お嬢様の遊覧飛行

「なんて美しい光景…世界が遍(あまね)く私のものになったようです…」

ちょっと耳障りなノイズが混じるがほぼクリアなベアトリクスさんの声が脳内に響く。

「現在高度はおよそ2000メートル。対地速度は時速200km弱で約10度の緩上昇中です。」

お嬢さんに現況報告をしたが、音声で伝わったのかちょっと不安がよぎる。

「今からゆっくり左旋回しますが、操縦系統には触らないでくださいね。」
「わかりました。」

会話が成り立っているから意思疎通に問題なしと判断して、両手の指先と左足のつま先にじわりと力を込める。すると機体はのんびり左に傾き、やがて進路を変えていく。

「直樹。この飛行機は本当にあなたなのですか？ しっかりとした金属の感触があって、とてもあなたが変身したものとは思えません。」
「変身ではないですよ。･･･時間節約の為に変身と言いましたが、実際には違います。」

旋回を終え水平飛行に戻してから続ける。

「私自身の本質は変化していないので、例えて言うなら私がお嬢様を肩車とかおんぶしている感じでしょうか。」

左下をサンゴ礁が過ぎていく。

「私が操縦席をこちょこちょすると、くすぐったいのでしょうか？」
「多分…、でも安全の為にもしないでくださいね。」
「はーい！責任をもって任務についている殿方の邪魔はいたしません。」
「ありがとうございます。…当機はこれより緩降下し高度800mでグレーン環礁群上空を通過、その後転進してミナイルダ空港へ向かいます。着陸予定は40分後です。眠っていただいても構いませんが、射出座席のベルトだけは再確認してください。」

環礁群上空で次々襲ってくる感動に疲れたのか、転進するころにはぐっすりお休みのベアトリクスさんでした。
　
　
　
－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－
前：illust/27147554
次：illust/27192145

追記
個人的に戦闘機は「平和な空を派手なカラーリングでのんびり飛ぶ」のが一番似合うと思ってます。こういう「才能の無駄遣い」というのは、ある意味で一番美しい才能の発揮方法ではないかと思う次第です。

189