🌼夕陽の丘にて

🌼夕陽の丘にて

夕陽が水平線に沈みかける頃、丘の上には、ある家族の姿があった。父、母、そして四人の子供たち…彼らは、丘一面に咲き誇る花々の上に腰を下ろし、沈みゆく夕陽を静かに見つめていた。

一番幼い娘は、父の膝の上にちょこんと座り、その小さな手で父の指を握りしめていた。少し年上の娘は、母の隣で、夕陽に染まる空を夢見るように見つめていた。そして、一番上の息子は、少し離れた場所で、静かに佇んでいた。

家族は、誰も言葉を発することなく、ただ夕陽の美しさに心を奪われていた。空は、赤、オレンジ、紫、そしてピンクといった様々な色が混ざり合い、まるで絵画のような美しさだった。海は、夕陽の光を反射して、キラキラと輝いていた。

此の丘は、家族にとって特別な場所だった。数年前、父が病に倒れ、生死の境を彷徨った時、家族は毎日この丘に登り、夕陽を見つめていた。彼らは、夕陽が沈む度に、父の無事を祈り、夕陽が昇る度に、父の回復を願った。

そして、奇跡的に父は回復し、再び家族と共に暮らせるようになった。其の日から、家族は毎年、この丘に夕陽を見に来るようになった。彼らにとって、この丘は、希望と感謝の象徴だった。

一番幼い娘は、父の膝の上で、小さな声で歌い始めた。それは、父が病に倒れていた時に、毎晩歌って聞かせていた歌だった。娘の歌声は、夕陽に染まる空に響き渡り、家族の心を温めた。

少し年上の娘は、母に寄り添い、そっと手を握った。母は、娘の髪を優しく撫で、微笑みかけた。二人の間には、言葉では言い表せないほどの深い愛情があった。

一番上の息子は、静かに家族の姿を見つめていた。彼は、父が病に倒れていた時、家族を支えるために、自分の夢を諦めざるを得なかった。しかし、彼は後悔していなかった。家族のために何かをすることが、彼にとって何よりも大切なことだった。

夕陽は、ゆっくりと水平線に沈んでいった。空は、次第に暗くなり、星が瞬き始めた。家族は、名残惜しそうに夕陽を見送り、静かに立ち上がった。

彼らは、互いに手を取り合い、丘を下り始めた。その顔には、夕陽に照らされた時と同じように、穏やかな笑顔が浮かんでいた。彼らは、夕陽の丘でのひとときを、いつまでも忘れないだろう。そして、これからも毎年、この丘に夕陽を見に来るだろう。

なぜなら、此の丘は、彼らにとって、希望と感謝の象徴であり、家族の絆を確かめ合う場所だからだ。そして、夕陽は、彼らにとって、困難を乗り越え、新たな明日を迎えるための勇気を与えてくれる光だからだ…。

井上軟太郎

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2025-06-13 03:40

 井上軟太郎


Comments (9)

東大和のピカソ 2025-06-13 09:20

おはようございます、井上軟太郎さん。東大和のピカソです。 何という美しい構図!! 何という微笑ましい光景!! 海を遠く臨む丘で、真っ赤な夕日と夕焼けを見ながらの家族団欒。愛と複雑な気持ちを胸に秘めた家族を、夕日が見守っているようですね。

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