紅の記憶、母の愛

私の名前は茜。幼い頃から母が愛してやまないカーネーションを育てることが日常の一部だった。赤い花びらを揺らすその姿は、まるで母そのもののようで、凛とした美しさと温かさを感じさせてくれる。

今日は少し風が強い日だった。黒い襟のついたワンピースを着て、髪をまとめ上げ、カーネーションの花を幾つか差し込んでみた。赤い花びらが揺れるたび、母の笑顔が脳裏に浮かぶ。母はいつも、花には魂が宿ると言っていた。花が咲くその瞬間に心を通わせれば、人も花もお互いを愛おしむ存在となるのだと。私もその言葉を信じ、毎年、母の好きだった赤いカーネーションを育て続けている。

背景には一面のカーネーション畑が広がっている。青空のもとで紅に燃えるように咲く花たちは、どこか寂しげで、それでも堂々と咲き誇っている。その美しさには言葉が及ばない。私の周りで風に乗って舞う花びらは、まるで母の記憶そのものが空を漂っているかのようだ。陽光が差し込み、柔らかな光に包まれると、カーネーションたちはより一層、その紅色を深める。まるで、私に「忘れないで」と囁いているかのよう。

幼い頃の記憶が蘇る。母はいつもこの畑で、私の髪を整え、カーネーションの花を一輪、私の髪に差し込んでくれた。「茜、あなたもいつかこの花のように、美しく強くなってね。」母の手の温もり、そして穏やかで優しい声が、今も私の心を温めている。その記憶があるからこそ、母がいなくなっても、この場所に立つたび、私は母の愛に包まれている気がする。

今日もまた、このカーネーション畑で一人、母の愛を感じながら立っている。赤い花びらが風に乗って、私の肩にそっと触れる。まるで母がそばにいるような気がする。けれども、この風景は何も変わらず美しいままなのに、母の姿だけがここにないことが、どうしようもなく寂しい。愛する人がいなくなっても、その記憶と愛は永遠に残ると分かっていても、時にその「永遠」が、切ないほどの距離感をもたらすこともある。

一抹の哀愁を伴いながら、私は花を見つめる。愛するものが遠くにいると知りつつも、その愛に支えられているからこそ、私はまたここに立ち続けられる。