静寂の涙 (ダンまち本編IF)

【ヘスティア・ファミリア】団長のベル・クラネルがある日突然行方不明となり、それと同時に迷宮都市オラリオは女神フレイヤによって魅了された。
そしてその魅了によって、『ベル=【フレイヤ・ファミリア】団員である』と大多数の人物の記憶が改竄された。
しかし…その時に地上にいたにも関わらず、その魅了が効かなかった者がいた。
その人物は事件が起きた日の夜、ベルが帰ってこないことに不審に思い、所属していたファミリアの団員に対して彼が帰ってないか確認した。
しかし団員の口から出た言葉は、耳を疑うものだった。

「ベルって…【フレイヤ・ファミリア】のベル・クラネルのことですか?」

それを聞いた人物は即座に外に出て、ベルがいないか都市中を探し回る。
しかし彼はどこにも見当たらない。
もしかしてと思ったその人物はすぐに【フレイヤ・ファミリア】本拠地に向かって走り出した。

その人物の名は『アルフィア』。
ベルの義理の母親であり、【静寂】の二つ名を持つ『レベル9』の冒険者だった。

アルフィアは【フレイヤ・ファミリア】本拠にいた門番を蹴散らし、強引に中へと入る。
しかし彼女が目にしたのは…

傷ついて動かなくなった彼女の義理の息子…ベルだった…。

ベルはフレイヤが彼を我が物にしようと実力行使に出て誘拐され、彼女のオラリオへの魅了と同時に彼の大切な人たちから強引に切り離され、憧憬であった【ロキ・ファミリア】の女性冒険者である【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインから拒絶された挙げ句、『洗礼』の名のもとに容赦ない暴行を受けて何度も死の淵を彷徨い、その結果…彼は心も体も壊されてしまった…。

その姿を見たアルフィアは息はあるものの血塗れで生気を失った瞳のベルを抱き寄せ、号泣した…。

暫くして彼女はベルを隅の方に寝かせ…待ち受ける【フレイヤ・ファミリア】団員に向き直る。

「貴様ら…」

アルフィアはボソリと呟く…。

「よくも…」

ゆっくりと…。

「私の義息子を…」

ゆっくりと一歩ずつ動き…足を止めた…。
そして…

「よくも私の義息子を壊してくれたなあああああぁぁぁっっ!!」

全身から禍々しいオーラを排出し、外にも聞こえるような大声で泣き叫んだ。

「覚悟しろ貴様ら! 一人残らず潰してくれる!!」

その直後…【フレイヤ・ファミリア】に対する蹂躙劇の開始と同時に、オラリオ全土を音源とした大鐘楼の音が鳴り響いた。
その音は遠く離れた極東にも聞こえたという。

音が鳴り止み、騒ぎを聞いて駆けつけた【ガネーシャ・ファミリア】が見たのは…ベルを抱きかかえて涙を流すアルフィアと、屍と化した【フレイヤ・ファミリア】団員だった者たちの姿だった…。
この瞬間、【フレイヤ・ファミリア】は壊滅した。

フレイヤは事件の首謀者として拘束されてその後送還され、アルフィアは義息子の敵討ちが認められたものの、『【フレイヤ・ファミリア】を壊滅させた』行為は無視できないとして冒険者資格の剥奪と、オラリオからの永久追放が言い渡されることになった。

後日、アルフィアとベルはオラリオから去るが、ヘスティアとリリルカ、春姫、そして元【アストレア・ファミリア】のリューが行動を共にした。

一同はベルが生まれ育った村に身を置くことになるが、心が壊れてしまったベルは廃人と化し…冒険者への復帰は勿論、誰に話をかけられても反応を示さなくなってしまった…。

アルフィアたちはベルをこんな風にしてしまったことに泣き崩れ、後悔し…以後の人生全てをベルの介護に充てたのだった…。