砂浜にて
先々週は山へ行ったので今週は海。
今月はちょっと(=かなり)ムリして二回のお出かけだ。
「日差しも照り返しもきついから、ビーチパラソルの影から出ない方が良さそうだよ。」
「そうみたいね。下を向いてても瞼が赤く見えるもの。」
ここは全くの偶然から紹介してもらえたプライベートビーチ。
大した広さじゃ無いけれど、手摺も何も無い状態で不特定多数が入り乱れる砂浜で彼女を連れまわすのは精神的に疲れるので、大変ありがたい。
もちろん二人きりになれるというのも心躍るものがある。
洒落っ気の無い黒ワンピースの水着に白っぽいパレオって言うんだっけ?巻きスカートを組み合わせている。事前に彼女から「海には入らないわよ」と釘を刺されていたけど、現地に着いたら「海に来たらやっぱり水着でしょ」とわざわざ着替えてくれた。
どちらかといえばスレンダーなプロポーションなので派手なセクシーさは無いけれど、黒とオフホワイトの組み合わせは十分以上に彼女を魅力的に見せていた。
彼女から視線が外せなくなってしまったので、目隠しに感謝。
「顔がツートーンカラーになっちゃうね。」
「(目隠しを)外すのはお風呂の時位だし、素顔を見せるのは家族だけだから構わないわよ。」
レジャーシートに座り沖の方に顔を向ける彼女。その横顔から視線を外せないままの僕。
海鳥の泣き声と潮騒の中、言葉を交わすでなく、他に何をするでもなく、贅沢に時間を過ごす。
もしかしたら夢を見ているのではないかと錯覚するほど、微かに吹く風がゆっくりと心の澱をどこかに運び去ってくれる。
「ねぇ、手を出して。」
不意に彼女が右手を差し出す。
何時間も佇んでいたような錯覚にドキッとしたが、そこまで長い時間ではなかったようだ。
差し出された右手と彼女の顔の間を何度も視線を往復させた後、言われるままに左手を差し出し、手を繋ぐ。
「本当に私を好きなの?」
いきなりでびっくりしたけど、以前から口に出している事なので躊躇無く答える。
「うん、好きだよ。」
「・・・・・・そう。じゃあ、もう一つ。」
彼女の手にぐっと力がこもる。
「私がどんなに醜くても友達でいてくれる? 例え私の事を嫌いになっても。私がどんな悪女になっても。」
僕は言葉に詰まった。これは難しい問いだ。醜くても、嫌いになっても、悪女になっても友達でいて…か。彼女の望む友達像を思い、しばらく考える。
「わかった、約束するよ。君とずっと友達だ。でもね…」
僕の手を握る力がどんどん増して痛い程だ。
「君の事を全肯定はしないよ。友達だからこそ耳に痛い話もするし、キツい忠告もする。それでいいよね?」
彼女が静かに頷き、溜め息とともに手が緩む。
「イジワルね。『いつでも僕は君の味方だ』ぐらい言ってくれるかと思ったけど……。でも、『とてもあなたらしい』とも思うわ。」
いつの間にか風が出てきたようだ。彼女の髪が大きく風にさらわれ、もてあそばれる。
「ようやく…決心がついた気が…する。」
その声はあまりに低く、聞き取るのに苦労した。
「何の決心か聞かない方が良いよね?」
「そうね、聞かないでいてくれると助かるわ。」
「じゃあ、話してくれるまで僕からは聞かない事にするよ。」
僕の答えがおかしかったのか、彼女が微笑んだ時、今日会った時からの違和感の原因にようやく気が付いた。
「もしかして、口紅の色、変えた?」
「もしかしなくても変えたわよ。もぉー。やっと聞いてくれた。」
ぷくーっと頬を膨らませる。
「やっぱり母の言う通り、こっちがいくら頑張っても、男の子は気付いてくれないのねー!」
「朝から違和感はあったから、気付いてたんだよ。ホントだよ! 」
彼女は繋いでいた手を握りなおし、僕を引っ張る。
「帰るわよ!自分の為に女の子がお洒落しても気が付かなかったご褒美として、美味しいコーヒーをオゴられてあげる。」
「えー、それご褒美じゃなくて罰だよ。」
「罰なら、レモンパイも付きまーす!」
「ご褒美でいいです。」
傾きかけた陽が、砂浜を歩く二人の背中を押してくれた。
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今月はちょっと(=かなり)ムリして二回のお出かけだ。
「日差しも照り返しもきついから、ビーチパラソルの影から出ない方が良さそうだよ。」
