静電気の夜
N15と1/2yの星から30日ほど続いた雨の季節は、西方より訪れる電気雲によって終わりを告げる。ギンウミグラスモドキの群れがノルドレスの海からはるか北の大地へと繁殖のために飛び立ち、雨粒を受けてサラト・ウムが開花し死者の丘がすっかり薄紫色に染まると、かしこでうすく光る大きな雲が、この平野一帯の空に集まり始める。衛星から吐き出された微弱な電気は、この星を一周する内に一年かけて雲に溜まり、その雲は電気雲と呼ばれるようになる。そしてその静電気はこの地方の雨の季節の終わりに、一晩かけて明滅とぱちぱちという音をたてながら地上にてんでばらばらに降りてくる。そしてそれはかならず夜に始まった。この現象ははるか昔、たてがみ座から降りてきた7人の賢者がこの地に豊穣を齎すために衛星に施した魔術とも、今では失われた技術を持っていた者たちが衛星を解剖したことによって狂ってしまった磁場から発生しているとも言われていたが、今となっては本当のことを知る者はいない。その夜は明かりがなくとも、平野のはずれの北にある都市の遺跡の一部を十分に見渡すことができたし、芽吹いたばかりの草を慎重に踏みながら歩く彼女の横顔をはっきりと見てとることができた。大気中にはたっぷりと水分が含まれているが、夜風がすずしくまるで湖の中を歩いているようだった。やがていくつも肌にぴりぴりちりちりぱちぱちとした刺激を感じる。この夜が明けるとこの地にも夏が訪れる。「実際、ここの植物は静電気を吸って生長するそうなのだよ」と彼女が、
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2009-07-10 21:45
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