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世界チャンピオン(11)

「第4ラウンド」

無敗の世界チャンピオンと、十六歳の少女ボクサーのエキシビションマッチ。

そのショッキングな試合を、チャンピオンの婚約者は最前列の席で、青ざめた表情で見つめていた。

婚約者(楽な試合だと聞いていたのに・・・)

第4ラウンドになっても、少女ボクサー、メイ・リンの攻勢は止まらなかった。

その攻勢を華麗なフットワークで躱していたチャンピオンだったが、第4ラウンドに入ると、足を止めてガードをする場面が多くなった。

メイ・リンはガードの上からもお構いなしに、強烈なパンチを打ち込んでくる。

チャンピオンは顔を俯けて、ガードに徹する。

するとメイ・リンはますます勢いづいて、パワフルな強打を連続して叩き込み続け、チャンピオンのガードをこじ開けようとする。

チャンピオンはさらに顔を俯けて、背中を丸めるようにして、ガードを固める。

それを見たメイ・リンはさらにヒートアップして、太い腕をダイナミックに振るい、チャンピオンのガードを徹底的に破壊しようと、連打を繰り出し続ける。

・・・その壮絶なラッシュの迫力に、観客はどよめきを上げ、興奮が会場全体に広がっていく。

婚約者の右隣に座る女性が、メイ・リンの名を叫んで、手を叩いた。

「キャーーッ! すごーい!」

左隣のボクシングファンらしい男性は、メイ・リンの戦いぶりに感心したように呟いた。

「これじゃ、どっちがチャンピオンか分からんな!」

そのような声を聞きながら、チャンピオンの婚約者は、ただリング上の光景を見つめているしかなかった。

婚約者(僕は、僕だけは、彼女を応援しているぞ・・・!)

彼は祈るような思いとともに、チャンピオンとメイ・リンの攻防を見つめていた。
 
 
・・・だが時々、自分の目がメイ・リンに釘付けになっていることに、彼は気付いていた。

リングの上で躍動するメイ・リンの肉体は、汗にまみれて美しく輝き、官能的だった。

婚約者(どうして彼女の対戦相手に見惚れているんだ、僕は・・・)

婚約者(もっと純粋に試合に集中しろ! 彼女を応援しなきゃ・・・)

そのとき、婚約者の視線に気付いたメイ・リンがこちらを見た。

そして一時攻撃の手を休めて・・・メイ・リンは彼に微笑んで、ウインクをした。

試合前にメイ・リンの脱いだガウンを受け止めた彼のことを、自分のファンだと思ったのだろう。

チャンピオンの婚約者は、体が痺れるような感覚を味わい、あわてて顔をそらし目を閉じた。

メイ・リンは「あれ? 私のファンじゃなかったかな?」という顔をして、気を取り直して、またチャンピオンへの攻撃を再開した。

その後しばらく、チャンピオンの婚約者は、目を閉じたままだった。

婚約者(こんな感情は危険だ・・・ あの子の見た目に惑わされないようにしなきゃ・・・)

だが目を閉じていても、チャンピオンのガードを打ちつける、メイ・リンのパンチの凄まじい打撃音が響き続けている・・・

(つづく)

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2023-01-29 22:35

 TSUYO


Comments (6)

ferallius 2023-01-30 15:44

5 entire one-sided rounds. This is getting really dull if this keeps going on.

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AzureHope 2023-01-30 03:19

A big counter is going to be coming up I can feel it

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Pai 2023-01-29 23:59

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