べとべとさん
奈良県宇陀郡でいう怪異で、夜道を行く時に後ろから誰かがつけている音が聞こえることがあり、その時は道の端に寄って「べとべとさん先へお越し」というと足音が聞こえなくなるというものでこれは民俗学の視点から見たもので、柳田國男の「妖怪名彙」にも名前が載っているが、有名なのは鳥取県境港市出身の水木しげる(武良茂)が幼少期に出会った話がよく知られている。
『妖怪画談』の「出会った妖怪たち」の章ではこのように語られている。
小学生の頃の夏に茂少年が兄と共に下駄を履いて歩いていると、背後から同じような下駄の音がした。恐ろしくなり逃げ帰って、化け物に詳しいお婆さん(のんのんばあ)に尋ねるとそれはべとべとさんだと教えられた。脇に寄って「べとべとさん先へおこし」と言えば、下駄の音は通り過ぎるものだという。
水木しげるの回顧ではのんのんばあこと景山ふさは「拝み手」を称する男性とともに武良家の近所の家に住んでいたそうだ。
民間信仰や妖怪の知識を豊富に持ち、幼い頃の水木にはのんのんばあの「教育」を通じて目に見えないものや異界の存在に興味を持ったという。
べとべとさんが前述した奈良県以外の地域で語られていた証拠は希薄である。資料の有無を根拠に判断するならば境港における茂少年の間で「べとべとさん」のような体験や伝承があったとしても、それが「べとべとさん」という名称で語られてたかは疑問である。
『決定版日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』では水木の体験を強調するように「似たようなものは全国的にいるように思われる」という文言がある。
べとべとさんが奈良に伝わる妖怪だということを足立論行に指定された際に水木はのんのんばあが関西で女中をしてた頃に仕入れた知識を話したのだろう、必ずしも山陰の伝承だけでは限らないと釈明している。
水木の兄の武良宗平はのんのんばあについて「ごく普通の田舎の婆さん。際立った能力があるとか、霊的なことに関して特別な知識を持っているとか、そんなことは全然なかった」と語っており、水木の回想と作品から受ける印象とは異なる人物像が垣間見えるだろう。
しかし、水木しげるにとってはのんのんばあが大きな存在だったことは間違いない。水木は作家活動の中で、彼女の人格に自身の妖怪観を投影して妖怪とは何かを考えて過去の再構築という形で現在の自身のあり様を語ってたのだろう。
水木の妻の武良布枝の半生をモデルとしたNHKのテレビドラマ『ゲゲゲの女房』では安来出身の主人公が幼少期にべとべとさんに出会うシーンがあり、これも水木が語るエピソードに着想を得たシーンである。
参考文献
村上健司「妖怪事典」
朝里樹監修 寺西政洋著「日本怪異妖怪事典 中国」
『妖怪画談』の「出会った妖怪たち」の章ではこのように語られている。
小学生の頃の夏に茂少年が兄と共に下駄を履いて歩いていると、背後から同じような下駄の音がした。恐ろしくなり逃げ帰って、化け物に詳しいお婆さん(のんのんばあ)に尋ねるとそれはべとべとさんだと教えられた。脇に寄って「べとべとさん先へおこし」と言えば、下駄の音は通り過ぎるものだという。
水木しげるの回顧ではのんのんばあこと景山ふさは「拝み手」を称する男性とともに武良家の近所の家に住んでいたそうだ。
民間信仰や妖怪の知識を豊富に持ち、幼い頃の水木にはのんのんばあの「教育」を通じて目に見えないものや異界の存在に興味を持ったという。
べとべとさんが前述した奈良県以外の地域で語られていた証拠は希薄である。資料の有無を根拠に判断するならば境港における茂少年の間で「べとべとさん」のような体験や伝承があったとしても、それが「べとべとさん」という名称で語られてたかは疑問である。
『決定版日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』では水木の体験を強調するように「似たようなものは全国的にいるように思われる」という文言がある。
べとべとさんが奈良に伝わる妖怪だということを足立論行に指定された際に水木はのんのんばあが関西で女中をしてた頃に仕入れた知識を話したのだろう、必ずしも山陰の伝承だけでは限らないと釈明している。
水木の兄の武良宗平はのんのんばあについて「ごく普通の田舎の婆さん。際立った能力があるとか、霊的なことに関して特別な知識を持っているとか、そんなことは全然なかった」と語っており、水木の回想と作品から受ける印象とは異なる人物像が垣間見えるだろう。
しかし、水木しげるにとってはのんのんばあが大きな存在だったことは間違いない。水木は作家活動の中で、彼女の人格に自身の妖怪観を投影して妖怪とは何かを考えて過去の再構築という形で現在の自身のあり様を語ってたのだろう。
水木の妻の武良布枝の半生をモデルとしたNHKのテレビドラマ『ゲゲゲの女房』では安来出身の主人公が幼少期にべとべとさんに出会うシーンがあり、これも水木が語るエピソードに着想を得たシーンである。
参考文献
村上健司「妖怪事典」
朝里樹監修 寺西政洋著「日本怪異妖怪事典 中国」
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2024-05-17 19:31
Comments (2)
目玉おやじ「べとべとさんは、人の恐怖心から生まれた妖怪じゃな。誰だって夜道は怖いものじゃからのう。」
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