可愛かったけどね!!

先日、家でぼんやりと過ごしていると、窓の外にパタパタと何かが羽ばたく音が聞こえました。どうやら鳩のようです。見たいなーと思ったのですが、驚かすのもかわいそうなので、カーテンを開けたりもせず、そのまま息を潜め様子をうかがうことにしました。しばらくすると鳴き声が聞こえてきました。やはり鳩の鳴き声でした。が、どうも様子がおかしいのです。確かにぐるぐるっぽーという典型的な鳴き声なのですが、なんだか聞き取りづらく、妙にこもっているのです。ベランダにいるのなら、鳩と私の距離は1メートル足らずで、もっとはっきり聞こえるはずです。しかしその不明瞭なぐるぐるっぽーは途切れることなく続いています。そうやって30秒ほど耳を澄ましていましたが、とうとう我慢できず、そっとレースカーテンを開けて見てみました。ベランダの手摺りにつかまっていました。目が合いました。何の変哲もない、いたって普通の鳩です。しかし、よく見てみると、その小さな頭の左右で、何やら揺れているものが見えます。それは木の枝でした。自分の体長ほどもある長い木の枝を、くちばしに咥えているのです。細くて長いそれはしなりがあり、鳩がくちばしを動かすたびにみょんみょんと上下に動くのです。いつか見た健康器具を思い出します。どうやらそれを咥えたまま、もごもごと一生懸命鳴いていたようなのです。聞き取りづらいはずです。そして私と顔合わせをした鳩はもう鳴くこともなく、かといって逃げる様子もありません。怯えているようでもありません。むしろ、どっしりと構えているようにも見えました。両者はそのまましばらく見つめあっていました。とはいってもそれは数秒足らずのことで、先に折れたのは私のほうでした。私はそっとカーテンを戻し、鳩の視界から消えました。再び息を潜めます。そして、パタパタと羽ばたきが聞こえました。カーテンを開けると、そこにもう鳩はいませんでした。木の枝も、ありませんでした。　　彼(彼女?)の他に、別の鳩がいた様子もありません。どこからともなく木の枝を咥え我が家のベランダまで飛んできて、用途不明なその木の枝を離す事もせず奇妙な呪文を呟き続けて、一体、誰に、何を伝えたかったのでしょうか。皆目見当がつきません。　　そんなある日の出来事でした。 ★閲覧、評価、ブックマーク、ありがとうございます!! 　★ブクマコメはコメント欄にて返信させていただきます。