夢は枯野をかけ廻る
「……ああ、良い風だ。なあ―――」呼びかけて、男は小さく息を吐いた。緩やかに流れた数年の旅路の終わりは此処に。手向けの花は笛吹水仙。遠く、優しい日々の残滓は今もなお、彼を柔らかに包み続ける。「じゃあ……行ってくるよ」別れの言葉など不要。彼に託されたその切なる想いが、その羽ばたきを支え続ける限り。そうとも、彼はひとの想いにてその命脈を繋ぐもの。誰もが思い望んだ、誰にも叶わぬ遠き理想として、常にそこに在る。……ふと、思い返す。彼女は、そのようなモノを何と言っていたか――「あぁ、そうだった――」独り歩き出す男の姿が、『赤く』揺らめき―――「……ロマンか。確かに――いい、言葉だ」
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2012-05-26 21:04
Comments (2)
>>白眉さん 切ないですが、それもまた世の真理ですね。
誰かが何かを忘れるということは、誰かは“何か”を覚えているという事。その逆もまた然り。故に、想いは消えることはない。誰かが忘れても、誰かは必ず覚えている。これからも、ずっと―――