亜美ちゃん、ぶっとばせ!第1話「鼓動」(AI画像、ストーリー付)
※同内容をnoteでも公開しています。
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アリーナは、巨大な生き物の胎内のように熱気を孕んでいた。1万人を超える観客の興奮が鉄骨を震わせ、コンクリートを伝い、控室の壁をかすかに揺らしている。今夜、ここで歴史が刻まれるかもしれない。無敗の絶対女王に、彗星のごとく現れた美少女ボクサーが挑むのだ。
朝比奈 亜美(あさひな あみ)——現役高校生でプロデビューしたその名は、当初、そのアイドル級のルックスが先行していた。「顔と体はチャンピオン級」などと揶揄する声も少なくなかった。確かに、その戦績は安定しているとは言い難かった。強烈なパンチ力で鮮烈なKO勝利を飾る一方で、脆いディフェンスを突かれ、あっけなく敗れることもあった。しかし、亜美は着実に、驚くほどのスピードで成長を遂げてきた。同年代が大学卒業を間近に控えて将来を模索し始める頃、彼女はついに世界タイトルの挑戦権を手に入れたのだ。
控室で、亜美は鮮やかな真紅のガウンを羽織っていた。もうすぐ入場時間…前座の試合はすべて終わり、残すはメインイベントの世界タイトルマッチのみ。アリーナの熱狂はまるで生き物のように蠢き、控室までその存在を主張してくる。
「亜美、緊張してる?」
声をかけたのは、ジムの女性会長・安永だった。自身もかつて女子ボクサーとしてリングに上がっていた安永は、世界挑戦の舞台で、無敵の女王に一蹴された苦い過去を持っていた。何一つ見せ場も無いままに完膚なきまでに叩きのめされ、1ラウンドKO負け…その敗北で自身の限界を悟った安永は現役を退き、指導者の道を選んだ。数年後、安永が小さなジムを開設し、そこで運命的に出会ったのが朝比奈亜美だった。亜美の中に眠る才能を見抜いた安永は、自らトレーナーとなり、セコンドとしてサポートし、亜美を磨き上げてきた。そして亜美は安永の期待に応え、目覚ましい成長を遂げたのだ。
「…余裕ですよ」
安永の問い掛けに対する亜美の返事は、自信に満ち溢れているように聞こえた。だが、安永にはわかる。これは亜美なりの強がりだ。今日の亜美は、いつも以上に念入りにウォーミングアップを行っていた。シャドーボクシングはまるで本番さながらの鋭さで、軽いミット打ちのはずが、渾身の力を込めたパンチを叩き込んでいた。すでに全身は仕上がっており、うっすらと汗が滲んでいる。
試合に向けて、並々ならぬ気合が入っているのは明らかだ。いや、むしろ、気合が入りすぎて空回りしなければいいが…
安永は一瞬、そんな不安を覚えた。しかし、すぐにそれを打ち消す。今の亜美は、かつての未熟だった亜美とは違う。驚くほど成長した、自慢の教え子だ。
「余裕、か。さすがだな」
強がりと知りながら安永はそう言い、笑みを浮かべた。
「ええ…私を誰だと思ってるんですか」
亜美もまた、安永に向かってニッコリと微笑み返した。その笑顔は、どこかあどけなく、二人の間に流れる張り詰めた空気をほんの少しだけ和らげた。強い信頼関係で結ばれた師弟の絆がそこにはあった。
その時、控室の扉がノックされた。
「朝比奈選手、そろそろお時間です」
係員の言葉が、再び控え室に緊張を走らせる。
安永は、亜美の肩に手を置いた。
「亜美」
「はい」
亜美は、静かに頷いた。
もうすぐ始まる。運命のゴングが鳴り響く。アリーナの熱狂を、亜美の覚悟が、そして安永の願いが包み込む。今夜、歴史が動くかもしれない。
いや、必ずや歴史を動かす。師弟の夢が結実する。その時が来るのだ。
「さぁ、行きましょう」
振り返る亜美。その向こうには、リングのある試合会場へと向かう廊下。
もう後戻りはできない。
安永は頷き、他のスタッフたちと一緒に亜美の後に続いた。
(続く)
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【あとがき】
第2回以降はnoteで有料販売予定です。
AI画像を使用するため、販売場所はnoteのみとなる見込みです。ご了承ください。
基本的には女子ボクシング物ですが、ミックスもあるかも…?
