歯車仕掛けの運命

朝焼けがかすかに差し込む都市の屋上で、私は一人、空を仰いでいた。冷えた空気の中、薄い霧が立ち込めるこの場所には、巨大な歯車が静かに佇んでいる。その鋼鉄の機構は、長い年月をかけて錆びかけた部分がちらほらと見え、かつて繁栄した工業都市の名残を思わせる。その向こうには、高くそびえる教会の尖塔が空に突き刺さるようにそびえ立っており、かすかな鐘の音が風に乗って聞こえてくる。

私の名はアメリア。今はまだ16の歳であるが、周囲の者たちからは、まるで時を超えて生きる不死のように扱われてきた。黒いロングドレスに身を包み、膝下まで広がるスカートの裾が風にふわりと揺れる。ドレスは古風なデザインで、胸元には白いレースの襟がつけられており、その端正な作りが私の身体を際立たせる。肩には少し張り出したパフスリーブがあり、細かい装飾がなされたボタンが中央を縦に並んでいる。頭には小さなシルクハットを斜めに被り、リボンと歯車の飾りがついたブローチをそっと添えた。それらは、私の家系に伝わるものであり、代々受け継がれてきた証である。

この都市はいつも霧に包まれており、太陽の光さえ鈍く、全体が灰色に染まっているように見える。けれども、朝焼けの一瞬だけ、都市が金色に輝く瞬間がある。その刹那、私は空にかざした手の向こうに広がる景色が、まるで夢幻のように映るのだ。鋼鉄の光、油にまみれた古びた街路、重厚な煙突から立ち上る蒸気、そして、機械と人が混在するこの世界の不思議さ。それは私にとって、愛おしくもあり、忌まわしくもある存在である。

――機械と人、果たしてその境界はどこにあるのだろうか？

私はかつて、人間であることが何を意味するのかを問い続けてきた。私の身体には、他の人とは異なる「秘密」が隠されているからだ。心臓の一部が機械仕掛けでできており、脈を打つたびに微かな振動が身体中を駆け巡る。私が幼い頃、ある事故で重傷を負い、その際に私の心臓は機械の歯車によって修復された。以来、私は人々から「異端者」として扱われ、同時に「奇跡」としても崇められるようになったのだ。私が生き続ける限り、この機械の心臓は動き続け、私の運命と結びついている。

目の前に広がる巨大な歯車は、まるで私の心臓と共鳴するかのように微かにきしみながら回転している。その回転は、時にはゆっくりと、時には急速に。そして私には、その歯車が私の命そのものであるかのように感じられるのだ。どこか神聖な、そして禁忌に触れるような感覚に囚われ、私は一歩踏み出すごとにその歯車に近づいていく。

「アメリア……」

ふと、私の耳元に囁きが聞こえた気がする。それは、風の音か、それとも私の中に住む機械の声なのか。誰もいないはずのこの場所で、私はしばし立ち止まり、微かに鼓動する心臓に耳を傾ける。鉄の冷たさが皮膚を通して伝わり、私はその冷たさの中に人間らしい温もりを求めようとしている。だが、機械は感情を持たず、ただ無機質な音を繰り返すのみだ。

遠くで、朝が完全に明けようとしている。都市全体が再び日常に飲み込まれ、機械たちが息を吹き返すように動き出すのが見える。人々は再び機械に頼り、機械はまた人々に寄り添う。この都市では、人間も機械も、その境界が曖昧だ。もはや誰もが、機械の一部を持ち、人間の一部を持っている。それは私も同じであり、違いがあるとすれば、私の心臓が完全に「人間」でないという点だけだ。

私はふと足元を見つめる。そこには古びた歯車が落ちており、それがまるで私の運命そのものを象徴しているかのように感じられる。その歯車は私と同じように、いつか動きを止めるだろうか。それとも永遠に回り続けるのだろうか？答えを知る者は、誰一人いない。けれども私は、再び歩き出す決意を固めた。足元で鳴る靴音が、静寂を破る唯一の音となる。

「いつか、きっと答えが見つかる。」

そう自分に言い聞かせながら、私は都市の霧の中へと消えていった。私の存在が、人と機械の境界を超える鍵であるならば、私はその答えを探し続ける運命にあるのかもしれない。冷たい鋼鉄とともに、私はこの都市の一部として生き、そしてやがて消えていくのだろう。

歯車は回り続け、都市はまた一つの朝を迎える。しかし、その朝が私に何をもたらすかは、誰にもわからない。