ナイスネイチャとアグネスデジタルが頑張る話C+・３７

――深夜12時。静まり返った部屋の中、響いた着信音にサトノダイヤモンドは目を覚ました。
夜更けの電話――それは大抵緊急の知らせだ。
彼女はベッドの脇に置かれたスマートフォンを手に取り、軽くため息をついて応じた。

「お嬢様」

受話器の向こうから、落ち着いた声が聞こえる。彼女の部下の声だ。状況報告にいつもの冷静さを感じ、サトノダイヤモンドは瞼をこすりながら返答する。

「どうかしましたか？」
「ナイスネイチャは兆候を回避しました。おそらく発現することもないと思われます」

その報告に、彼女は短く息を吐いた。深夜の眠気が薄れる代わりに、胸の奥で一つの思いが動き始める。

「そう。そのまま続けておいて」

簡潔にそう伝えると、彼女は電話を切った。言葉に余計な感情を込めることはしない。ただ、状況を把握し、次の手を考える。それが彼女の流儀だった。

ふと、背後から声が飛ぶ。

「何の電話だったの？」

サトノダイヤモンドが振り返ると、キタサンブラックがベッド腰掛け、こちらを見つめていた。どうやら彼女はまだ眠りについていなかったようだ。その表情はどこか明るく、何か楽しい考え事でもしているようにも見える。

「キタちゃん、ごめんね、次のレースは出れなくなっちゃった」

申し訳なさそうに告げると、キタサンブラックは少しだけ目を丸くした。

「えぇ、そうなの？」

「うん、ごめんね。その日はお家の方でちょっとあって」

サトノダイヤモンドの説明に、キタサンブラックは少しの間考え込むような顔をしたが、すぐに笑顔を見せる。

「うーん、しょうがないなぁ。一個貸しね！」

軽やかに返すその声に、彼女らしい明るさが滲んでいる。サトノダイヤモンドは静かに微笑みながら頷いた。

「うん」

そのやり取りの後、キタサンブラックは再び視線を落とし、考え事を始めたようだった。おそらく明日誰と勝負をしようか考えているのだろう――そんな様子が彼女の仕草から窺える。まるで子供が明日の遊びを計画しているかのような無邪気さだった。

サトノダイヤモンドはそんな彼女をしばらく見つめていた。
キタサンブラックの横顔は明るいが、その無邪気さの裏にある強さと残酷をサトノダイヤモンドはよく知っている。

「おやすみ」
「うん、おやすみ」

再び目を瞑り、考える。
――いよいよ、この、ナイスネイチャに関わる一連の事を…終わらせる時が来たようだ。