病んだネイチャにトロフィーを・16
「ーー!」
アタシは何度も衝撃を受け転がる
肺の中の空気が転倒で強制的に吐き出され、瞬間的に息ができなくなった
「ーーぁ!」
でもそんなことはどうでもいい
アタシは体が止まった瞬間、可能な限りの速度で這いつくばり、トレーナーさんの元に近寄る
「はぁ…体は…! トレーナーさん…!」
肺に酸素がない
喉が焼けるように熱く、声を出そうとしても、何も出ない
息を吸おうとしても、喉が痙攣してうまくいかない
焦る
息が、入ってこない……!
手は? 大丈夫、折れてない
足は? 大丈夫…見た目は折れてない…?
体は? 見た目は…大丈夫そう
なら頭は? 意識は?
「…トレーナーさん、トレーナーさん! トレーナーさん!」
アタシはようやく吸い込むことができた酸素を使い、トレーナーに呼びかける
彼は目を閉じたまま目を覚まさない
被っていた帽子はどこかに飛び、外傷は見受けられないが、彼の頭は地面に打ち付けられたはず
「あぁぁ…トレーナーさん…起きて、やめて…起きて…起きて…!」
アタシはこういうときにするのはよくないとわかっていたが、必死にトレーナーさんの体を揺さぶった
揺さぶらざるを得なかった
また、起こしてしまったのだ
また一人、アタシが…アタシが…
大事な人を、ダメに…失ってしまう
「トレーナーさん…やだ、やだ、またこんなのやだ…! あぁあ!」
息が荒くなりすぎて、頭がクラクラする
全然、吸えない
苦しい……なのに、手は止まらない
止められない……!
頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、アタシはトレーナーさんを揺さぶり続ける
駄目なのか、やはりアタシは駄目なのか
またこうなってしまう、そんな運命ーーー
「え…」
そこまで考えたとき、アタシの腕をトレーナーが掴んだ
「……っ、うわぁ…マジで飛んだな…」
トレーナーさんが軽く咳き込み、目をゆっくり開く
その瞬間、アタシの腕を掴む温かい手の感触があった
「やっぱウマ娘のタックルは…きついな…そんなに揺さぶらないでくれ」
そう言って、トレーナーさんはアタシを見つめニヤリと笑った
え…トレーナーさん…生きてる…?
「だ、大丈夫なの…体は、怪我は…!」
「ああ、プロテクター様々だな。ああ…暑かった」
そう言って、トレーナーさんは着込んでいたジャケットのファスナーを下げた
そこにあったのはウマ娘の衝突用に作られたプロテクター
本来は暴れるウマ娘を取り押さえるために使うものだ
「で、でも頭は…!」
「あのキャップな、ヘルメットなんだ」
そう言い、トレーナーさんは頭から弾け飛んだキャップを指差す
そのキャップの内側には、衝撃吸収用のライナーが貼られていた
「なあ…ネイチャ」
トレーナーさんはまっすぐ見つめる
「斜行じゃなくて、競り合えないんだろ」
その言葉は、これまで隠していたアタシの心の傷を深く、深く抉った
顔には出さないが、体が動揺している
「本当は…今思うと俺も分かってたんだ。これまでのレース、お前は常に斜行が出ていたわけじゃない。本当に我慢できない時だけだった」
「レース…そしてタンホイザとの並走…本気の時しか出てなかったよな」
「普段から抑えてたんだな」
だから、こんなことをしたのか
どうやらこの衝突は仕組まれたものだったらしい
どうしてもアタシにトラウマに向き合わさせるために、ここまでして
アタシは唖然とすると共に…無力感に襲われた
(本当なら…怒るところだ)
こんな危険なことをして、どっちも怪我するかもしれない…むしろするのが普通の状況で
トレーナー引退したらどうするんだって
泣き叫んでもいいところだ
(でもーー)
それでも彼はアタシを走らせたかった
アタシをそのままにさせなかった
「どうせアタシなんて」と言わせなかったのだ
「…」
言葉が出ない、感謝するべきなのか、怒るべきなのか感情が混乱をしている
トレーナーさんは静かにアタシの姿を見上げていた
(でも、しかしーー)
しかも、それをしても…それで治ったわけじゃない
その顔を見つめているとアタシの中で声が聞こえてくる
(でも、こんなことしたって、結局恐怖が出てきただけじゃないか)
そうただアタシの中の恐怖がよみがえっただけで…
だって
どうせ…アタシなんて…
「ネイチャ」
その声にハッとした
トレーナーさんは、そう言って優しくアタシの頬に手を添える
その手は暖かかった
「無理に克服しようとしなくていい」
「克服なんてできない、そんなに俺たちはすぐには変われない」
「でも向き合うことだけはできるはずだ」
「だから…少しずつでいい。一緒に向かわせてくれ」
彼は、真剣な口調で言った
「……」
向き合う
それだけで、本当に変われるのか?
