作家と編集
初めてその男と会った時に、私の胸でぐるぐる渦巻いたのはただひらすら不快感のみでした。男には編集者としての誇りも悟りも誠実さも真摯さもなく、軽薄で剽軽でいい加減で、そしてとても怠そうだったからです。古臭いと評されることが多かった私に、先の先を走っているような彼はまるで似つかわしくありませんでした。しかし私の本質を見抜いたのは後にも先にも彼だけで、それがまた非常に腹立たしく、そして同時に嬉しくもありました。そんな逆さの想いを頭の中でまぜこぜにしながら、今の今まで築いて来た自らの日常を振り返ります。つい最近まで、ペンとナイフを持ち替えながら創作に励む苦悩の毎日を独り、過ごして来ました。そしてそれは此度の編集によって大きく変えられることとなったのです。「センセイ、ガチの殺し、したことあるでしょ?」そんな問を投げかけてくる読者からの手紙は少なくはなかったのですが、いざ面と向かって問われると私は、どうしようもなくなってしまったのです。
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2012-08-08 23:53
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