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酒に浸りて妖狸逍遥

 マミゾウさんはずるい。佐渡とかいうところから来ただいぶ年を食った狸妖怪だという話だが、本当にずるい。
 どのへんがずるいのかというと、いかにも気のあるような素振りを見せておきながら、それを隠そうとするのがずるい。それでいて、たまに恋を知らない小娘みたいな顔をするのも、僕を騙している気がしてずるい。
 この間なんか、昼のおやつにホットケーキを作ろうと準備しているところにやってきて「下腹に毛が無いって知っとるか?」と、にやにやしながら言ってきた。
 曰く、年をとった古狸の腹には毛が無いことが転じて、人を騙くらかす悪いやつのことを「下腹に毛のないやつ」と言うらしい。
 マミゾウさんは僕の背中にぎゅうっと抱きつきながら、
「わしは先生と呼ばれるほどの化け狸じゃが、下腹にはふさふさの毛が生えておる。つまり、心は真っ白じゃ。どうじゃ、見てみるか?」
 などと抜かしやがった。あまりにうっとおしいので押しのけようとしたら、
「そげに邪険に扱うなよぅ、寂しいんじゃよ、かまっとくれよぉ」
 と離れようとしない。あげくマミゾウさんの振り回した手が、ホットケーキの粉袋をひっくり返して、2人して粉だらけになってしまった。
 せっかくのおやつが台無しになったというのに、彼女は、
「心どころかツラまで白うなった。あっはっは」
 と呑気に笑っている。腹が立つったらありゃしない、呆れて物も言えぬ。それでいて
「よし、一緒に昼風呂と洒落込もう。ちょうど裸になる口実が出来た。下腹に毛のあるところをしっかりと見ておくれ?」
 とか言いやがる。本人はサバサバしているつもりなのだろうが、恥ずかしがっているのが見え見えで、それでいて嬉しそうなのが目に見えてよくわかる。
 替えの下着を用意しながら、もしかして最初からこれを狙ったマミゾウさんの計算通りなのではないかともんもんとしていたら、そんな僕の考えを見透かしてか、にやあっと笑いやがった。どっちが素でどっちが演技なのかわからない。やっぱり、ずるい。ずるすぎる。

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2012-06-06 02:54

 H.E


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