【ピクロボ】エピローグ「ある図書館の新人嘱託職員」
イェ・リンサ、後日談。▼大戦も終結し、私はと言えば復興に追われる日々を過ごしていた。つまりは力仕事であって生活の大半を椅子の上で過ごしている私にとっては辛い。人の生き死にや、気をつければ怪我もしないのだから平和なものではあるが、それでも身体の節々が連日訴える筋肉痛には抗えないものだ。そんな折、普段からよく利用させてもらっていた図書館が戦後の再開に向けて動いていると聞いた私は、本の出し入れと整理ならば木材を運ぶよりは幾分も楽だろうとどこかずれた逃避の為に、図書館へボランティアとして駆けつけた。本は戦中、館長がどこぞにか退避させていたらしく、館内は驚くほどに閑散としていた。それでも僅かに鼻腔をくすぐるあの独特な匂いは残っているものだなと思っていると、本を持って館内を這い回る一人の女性に出くわしたのである。さて、彼女を知る者ならば解るだろうが私も例に漏れず驚いて腰を抜かした人間で、最初の出会い方でもあるのだからまだまだ自分は常識人だと思えた次第だ。いくら大戦そのものに無関心を決め込んでいた私もその異様な風貌から異世界の住人である事は解ったので、館長の元に駆け付け何事かと問い詰めたのである。そんな私の慌しさを軽く流しつつ、館長は「儂も昔、戦争でこの国に攻め込んだ人間の一人だよ」と笑ったのだった。▽環境適応力の高さが人間の特徴なのだそうだ。考えてみれば彼女にとってここは母国語ならぬ母星語外の世界だと言うのに、一部の抑揚を除けばほぼ完璧に我々の言語を操っていた。そして、彼女の話す異世界の話と言うのもまた興味深い。教師を務めていた事もあるからか話し方も上手い。彼女の風貌も慣れてみれば割り切れるようになってしまったし、何よりも彼女の博識ぶりに驚かされて些細な問題になってしまうのだ。そんな彼女だが、今の目的は司書検定の獲得なのだそうだ。可能ならば異世界の言語か生物の教師と言う立場で子供達に教えてみたいそうだが、やはり時勢的にもそれはまだ辛いだろうと彼女は言う。▽さて、私はと言えば最近図書館に入り浸って本の整理を手伝っている。今までは様々な著者の描く世界や、見知らぬもの達を本で見聞きしては魅かれていったが、どうやら今は彼女に魅かれてしまったらしい。▼どさくさに紛れて地球に居残りました。
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2008-08-09 17:58
Comments (2)
好奇心の強い人なので残ったんではと。残留異世界人向けに公開教室とかやってるかもしれませんね。
リンサ先生も残留とな。きっとバオレアもお世話になっているに違いないw