クマの主はもういない。

ランプに火を灯す前。彼はただのクマだった。
あのね、あのねと笑っていた、あの子はもういない。
その唇が動かなくなったのは、いつからだろう。
その瞳が涙で濡れるようになったのは、どうしてだろう。

クマは知らない。クマは動くことさえできない、ぬいぐるみだからだ。
何かがあったのは、知っていた。それが何なのかは、知らなかった。
あのね、あのねと語りかけてくれていた、あの子はもういない。

あの子が去った時、クマは動けない体を呪った。
目の前にいながら、止められなかったこの身を憎んだ。

だからクマは望んだのだ。動ける体を。
暗い森に堕ちた主を探すための、光を。
身を切り裂くような氷を溶かす、火を。

そしてクマは、ランプを持った。
迷ってしまったあの子を、探し出すために。
例えその身が、いずれランプの炎で灼き尽くされると知っていても。

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2015-02-01 23:50

 歩登


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