【宣伝】
BOOTH(PDF)とnote(テキスト)で小説公開しています(テキストのみ、有料)。
https://iriomotebox.booth.pm/
https://note.com/iriomote_box/
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アリーナは、巨大な生き物の胎内のように熱気を孕んでいた。1万人を超える観客の興奮が鉄骨を震わせ、コンクリートを伝い、控室の壁をかすかに揺らしている。今夜、ここで歴史が刻まれるかもしれない。無敗の絶対女王に、彗星のごとく現れた美少女ボクサーが挑むのだ。
朝比奈 亜美(あさひな あみ)——現役高校生でプロデビューしたその名は、当初、そのアイドル級のルックスが先行していた。「顔と体はチャンピオン級」などと揶揄する声も少なくなかった。確かに、その戦績は安定しているとは言い難かった。強烈なパンチ力で鮮烈なKO勝利を飾る一方で、脆いディフェンスを突かれ、あっけなく敗れることもあった。しかし、亜美は着実に、驚くほどのスピードで成長を遂げてきた。同年代が大学卒業を間近に控えて将来を模索し始める頃、彼女はついに世界タイトルの挑戦権を手に入れたのだ。
控室で、亜美は鮮やかな真紅のガウンを羽織っていた。もうすぐ入場時間…前座の試合はすべて終わり、残すはメインイベントの世界タイトルマッチのみ。アリーナの熱狂はまるで生き物のように蠢き、控室までその存在を主張してくる。
「亜美、緊張してる?」
声をかけたのは、ジムの女性会長・安永だった。自身もかつて女子ボクサーとしてリングに上がっていた安永は、世界挑戦の舞台で、無敵の女王に一蹴された苦い過去を持っていた。何一つ見せ場も無いままに完膚なきまでに叩きのめされ、1ラウンドKO負け…その敗北で自身の限界を悟った安永は現役を退き、指導者の道を選んだ。数年後、安永が小さなジムを開設し、そこで運命的に出会ったのが朝比奈亜美だった。亜美の中に眠る才能を見抜いた安永は、自らトレーナーとなり、セコンドとしてサポートし、亜美を磨き上げてきた。そして亜美は安永の期待に応え、目覚ましい成長を遂げたのだ。
「…余裕ですよ」
安永の問い掛けに対する亜美の返事は、自信に満ち溢れているように聞こえた。だが、安永にはわかる。これは亜美なりの強がりだ。今日の亜美は、いつも以上に念入りにウォーミングアップを行っていた。シャドーボクシングはまるで本番さながらの鋭さで、軽いミット打ちのはずが、渾身の力を込めたパンチを叩き込んでいた。すでに全身は仕上がっており、うっすらと汗が滲んでいる。
試合に向けて、並々ならぬ気合が入っているのは明らかだ。いや、むしろ、気合が入りすぎて空回りしなければいいが…
安永は一瞬、そんな不安を覚えた。しかし、すぐにそれを打ち消す。今の亜美は、かつての未熟だった亜美とは違う。驚くほど成長した、自慢の教え子だ。
「余裕、か。さすがだな」
強がりと知りながら安永はそう言い、笑みを浮かべた。
「ええ…私を誰だと思ってるんですか」
亜美もまた、安永に向かってニッコリと微笑み返した。その笑顔は、どこかあどけなく、二人の間に流れる張り詰めた空気をほんの少しだけ和らげた。強い信頼関係で結ばれた師弟の絆がそこにはあった。
その時、控室の扉がノックされた。
「朝比奈選手、そろそろお時間です」
係員の言葉が、再び控え室に緊張を走らせる。
安永は、亜美の肩に手を置いた。
「亜美」
「はい」
亜美は、静かに頷いた。
もうすぐ始まる。運命のゴングが鳴り響く。アリーナの熱狂を、亜美の覚悟が、そして安永の願いが包み込む。今夜、歴史が動くかもしれない。
いや、必ずや歴史を動かす。師弟の夢が結実する。その時が来るのだ。
「さぁ、行きましょう」
振り返る亜美。その向こうには、リングのある試合会場へと向かう廊下。
もう後戻りはできない。
安永は頷き、他のスタッフたちと一緒に亜美の後に続いた。
(続く)
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【あとがき】
第2回以降はnoteで有料販売予定です。
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2025-03-30 14:28
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