犬

話をしよう　今から10年以上は前の話だ　私は犬を飼っていた　名前はラッキー　拾った雑種だ　毎日餌を与え散歩をし、一般的なペットと飼い主といった関係だったと思う　ラッキーはしばしば私の目を直視するように見てきたことがあった　その時は決まって眉根をよせ目つきが悪くうなり声もあげず睨んでいるというわけでもなくただ見上げているという感じだった　私が目を合わせたまま腰を下ろすと釣られて首を傾けるのが可愛かった　ただ今思うと何か伝えたかったのかもしれないと思うようになった　それが何かなんてわかるわけもないがあの目を向けられたときの私は妙に嬉しかった　当時、周囲の交友関係に自信がもてなかった私にとってあの直視は安心した　人と人同士で目を合わせるのが苦手な私にとっては救われる視線だった　私の画力であの目を描くのは不可能だと思う　ラッキーは捨てられていた犬だ　人間について何かしら警戒心はもっていなかったのだろうか　あの目は警戒の表れかといわれればそうとはいえない　ラッキーはあまりにも従順な犬だった　私はその従順に応えることはできていたかは定かではない　ラッキーは食事の時にお座りを命じる前に既に座っている　待てと言う前に常に私の指示を待っている　だから私は食事を与えるとき良しというだけでいい　私はそれが無機的な反応と感じていた　恐らく前に飼い主はしつけに厳しかったのだろう　そう思うとしつけの行き届いた犬に感心すると同時にどこか好ましくないものを感じていたかもしれない　だからこそあの目を余計に気にする　あの目は有機的なものだと思う　何かの感情が入っていたと思う　それが何かわかるようなら犬と会話もできそうなものだが生憎バイリンガルは私の脳味噌には搭載されていなかったのだ　もうあの目を見ることはできなくなってしまったが　脳内補完はばっちりなのでそのうち描けるようになりたいんですお　おっぱいと同じように