惻隠の憐憫または内なるミゼラブル

誰かの為に泣けるひとというものは素晴らしいと思います。私には一切備わっていない感情です。

一部では、過剰な共感性だの、ヒステリックだの、果てはメサイアコンプレックスだのと、散々な謂われようを示すこともありますが
ここ最近になって、このような感情こそが、人間の強さのひとつたり得るものなのではないかと考え、これを表現しました。

誰かを憐れむ/哀れむ気持ちを持っているということは、それだけで人間、もっと云うならば人間性として完成されているのです。
そしてそれは、通常ならば意識せずとも勝手に形成され、備わっていく感情だったはずです。

ひとによっては、このような感情によって駆動されるある種の利他的行動は、おせっかいやありがた迷惑にと受け取られてしまう可能性は無いわけではありません。

ですが、全く持っていないよりかは遥かにマシです。

 -- 名もなき画家の絵画の裏に書かれたメモ

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『2070年、「マシン・マン」、「マシン・パーソン」などと呼称されるような人間が増えてしまった……。』
『自身の持ちうる優位性を悪用する人間が増えた。』
『もし、チャーリー・チャップリンがこの年に舞い降りたら、きっと数秒でピストルを自身に押し当て引き金をひくことだろう。』
『ある意味では、最悪の年代かもしれない。同じ血の通った人間が「冷血」と称される行動を平気で行う社会。』
『それが 2070年代 なのだ。』

 -- ヨシナガ・サトコ

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「……ところでサトコさんも昔はそんな人間だったりしたんじゃないんですか?」
『残念ながら、私は幼い頃からずっと冷血と謂われるような存在だったよ。』
『そうやってこの地位を得た。たくさんの人を実質的に死に追いやってきたんだ。』

「でもほらこれ……ザリガニとかバラバラにしながらニッコリ笑顔の6歳だったサトコちゃんの写真がアルバムにあるじゃないですか。」
『あっ……やめろ!』
「ほ~ら。口ではそうやって言っていても、行動はどうであれ、純白な時期があったんじゃないんですか~?」

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「これは大流行のドラマの最終回で大号泣してるサトコちゃん」
「これは撃たれて即死した歩行者の前で泣き崩れているサトコちゃん」
「そしてこれは……うっ……急性麻薬中毒で亡くなった患者さんの前でベッドシーツを顔から濡らしている研修生時代のサトコさん」

『……くそっ。一体どこでそんな写真を……。』
『恥ずかしいからさっさと棚に戻せ!』

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「とっくのとうに到来したデジタル時代なのにわざわざ高耐久インクと高耐久用紙で印刷して遺しているサトコさ~ん。」
「サトコさんが本当は慈悲深くて誰かの為に泣けるひとだってのは、この私が誰よりも知っているんですからね!」
「その気になれば、施設の周りに言いふらしちゃいますよ~?」

 -- サトコのアシスタント

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『はぁ~本当に、本当に悪いひととチームを組んでしまったもんだ……。』
『だがこういう人間こそが、私が狂気に陥るのを防いでくれる者なのかもしれないな……。』

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2025-03-07 03:32

 yukke3053


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