インフルエンザの小野寺小咲
一条楽は、小野寺の家の玄関に立ちながら、緊張で心臓が高鳴っているのを感じていた。
学校を休んでいると聞いて、気になって仕方がなかったのだ。
担任から預かったプリントを届けるためという名目ではあったが、実際は彼女の様子を確認したかった。
インターホンを押すと、しばらくして扉が開いた。
「あら、一条くん?」
顔を出したのは、小野寺の母親、菜々子さんだった。
「こんにちは、これ、今日の授業のプリントです」
「わざわざありがとうね。小咲、インフルエンザで寝込んじゃってて…」
「えっ、そ、そうなんですか…?」
楽は驚き、胸がギュッと締め付けられた。
――あの小野寺が、インフルエンザだなんて…。
「でも、一条くんが来てくれたら、きっと喜ぶわ。よかったら、部屋に行ってあげて」
「え…でも、俺が行っても…」
「ふふ、大丈夫よ。小咲、寂しがってるから、元気づけてあげてね」
促されるまま、楽は2階の小咲の部屋へ向かった。
階段を上がるたびに、心臓がドキドキと音を立てている。
――小野寺の部屋に入るなんて…初めてだな。
部屋の前に立つと、中からかすかな咳き込む声が聞こえた。
ノックをしてみるが、返事はない。
「…小野寺?俺、楽だけど…」
恐る恐る扉を開けると、部屋の中は薄暗く、カーテン越しに夕陽の光が漏れていた。
ベッドの上には、小野寺が横たわっていた。
冷えピタを額に貼り、マスクをつけたまま、うっすらと目を開けている。
顔は赤く火照り、額には汗が滲んでいた。
とろんと潤んだ瞳は、焦点が定まらず、意識が朦朧としている様子だった。
普段の明るく元気な姿とは違い、弱々しく儚げな姿に楽は息を呑んだ。
「小野寺…大丈夫か…?」
小野寺はかすかに顔を動かし、楽を見上げた。
「ら…楽くん…?」
か細い声が、マスク越しに漏れる。
「無理しなくていいよ。これ、今日のプリント…みんなからのお見舞いもあるんだ」
楽はベッド脇の机にプリントを置いた。
「ありがとう…ごめんね…見舞いに来てもらって…」
かすれた声がか細く、楽の胸が苦しくなった。
――こんなにも弱々しい小野寺、初めて見る…。
「気にするなよ。早く良くなって、また学校に来てくれよ」
そう言って微笑むと、小野寺はマスク越しに微かに笑った。
その瞬間、小野寺の体が震え、激しく咳き込み始めた。
「こ、小野寺!?大丈夫か!?」
楽は慌ててベッドの脇にしゃがみ込み、小野寺の背中をさすった。
小野寺は息苦しそうにマスク越しに喘ぎ、体を丸めて咳き込み続けた。
「は…ぁっ…げほっ…げほっ…」
その苦しそうな姿に、楽はいても立ってもいられなかった。
「水、持ってくるから、ちょっと待ってろ!」
慌てて部屋を飛び出し、階下のキッチンで水を汲み、すぐに戻った。
「小野寺、これ…ゆっくり飲めよ」
小野寺は震える手でグラスを受け取り、ゆっくりとマスクを外した。
唇は乾燥して荒れており、頬は赤く染まっている。
潤んだ瞳が楽を見上げ、弱々しく微笑んだ。
「…ありがとう、楽くん…」
その姿があまりにも儚く、愛おしく感じられた。
しかし、楽は次の瞬間、ハッとした。
――マスクが…汚れてる…。
咳き込んだせいで、マスクの内側には唾液と鼻水が付着していた。
小野寺はそれに気づいて、恥ずかしそうに顔を赤らめ、視線を逸らした。
「…ごめんね、こんな…汚い姿、見せちゃって…」
「い、いや!そんなことないって!」
楽は慌てて手を振り、ベッド脇に新しいマスクが置いてあるのを見つけた。
「これ…新しいの、付け替えようか?」
小野寺は恥ずかしそうに頷き、顔を赤く染めたまま目を閉じた。
楽は震える手で、汚れたマスクをそっと外し、新しいマスクを取り出した。
唇が微かに震え、赤く火照った頬が色っぽく見えた。
――こんな近くで、小野寺の顔を見るなんて…。
「い、いくよ…」
楽は新しいマスクを小野寺の顔にそっと当て、耳にかけた。
その時、指が頬に触れ、柔らかくて暖かい感触が伝わった。
「…ん…」
小野寺が小さく声を漏らし、瞼が震えた。
楽の心臓は激しく鼓動していた。
マスクを付け終えると、小野寺は照れくさそうに目を開けた。
潤んだ瞳がとろんとしていて、焦点が合っていない。
「…ごめんね、楽くん…」
「いや、全然…気にしなくていいから。…早く良くなれよ」
小野寺は頷き、微笑んだ。
赤く染まった頬と潤んだ瞳が、あまりにも可愛らしく、楽は思わず目を逸らした。
――風邪を引いて、こんなに弱々しい姿の小野寺、初めて見る。
その儚げな表情が、楽の胸に強く焼き付いた。
楽は心臓の高鳴りを抑えながら、ベッド脇に座り続けた。
学校を休んでいると聞いて、気になって仕方がなかったのだ。
