傘、入ってもいいんですよね?

「下校時間、教室で土砂降りの外を茫然と見るゆかりを見かけた。
おそらく傘がないのだろう、そう思って一緒に傘に入らないかと提案してみたら、
声色も顔色もひとつ変えずいつもの調子で小さく『ありがとうございます』とよそよそしく返事をされた。

下駄箱へ向かう途中、間違えて無駄に大きな傘を買ってしまった失敗談を面白おかしく話してみるも、
まだ壁に向かって話した方がリアクションがあると言っても過言じゃない程の無反応。
幸先の悪さを感じながら下駄箱に着くと、外の景色を見て二人して茫然と立ち尽くしてしまう。

さっきの雨が嘘かのように晴れていた。
あんな一瞬で雨が完全に止んだのだ。

何も言わず靴に履き替えるゆかりを見て、一緒に帰ろうなんて言う気にもならなかった。
あらゆる感情が心の中で渦巻くのに耐えきれず小さくため息をして自分も靴に履き替えて歩き出すと、
軒先の下でゆかりが空を見上げながら立って待っている事に気が付いた。

心臓が一拍、強く跳ねるのを感じると、何を期待してか同じように軒先の下に並んで立った。

さっきまでの感情の嵐に言葉が引っかかってしまってしどろもどろしていたら、

ゆかりが、こちらを顔を覗くように上半身を倒して、
声色も顔色もひとつ変えずいつもの調子で小さく、
こう言った。

『傘、入ってもいいんですよね?』」

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2023-07-13 21:55

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Comments (4)

ponkan 2023-07-16 21:20

キャプションでイラストの魅力がぐっと高まってるのいいですね~

朧月皆無 2023-07-15 07:49

revorimit1945 2023-07-14 11:35

んかわいい…

P Nut 2023-07-14 04:12

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