皺【鍵の男】

若者は鍵を拾った。その鍵に合う扉を探しに世界中を旅した。その扉の向こうに何があるのか希望を持って。いつしか若者は年をとり、老人となり、皺が増えた。老人は錠前屋で鍵に見合う扉を作った。もう残りの人生は少ない。鍵をかけ、その部屋に閉じこもった・・・すると扉が開き、幸運の女神が現れた。「あの鍵はわたしがわざと落としていったものなのよ。やっと扉を作っていただけたのね」 なぜ、なぜもっと早く現れなかったのか、老人は思った。「さあ、望みを叶えてあげましょう。」 すると男は言った。「なにもいらない。いまのわたしに必要なのは、思い出だけだ。・・・それは持っている」  ~星 新一『鍵』より~
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2010-12-28 07:05

 KYAN-DOG


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