担任から預かったプリントを届けるためという名目ではあったが、実際は彼女の様子を確認したかった。
インターホンを押すと、しばらくして扉が開いた。
「あら、一条くん?」
顔を出したのは、小野寺の母親、菜々子さんだった。
「こんにちは、これ、今日の授業のプリントです」
「わざわざありがとうね。小咲、インフルエンザで寝込んじゃってて…」
「えっ、そ、そうなんですか…?」
楽は驚き、胸がギュッと締め付けられた。
――あの小野寺が、インフルエンザだなんて…。
「でも、一条くんが来てくれたら、きっと喜ぶわ。よかったら、部屋に行ってあげて」
「え…でも、俺が行っても…」
「ふふ、大丈夫よ。小咲、寂しがってるから、元気づけてあげてね」
促されるまま、楽は2階の小咲の部屋へ向かった。
階段を上がるたびに、心臓がドキドキと音を立てている。
――小野寺の部屋に入るなんて…初めてだな。
部屋の前に立つと、中からかすかな咳き込む声が聞こえた。
ノックをしてみるが、返事はない。
「…小野寺?俺、楽だけど…」
恐る恐る扉を開けると、部屋の中は薄暗く、カーテン越しに夕陽の光が漏れていた。
ベッドの上には、小野寺が横たわっていた。
冷えピタを額に貼り、マスクをつけたまま、うっすらと目を開けている。
顔は赤く火照り、額には汗が滲んでいた。
とろんと潤んだ瞳は、焦点が定まらず、意識が朦朧としている様子だった。
普段の明るく元気な姿とは違い、弱々しく儚げな姿に楽は息を呑んだ。
「小野寺…大丈夫か…?」
小野寺はかすかに顔を動かし、楽を見上げた。
「ら…楽くん…?」
か細い声が、マスク越しに漏れる。
「無理しなくていいよ。これ、今日のプリント…みんなからのお見舞いもあるんだ」
楽はベッド脇の机にプリントを置いた。
「ありがとう…ごめんね…見舞いに来てもらって…」
かすれた声がか細く、楽の胸が苦しくなった。
――こんなにも弱々しい小野寺、初めて見る…。
「気にするなよ。早く良くなって、また学校に来てくれよ」
そう言って微笑むと、小野寺はマスク越しに微かに笑った。
その瞬間、小野寺の体が震え、激しく咳き込み始めた。
「こ、小野寺!?大丈夫か!?」
楽は慌ててベッドの脇にしゃがみ込み、小野寺の背中をさすった。
小野寺は息苦しそうにマスク越しに喘ぎ、体を丸めて咳き込み続けた。
「は…ぁっ…げほっ…げほっ…」
その苦しそうな姿に、楽はいても立ってもいられなかった。
「水、持ってくるから、ちょっと待ってろ!」
慌てて部屋を飛び出し、階下のキッチンで水を汲み、すぐに戻った。
「小野寺、これ…ゆっくり飲めよ」
小野寺は震える手でグラスを受け取り、ゆっくりとマスクを外した。
唇は乾燥して荒れており、頬は赤く染まっている。
潤んだ瞳が楽を見上げ、弱々しく微笑んだ。
「…ありがとう、楽くん…」
その姿があまりにも儚く、愛おしく感じられた。
しかし、楽は次の瞬間、ハッとした。
――マスクが…汚れてる…。
咳き込んだせいで、マスクの内側には唾液と鼻水が付着していた。
小野寺はそれに気づいて、恥ずかしそうに顔を赤らめ、視線を逸らした。
「…ごめんね、こんな…汚い姿、見せちゃって…」
「い、いや!そんなことないって!」
楽は慌てて手を振り、ベッド脇に新しいマスクが置いてあるのを見つけた。
「これ…新しいの、付け替えようか?」
小野寺は恥ずかしそうに頷き、顔を赤く染めたまま目を閉じた。
楽は震える手で、汚れたマスクをそっと外し、新しいマスクを取り出した。
唇が微かに震え、赤く火照った頬が色っぽく見えた。
――こんな近くで、小野寺の顔を見るなんて…。
「い、いくよ…」
楽は新しいマスクを小野寺の顔にそっと当て、耳にかけた。
その時、指が頬に触れ、柔らかくて暖かい感触が伝わった。
「…ん…」
小野寺が小さく声を漏らし、瞼が震えた。
楽の心臓は激しく鼓動していた。
マスクを付け終えると、小野寺は照れくさそうに目を開けた。
潤んだ瞳がとろんとしていて、焦点が合っていない。
「…ごめんね、楽くん…」
「いや、全然…気にしなくていいから。…早く良くなれよ」
小野寺は頷き、微笑んだ。
赤く染まった頬と潤んだ瞳が、あまりにも可愛らしく、楽は思わず目を逸らした。
――風邪を引いて、こんなに弱々しい姿の小野寺、初めて見る。
その儚げな表情が、楽の胸に強く焼き付いた。
楽は心臓の高鳴りを抑えながら、ベッド脇に座り続けた。
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2025-02-21 22:04
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