【すいまじ】　恐怖ではない　【明日の神話】

……なんだろう……胸が、締め付けられる……
初めて見るはずなのに……私は、この絵を「知っている」……

とても怖い絵だ。人は燃やされ、乱暴な力が総てを薙ぎ払っている。
叩きつけるなんてものではない、文字通りの破壊の瞬間。
あらゆる物が、「外」へと逃げようとしてる。
炸裂したその力から逃げようと、懸命に。

燃やされた人の後ろに、大勢の人影。亡者の群れが、あとに続いている。
その瞬間に奪われた命を返せと、まるで魍魎の呻きのように。
埋め尽くされたその破壊と、死と、圧倒的な絶望。

けれど。

この絵を前にして、身が竦むほどの恐怖を感じていながら、
この胸の奥から沸き上がってくる想いは一体何だろう。
震えてるけど、怖いから震えてるんじゃない。
怖いとしか思えないはずのこの絵から伝わって来る「何か」が、私の心を震わせる。

そう、この絵は、私を奮い立たせてくれる。励ましてくれるのだ。
この絵の本質は、「恐怖ではない」のだ。

　背景に岡本太郎氏の最大傑作「明日の神話」をお借りして。
　この絵は原子爆弾炸裂の瞬間を描いたものとされ、その直接のモチーフとなったのが第五福竜丸被爆事件にもなった水爆実験だったといいます。
　全長30ｍ、全高5.5ｍにも及ぶ巨大な絵はメキシコオリンピックでお披露目されるはずでしたが、諸事情により行方がわからなくなり、2003年に再発見されるというかなり特殊な経緯を持っていたりします。
　見ての通り、原爆の持つ壮絶なイメージをこれでもかと全面に押し出していながら、もたらされる悲劇だけではないさらに重要なメッセージ……人はどんな困難をも乗り越えることができるというメッセージが炸裂しています。岡本太郎自身が生きていて解説するならば「原爆？好きなだけ使え！そんなもんに人間は負けやしないぞ！」ということになるのでしょう。