初雪
「久しぶりね」彼女はそう言って、僕の前に姿を現した。随分と早かったじゃないか、と僕は言う。すると彼女は「誰かさんが寂しそうにしているんだから、早く来ないわけにはいかないでしょう?」といたずらっぽく笑った。その細めた薄灰色の瞳には、無数の小さな、白い結晶が映りこんでいた。あの時もこのような感じだっただろうか。 しばし僕と彼女は、しばらく会っていなかった互いの距離感を確かめるように見つめ合った。そしてまた、「久しぶりね」と彼女がつぶやく。「昔は時間を感じることなんてあまり無かったのに」少し恥ずかしそうに目を逸らす。僕の体の周りを落ちる雪が少し舞った。「色々言いたいことがあったんだけど、顔を見たら忘れちゃったな」僕はうん、とひとつ頷いて彼女の次の言葉を待った。しかし、彼女は何も言わなかった。僕の顔をちらりちらりと見ては、伏し目がちに「えへへ」と彼女らしくない笑い声を出すのだった。 僕はそんな彼女の仕草に不意に心を揺さぶられた。僕は彼女に近づき、手をとって歩き出した。彼女は最初驚いた様子だったが、すぐに僕の歩く速度に合わせて歩き始めた。 久しぶりに触る彼女の手。不気味なまでに白く透き通った肌は、相変わらず冷たかった。 歩きながら、そっと彼女の手を握る。強く触ったら、壊れてしまいそうだった。 きゅっ、きゅっ。 握ると、彼女も少し遅れて僕の手を握り返してくれる。僕の胸あたりにある彼女の顔は見えないが、表情はなんとなくわかっていた。 二人の歩く速度は適度に中和され、先ほどまで落葉で埋まっていた道が、彼女の心で白く染まっていく。僕と彼女の間に言葉は無い。とても静かな帰り道だった。ただ時々、手を握っては握られる、この繰り返しだった。 音も無く降り積もる雪の中で、彼女はまた僕の前に姿を現した。長い季節がやってくるな。僕は彼女の華奢な手を握りながら、そんなことを考えた。
■初雪記念。衝動に任せて描いたらこんなんなりました。妄想爆発でごめんなさい。
■初雪記念。衝動に任せて描いたらこんなんなりました。妄想爆発でごめんなさい。
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2013-11-11 22:44
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