『甘美なる解体詩篇』

1997年／エレオノーラ・ヴェルメッリ（イタリア）　

舌先がふれた刹那、虹彩のキャンディは輪郭をほどき、静かに幾何学の粒子へと転生する。崩壊という名の変奏は、色彩を内に秘めたまま、空間へと拡散していく。甘味とは、もはや味覚の領域ではない——それは記憶と光、官能と構造が交錯する“知覚の詩”である。瞼を閉じた少女は、内なる舞台でその変容を見届けている。

1997年という断層期において、ヴェルメッリはフランドル派の光学技巧を媒介に、「崩れること＝保存である」という逆説的命題を提示した。飴から遊離するポリゴンの断片は、ルネサンス絵画が好んだ布の律動と響き合いながら、現代的な演算性の中で理知的に舞っている。それは、手作業の筆触と情報処理の美学が交錯する地点に咲いた、奇跡的な結晶である。

本作には、“永遠”の影はない。だが、崩壊の最中にこそ立ち現れる持続——それが、この作品の本質である。観者のまなざしは、微細な分解の軌跡を追いながら、自身の中に残る甘味の残像を呼び起こされるだろう。古典が与える静寂と、デジタルが孕む即興性とが、ひとつの味覚的幻視として見事に統合された瞬間が、ここに確かに息づいている。