「そうみたいね。下を向いてても瞼が赤く見えるもの。」
ここは全くの偶然から紹介してもらえたプライベートビーチ。
大した広さじゃ無いけれど、手摺も何も無い状態で不特定多数が入り乱れる砂浜で彼女を連れまわすのは精神的に疲れるので、大変ありがたい。
もちろん二人きりになれるというのも心躍るものがある。
洒落っ気の無い黒ワンピースの水着に白っぽいパレオって言うんだっけ?巻きスカートを組み合わせている。事前に彼女から「海には入らないわよ」と釘を刺されていたけど、現地に着いたら「海に来たらやっぱり水着でしょ」とわざわざ着替えてくれた。
どちらかといえばスレンダーなプロポーションなので派手なセクシーさは無いけれど、黒とオフホワイトの組み合わせは十分以上に彼女を魅力的に見せていた。
彼女から視線が外せなくなってしまったので、目隠しに感謝。
「顔がツートーンカラーになっちゃうね。」
「(目隠しを)外すのはお風呂の時位だし、素顔を見せるのは家族だけだから構わないわよ。」
レジャーシートに座り沖の方に顔を向ける彼女。その横顔から視線を外せないままの僕。
海鳥の泣き声と潮騒の中、言葉を交わすでなく、他に何をするでもなく、贅沢に時間を過ごす。
もしかしたら夢を見ているのではないかと錯覚するほど、微かに吹く風がゆっくりと心の澱をどこかに運び去ってくれる。
「ねぇ、手を出して。」
不意に彼女が右手を差し出す。
何時間も佇んでいたような錯覚にドキッとしたが、そこまで長い時間ではなかったようだ。
差し出された右手と彼女の顔の間を何度も視線を往復させた後、言われるままに左手を差し出し、手を繋ぐ。
「本当に私を好きなの?」
いきなりでびっくりしたけど、以前から口に出している事なので躊躇無く答える。
「うん、好きだよ。」
「・・・・・・そう。じゃあ、もう一つ。」
彼女の手にぐっと力がこもる。
「私がどんなに醜くても友達でいてくれる? 例え私の事を嫌いになっても。私がどんな悪女になっても。」
僕は言葉に詰まった。これは難しい問いだ。醜くても、嫌いになっても、悪女になっても友達でいて…か。彼女の望む友達像を思い、しばらく考える。
「わかった、約束するよ。君とずっと友達だ。でもね…」
僕の手を握る力がどんどん増して痛い程だ。
「君の事を全肯定はしないよ。友達だからこそ耳に痛い話もするし、キツい忠告もする。それでいいよね?」
彼女が静かに頷き、溜め息とともに手が緩む。
「イジワルね。『いつでも僕は君の味方だ』ぐらい言ってくれるかと思ったけど……。でも、『とてもあなたらしい』とも思うわ。」
いつの間にか風が出てきたようだ。彼女の髪が大きく風にさらわれ、もてあそばれる。
「ようやく…決心がついた気が…する。」
その声はあまりに低く、聞き取るのに苦労した。
「何の決心か聞かない方が良いよね?」
「そうね、聞かないでいてくれると助かるわ。」
「じゃあ、話してくれるまで僕からは聞かない事にするよ。」
僕の答えがおかしかったのか、彼女が微笑んだ時、今日会った時からの違和感の原因にようやく気が付いた。
「もしかして、口紅の色、変えた?」
「もしかしなくても変えたわよ。もぉー。やっと聞いてくれた。」
ぷくーっと頬を膨らませる。
「やっぱり母の言う通り、こっちがいくら頑張っても、男の子は気付いてくれないのねー!」
「朝から違和感はあったから、気付いてたんだよ。ホントだよ! 」
彼女は繋いでいた手を握りなおし、僕を引っ張る。
「帰るわよ!自分の為に女の子がお洒落しても気が付かなかったご褒美として、美味しいコーヒーをオゴられてあげる。」
「えー、それご褒美じゃなくて罰だよ。」
「罰なら、レモンパイも付きまーす!」
「ご褒美でいいです。」
傾きかけた陽が、砂浜を歩く二人の背中を押してくれた。
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2013-01-19 23:19
Comments (2)
髪の分け目とか、口紅とか、ピアスとか、お洒落ポイントがたくさんあるので、よく見ているつもりでも漏れがありますよね~。
女の子のお洒落は普段から良く見ていないと気付きにくいですよねぇw