人間に憧れた雪だるまのお話 番外 前編
雪だるまにはない足、動かせる腕。雪だるまだった彼は、ついに憧れの人間になれることができました。ただひとつだけ、人間と違ったのは、彼が雪でできた体のままだということでした。 雪の降るある日、森から少し離れた広原で、彼は雪だるまに出会いました。ぽつんとひとつだけ立っているその雪だるまは、顔は笑っていましたが、なんだか寂しそうでした。 「きみも、ひとりぼっちなの?」 雪だるまだった頃の彼には雪だるまたちの声が聞こえましたが、今の彼にはもう聞こえません。何も答えない雪だるまに、彼は一人で語り始めました。 「ぼくもね、ほんとうは ただのゆきだるまだったんだ。 ……ニンゲンになりたくて、まいにちねがっていたら、こんなすがたに なってたの。 ぼくは、ニンゲンになって、トモダチをつくって、みんなでいっしょに あそびたかったんだ。 ……でもね。 ニンゲンって あんまりいいものじゃ なかったよ。 みんな、ゆきよりもつめたいめで ぼくをみてくるんだ」 雪の体と雪を操る不思議なチカラのせいで、人間たちは彼のことを「雪のオバケ」だと呼び、恐れ、避けました。誰も友達にはなってはくれず、彼はとうとう孤独になってしまいました。 そんな彼と、周りに何もない、誰もいない場所で立っている雪だるまは、少しだけ似ているように感じました。 「きみ、ぼくとおなじ あおいマフラーを しているんだね。 よかったら、なかよくしてくれないかな……?」 雪だるまはやっぱり何も答えませんでしたが、それから毎日、彼はこの雪だるまに会いに行くようになりました。 ◆ナナシがナナシと呼ばれる前の、誰も知らない出会いと別れの物語。 ◆後編【illust/27492377】
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2012-04-28 17:56
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