そんなに簡単なものなのか?
即座にアタシの中で否定がされる
否
ありえない
アタシなんてそんなウマ娘じゃない
それはありえない
「ネイチャ」
彼はそう言い、優しく微笑んだ
「俺はお前を信じてる」
「お前はお前を信じてなくても」
「俺はお前のやってきたことと今のお前を信じている」
「結果は求めるな、向き合うだけでいい」
彼はそう、きっぱりと言い切った
「…本当にそれだけでいいんだ、ネイチャ」
「…うん」
いつもなら何か言ってしまうアタシだったが
その瞬間だけは、理由もなく素直に頷いてしまった
「よし…ネイチャ、ありがとうな」
そう言い、トレーナーさんはアタシの腕を引いて立ち上がる
「…タンホイザ?」
トレーナーさんがそう問いかけると、少し離れた場所に立つタンホイザは、真剣で無表情だった
しかし、その奥には、苦しげなものが滲んでいた
そしてアタシたちに近寄り
「ネイチャ」
「アタシを殴って」
「思いっきり」
そう、きっぱりと言った
アタシは何度も衝撃を受け転がる
肺の中の空気が転倒で強制的に吐き出され、瞬間的に息ができなくなった
「ーーぁ!」
でもそんなことはどうでもいい
アタシは体が止まった瞬間、可能な限りの速度で這いつくばり、トレーナーさんの元に近寄る
「はぁ…体は…! トレーナーさん…!」
肺に酸素がない
喉が焼けるように熱く、声を出そうとしても、何も出ない
息を吸おうとしても、喉が痙攣してうまくいかない
焦る
息が、入ってこない……!
手は? 大丈夫、折れてない
足は? 大丈夫…見た目は折れてない…?
体は? 見た目は…大丈夫そう
なら頭は? 意識は?
「…トレーナーさん、トレーナーさん! トレーナーさん!」
アタシはようやく吸い込むことができた酸素を使い、トレーナーに呼びかける
彼は目を閉じたまま目を覚まさない
被っていた帽子はどこかに飛び、外傷は見受けられないが、彼の頭は地面に打ち付けられたはず
「あぁぁ…トレーナーさん…起きて、やめて…起きて…起きて…!」
アタシはこういうときにするのはよくないとわかっていたが、必死にトレーナーさんの体を揺さぶった
揺さぶらざるを得なかった
また、起こしてしまったのだ
また一人、アタシが…アタシが…
大事な人を、ダメに…失ってしまう
「トレーナーさん…やだ、やだ、またこんなのやだ…! あぁあ!」
息が荒くなりすぎて、頭がクラクラする
全然、吸えない
苦しい……なのに、手は止まらない
止められない……!
頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、アタシはトレーナーさんを揺さぶり続ける
駄目なのか、やはりアタシは駄目なのか
またこうなってしまう、そんな運命ーーー
「え…」
そこまで考えたとき、アタシの腕をトレーナーが掴んだ
「……っ、うわぁ…マジで飛んだな…」
トレーナーさんが軽く咳き込み、目をゆっくり開く
その瞬間、アタシの腕を掴む温かい手の感触があった
「やっぱウマ娘のタックルは…きついな…そんなに揺さぶらないでくれ」
そう言って、トレーナーさんはアタシを見つめニヤリと笑った
え…トレーナーさん…生きてる…?
