ただいま

どこいってたんだよ。
先月くらいだったか・・・、オカンはオトンと俺を捨ててあの男のもとへいった。
オトンは自分の不甲斐ないせいでオカンは逃げてしまったのだと思って、
ずっと塞ぎ込みがちになっていたのだが、俺はオカンがどうして急にこの家を出て行ったのか知っていた。
相手は誰か知っている、俺の家庭教師に来ていた大学生だ。あいつがきてから、オカンはみるみる女になっていった。
前より輝いてたし、今までみたこともないオカンだった。
したこともないネイルアートなんか始めやがって、爪が岩に貼り付いたカメノテのようにラインストーンだらけだった。
唇も最近流行りのリップグロスを厚塗してまるで明太子のようだった。
眉毛もいまどきの子に合わせて太眉メイクにしたばっかりについにつながりやがって、
俺、みるにたえねえよ・・・。
なにより、鏡の前でキスの練習をしているオカンをみて、
あの家庭教師に対する憎悪が俺の中に宇宙のようにビッグバンして膨れ上がり続けた・・・。
そんないたいけな少女に戻ったオカンが一月前俺たち家族の前から姿を消した。
俺はもうオカンは戻らないだろうとうなだれた。オトンは仕事から帰ってきたとたん、泣き崩れた。
「俺のせいだ、俺が母ちゃんになんもしてやれなかったから・・・！
母ちゃんが嫌がったのにばあちゃんの訪問を断れなかったし、
月に一回は俺の実家に絶対行かなきゃって無理やり連れて行ってたから・・・！！」
確かにそれもあるかもしれない。でも、あんまりじゃないか！そんなふうに考えてしまうのは俺が息子だからか？
でもいくらあの男に夢中でも、家族を捨てていくようなそんな無責任な大人じゃないって俺、信じてたよ。信じてたよ！オカン！！
それなのにオカンは俺たちから逃げてあの男のもとへ行ったんだな。
もうその男のものになったんだなオカンは。
それなのに今頃なんだよ？なんでいまさら戻ってきたんだよ？！
しかも何ミニスカなんかはいてんだよ？！ただいまってなんだよ、おかしいだろ！！
俺とオトンがどんな想いでオカンを毎日毎晩この家で待ってたと思ってるんだ。
今、何時だと思ってるんだ。今、夜の一時だぞ！？
俺がどんな想いで勉強机に向かって意味のない東大の赤本なんかの勉強を毎晩してたと思うんだ。
こんなの受かるわけないだろっ！！
でもこうでもしなきゃ、俺寂しさに押しつぶされそうなんだよ！！
・・・でもオカンは最終的に俺たちを選んでくれたんだよな。
だったらもう、いいよな・・・
・・・
・・・・
・・・・・・・
「おかえり」