チョコの架け橋

「あ・な・た！ポッキーゲームしましょ♪」
彼女が言った。この部屋に来てから時間の感覚がなくなっていたが、どうやら今日は11月11日のようだ。俺は快く承諾した。
「うふふ…うれしいです…たくさんありますからねぇ…」
彼女が細い菓子を艶かしく舐め始めた。そしてそれを咥え、舐めたチョコの方を俺の方に向けてきた。俺はその先を軽く口に含んだ。カカオの風味と何とも言えない匂いがした。しばらくする小気味良い軽い音と共に彼女の顔が俺の顔に近づいてくる。俺が提督でなくなった時より血色が悪くなった顔、とうに尋常の光を失った目。そして彼女と俺の唇が触れた。彼女は何かを強く求めるかのように俺の唇に強く吸い付き、俺の背中に腕を回し強く抱きしめる。俺は言った。
「どうしたんだい？そんなにして欲しいのなら素直に言えばいいじゃないか。こんな幼稚で手間のかかる事をしないでさ」
「そんな…、駄目ですよぉ、こんなに用意したのに、せっかくの日なのに…」
しかし、言葉に反して、俺が口を開けると彼女の方から先に歯と歯の間に肉を滑り込ませてきた。こちらも同様に入れる。チョコ菓子の味と彼女の味を自身の舌で舐め回し堪能する。俺と彼女はそのまま互いを味わい続けた。

口づけをしている間ずっと、彼女の言った、一つになりましょ。という言葉を思い浮かべていた。傍から見れば醜悪な行為だろう。俺は全てを失った上で彼女に覆いかぶされ狂ってしまったのだろうか？何故今はここまで彼女に惹かれるようになったのだろうか？
あの時は彼女が利己心と復讐から俺の地位を奪い、自分のものにしたのかと思っていたが、今思えばそんな高次的感情ではなく、もっと子供っぽい感情、純粋に俺を求め、俺に愛されたかったのではないかと思う。主の悪行により険悪で張り詰めた雰囲気になっていた鎮守府で、役割を与えられず放置された事が彼女の心を徐々に病ませ、辛い現実から逃避する為に俺との生活を夢想するようになったのではないだろうか。
彼女の言った通り、今、俺の世界には彼女しかいなくなった。彼女は外に出る時は俺が逃げないよう俺を軽く拘束するが、俺はそんな事されなくてもここから去るつもりはない。今俺はここまで低級の存在になったが、彼女が俺を愛してくれているのならそれでいい。

「ぷはぁ…今日はいい日ですね♪」

・・・ここまでにしないといつか「長いキャプションと共に病んだ大鯨を描く人」で印象が定着しそうw

P.S 提督はいつもの人とは別人です