「だ、大丈夫なの…体は、怪我は…!」
「ああ、プロテクター様々だな。ああ…暑かった」
そう言って、トレーナーさんは着込んでいたジャケットのファスナーを下げた
そこにあったのはウマ娘の衝突用に作られたプロテクター
本来は暴れるウマ娘を取り押さえるために使うものだ
「で、でも頭は…!」
「あのキャップな、ヘルメットなんだ」
そう言い、トレーナーさんは頭から弾け飛んだキャップを指差す
そのキャップの内側には、衝撃吸収用のライナーが貼られていた
「なあ…ネイチャ」
トレーナーさんはまっすぐ見つめる
「斜行じゃなくて、競り合えないんだろ」
その言葉は、これまで隠していたアタシの心の傷を深く、深く抉った
顔には出さないが、体が動揺している
「本当は…今思うと俺も分かってたんだ。これまでのレース、お前は常に斜行が出ていたわけじゃない。本当に我慢できない時だけだった」
「レース…そしてタンホイザとの並走…本気の時しか出てなかったよな」
「普段から抑えてたんだな」
だから、こんなことをしたのか
どうやらこの衝突は仕組まれたものだったらしい
どうしてもアタシにトラウマに向き合わさせるために、ここまでして
アタシは唖然とすると共に…無力感に襲われた
(本当なら…怒るところだ)
こんな危険なことをして、どっちも怪我するかもしれない…むしろするのが普通の状況で
トレーナー引退したらどうするんだって
泣き叫んでもいいところだ
(でもーー)
それでも彼はアタシを走らせたかった
アタシをそのままにさせなかった
「どうせアタシなんて」と言わせなかったのだ
「…」
言葉が出ない、感謝するべきなのか、怒るべきなのか感情が混乱をしている
トレーナーさんは静かにアタシの姿を見上げていた
(でも、しかしーー)
しかも、それをしても…それで治ったわけじゃない
その顔を見つめているとアタシの中で声が聞こえてくる
(でも、こんなことしたって、結局恐怖が出てきただけじゃないか)
そうただアタシの中の恐怖がよみがえっただけで…
だって
どうせ…アタシなんて…
「ネイチャ」
その声にハッとした
トレーナーさんは、そう言って優しくアタシの頬に手を添える
その手は暖かかった
「無理に克服しようとしなくていい」
「克服なんてできない、そんなに俺たちはすぐには変われない」
「でも向き合うことだけはできるはずだ」
「だから…少しずつでいい。一緒に向かわせてくれ」
彼は、真剣な口調で言った
「……」
向き合う
それだけで、本当に変われるのか?
そんなに簡単なものなのか?
即座にアタシの中で否定がされる
否
ありえない
アタシなんてそんなウマ娘じゃない
それはありえない
「ネイチャ」
彼はそう言い、優しく微笑んだ
「俺はお前を信じてる」
「お前はお前を信じてなくても」
「俺はお前のやってきたことと今のお前を信じている」
「結果は求めるな、向き合うだけでいい」
彼はそう、きっぱりと言い切った
「…本当にそれだけでいいんだ、ネイチャ」
「…うん」
いつもなら何か言ってしまうアタシだったが
その瞬間だけは、理由もなく素直に頷いてしまった
「よし…ネイチャ、ありがとうな」
そう言い、トレーナーさんはアタシの腕を引いて立ち上がる
「…タンホイザ?」
トレーナーさんがそう問いかけると、少し離れた場所に立つタンホイザは、真剣で無表情だった
しかし、その奥には、苦しげなものが滲んでいた
そしてアタシたちに近寄り
「ネイチャ」
「アタシを殴って」
「思いっきり」
そう、きっぱりと言った
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2025-04-19 03:32
Comments (12)
殴れるかぁー!!
ナノテクスーツだ
その真っ直ぐな瞳、美しい
View Repliesマチタン…いいのか? (浮き出る鬼の背中)
全コマ泣いてるのすき
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