#11 類似の酒場

「あ〜あ、どこかに素敵な勇者様はいないかしら」

ここ田舎の城下町には、何軒の酒場がある。街の規模と比べて、多過ぎるくらいに。

「ごめんくださいですの」
「ごめんは無いけど、スマイルはあるわよ」

酒場の若い女主人が、軽妙な冗談で来客を出迎える。

「あんた、ユッフィーじゃない」
「マリカ様？」

どうやら、知り合いのようで。少し遅れてパパさんも入ってくる。

「あんたも来たのね。相変わらず、地球人は変なのばっか」
「素顔がバレると、呪いをかけられるからね」

この世界を訪れている地球人は、ほぼ全員が「中の人」と違う顔をアバターに選ぶか
パパさんのように素顔を見せない格好。
地球の法律が適用されない異世界だからこそ、闇討ちや復讐が後を絶たない。

「マリカ様は、ガーデナーの動きを探りに来ましたの？」
「まあ、そんなとこよ」

本当は、別の世界の自分が優しくてカッコいい勇者様とラブラブなのがうらやましくて
ナンパに来た…なんて言えない、恥ずかしくて。

「私たちは、酒場巡りを楽しんでるところだよ」

現実で11月14日を過ぎるか、体験版が配信されないと、こっちでも冒険を進められない。
イベントで試遊体験をしたプレイヤーは、プレイした範囲内で先に進んでしまってるけど。

「ここって、なんで酒場ばっかりなの？」

自分も酒場のマスターなのに、事情を知らないマリカ。

「『公式』の酒場への、対抗意識だろうね。類似の酒場の乱立は」

このゲームの世界、ドラグーン・ジャーニー３の原作では、酒場は一つだけだった。
ところが、新たに再構築された世界では「男」や「女」の性別を指す呼称が禁止されて
「ルックスA」と「ルックスB」の使用を強制したり。

バトルの花形、ビキニアーマーの女戦士に肌色のインナー着用を義務化するなど
古参のファンを「怒らせる」出来事が相次いで、最初にあった酒場から客足が遠のいた。
DJシリーズの生みの親「ハリー・ユージーン」その人までもが、苦言を呈する有様。

「やっぱりわけ分かんないわ、地球人って」

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こちらの世界の「マリカ」は、noteとちちぷいで連載中の
「おてんば商人の大後悔時代」のマリカとは、別人になります。並行世界の同一人物。

現実のドラクエ3にまつわる状況までも、お話に取り込む。
古くはセルバンテスの小説「ドン・キホーテ」、最近では「デッドプール＆ウルヴァリン」でも
使われている、割と古典的なやり方です。