【PFNW】お呼びじゃないのよ【異世界の遺産】

山の天気が変わりやすいのは知っていた。だがそれにしたってこの暗闇は何なのか。突然空が曇り、夜のように辺りが暗くなる。そして叩きつける白い嵐。
それと共に、どこからか声がする。

つれてゆくぞ　つれてゆくぞ

突如吹雪の中から現れた何百という橙色の虚ろな光。
「リーシュ！！」
リンデの鋭い声に呼応するように甲高く鳴いたリーシュの身体が翻る。
追いすがる鋭い爪をヴィネガーの魔法が弾き飛ばした。響く轟音。
振り向き様、銃を構えたリンデの目に映ったのは何百という暗闇。

しにたいものはつれゆくぞ

それは、リンデが生まれて始めて眼にした、死人の目を思い出させた。
街道から外れた森の中、腐りかけた身体で虚ろに空を見ていたあの名も知らぬ旅人。
自由を願い、望み、あの鳥かごの中を飛び出したその瞬間から、リンデにとって死は身近になった。
物語の向こうの話ではない。劇の中の出来事ではない。
つい先ほど共に笑った仲間が、次には物言わぬ塊となっていることもあった。
死はいつでも隣にある。いつだって背中合わせなのだと知った。
背筋を冷たいものが走る。死には勝てない。勝ってはいけない。
不意に、脳裏を過ぎるのは祈りの言葉。
変人卿と呼ばれた、祖父の言葉。

「――『我等ハイロンドの民　空に生まれ、空に生き、空に死ぬもの』」
「『我等が故郷はこの空にあり　我等が魂はこの風にあり』」
「『我等ハイロンドの民　空に抱かれ眠るものなり』」

微かにぶれていた照準がぴたりと止まる。
震えはない。リーシュの毒の羽根は相変わらず暖かいし、ヴィネガーのフォルムも変わらず丸い。小言も絶好調で五月蠅い。

「アタシの還る場所なら知ってるわ。だから、アンタに連れて行って貰わなくても結構よ」

おとといきやがれ、呟きながら引き金を引いた。

◆お借りしました
非公式イベント：百赤眼の白魔竜-死への誘い-【illust/34917619】

■補足：リンデの祖父はハイロンドの貴族でしたが、冒険者に憧れて貴族とは思えない言動や奇行が目立っていたので、変人卿と呼ばれていました。でも本人は、空に生きるハイロンドの民であることに誇りを持っていました。リンデ自身にはハイロンド人としての誇りや忠誠といったものはあまりないのですが、空に生きるという点に於いてだけは、祖父からの刷り込みでハイロンド人だという意識が強く出るようです。ちなみに祖父は飛行船の事故で既に帰らぬ人となっています。

パートナー騎竜：雷帝種のリーシュ【illust/34352797】
自キャラ：リンデ＆ヴィネガー【illust/34121875】
【企画元：illust/33956297】

描く予定は未定ってよくあるよね…（遠い目）