を発する直前、それが顔見知りであることに気づいた。
「せ、先輩!?」
声の主は、トレーナー学校の頃からお世話になっている先輩だった。同じ職場ということで、度々顔を合わせてはいるが何故か久しぶりな感じがする。どういうことかと尋ねようとした時、俺よりもほんの少し早く、担当が警戒混じりの声で尋ねる。
「・・・どういうこと・・・ですか。」
先輩は、待ってましたと言わんばかりに答える。
「いや、な。この手の緊急の出張は何も今回が初じゃない。前回の出張と特に変わりが無いなら、他人に仕事を押しつければ半日で帰ってこれる。」
「えっと・・・?」
「おいおい察しが悪いな。・・・俺が引き受けてやろう、その仕事。担当とクリスマス過ごしたいだろ?」
まさかの提案に一瞬固まる。ありがたい話だが・・・担当とクリスマスを過ごしたいのは俺
だけじゃ無いはずだ。
「でも!先輩はどうするんですか!先輩の担当だって・・・」
「俺か?ちょうど昨日、プレゼント選びをミスって担当に今日の予定フラれたから気にしなくていいぞ?」
「えぇ・・・。何渡したんですか・・・。」
「特選高級醤油詰め合わせだが?」
お歳暮じゃないんだから・・・。ふと担当に目を向けると、彼女は小刻みに震えながら俯い
ている。タイシン、そこは笑ってもいいぞ。
ともあれ、願ってもない幸運だ。先輩には悪いがありがたくパシらせていただこう。
「タイシン、まぁ・・・そういうわけで夜までには帰ってこれそうだ。・・・イルミネーション、見に行こうか。」
「・・・ん、分かった。」
彼女の控えめな返事と同時にバスの音が聞こえてくる。どうやら時間のようだ。
「それじゃ、行ってくる。」
「ちょっと待って。」
振り向く俺を呼び止め、彼女は近づいてくる。目の前で立ち止まり、背伸びをしながら俺の首元に手を伸ばす。
「ネクタイ、曲がってる。しっかりしてよ、帰ってくるんでしょ?」
周りの同僚の視線が痛い・・・。だが、おかげでやる気は出た。結び終えた彼女と、手を振り合いながらバスに乗る。席に座り、首の後ろにネックピローを添える。到着までの数時間、いい夢が見れそうだ。
どうもどらいかれーです。前回、投稿は毎週日曜24時(月曜0時)と言ったな?あれは嘘だ。というのは冗談でして、1作目でクリスマスについて触れてたんで、クリスマス回をぶっ込みました。まぁ番外編ってことでお願いします。というか投稿遅れてすいません。友人宅で鍋パしてたら帰りが0時回ってました。このキャプションについてですが、小説書くなら恐らくこんな感じになります。試験的に読んでくれるとありがたいです。
さてさて、世間はクリスマスですが当然恋人は無く。まぁ予定はあるのでぼっちで家でゴロゴロ・・・にはならなくて安心。というかまた雪降ったんですよね。ホワイトクリスマスというかホワイトアウトクリスマスだよ。寒いって?寒波のせいだよ。
そういえば皆さん、本日更新のうまゆるにタイシンが出演するそうで。とりあえず100回ほどヘビロテしますかね。動画をヘビロテと言うのかは知りませんが。
次回は明日更新となってます。今回のはイレギュラーなので、通常の作品の更新は通常通りやります。ではまた次回会いましょう。次回はトレーナーの意外な弱点が出てきます。お楽しみに~。
聖なる1歩半のような文章が書けるようになりたい・・・。
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2022-12-25 01:53
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タイシン×トレーナーはよき
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