【花冠】エリメ【投票】
私を見つけてくれて 選んでくれて ありがとう
エリメ【illust/57221329】から
玄さん【illust/57319453】へ
**********
その青年に会ったのは、いつものように街へ行く途中、雨上がりのきらきら光る森の中.
同じく傭兵をしているというその人は、探し人があるらしい.
ならば市場で話を聞けばどうかと誘った.あそこは、各地をまわる旅人や商人も多いから、と.
それがはじまり.
それから彼は意外にも、たびたび私の元へ訪れた.
親切で、可愛らしい娘はもっと他にいるだろうに、物好きな人だ.
けれどいつしかそんな彼を、今日は来るだろうかと待っている自分に気が付いた.
(そういえば探し人が見つかったら、ここから去るのかな、なんて)
…考えていることは言わないと伝わらない.元来自分は思っていることは口に出す性格だ.
さて、彼はどんな顔をするだろうか…………………
「ああ、よかった来たのか.待っていた.そう、玄を待っていた.
今日は聞いてほしいことがあって―――
**********
勇者歴33年
傍の窓から外を眺める.彼の故郷であるこの国は今日も賑やかで、色鮮やかだ.
この国に共に移り住んで、だいぶ時が過ぎた.家族もふえた.
二人きりのおだやかな時も好きだったが、子供を2人も授かってからはこの家も賑やかで、
ずいぶん時がたつのが早かったように思う.
その子供たちも数年前それぞれ相手を見つけ、結婚したのだから.
しかも娘のフィリズは来年、母になるんだと嬉しそうについこの間教えてくれた.
孫か、それは会ってみたかったなと少し残念に今は思う.
見た目がほとんど老いないのでわかりにくいものの、なんとなく自分の死期はわかるのだ.
だから先ほど、娘と息子には別れを済ませた.
孫の顔を見るまで待てなくてすまないと言ったら娘をわんわん泣かせてしまった.
彼女には息子がついていてくれるだろう.家に帰ればあの背の高い彼もいるのだ.きっと大丈夫.
フィルもアルも優しく、まっすぐに育ってくれたので特に心配はしていない.
部屋のドアが開いたので、窓から視線を移す.
娘と息子に、自分がいなくなった後の父さんをお願いね、と言ったのはこの人には内緒だ.
3つ年下の彼はとてもまっすぐな人で、そのピンと伸びた背中が好きだった.その立ち姿は今も変わらない.
話してみると意外と柔らかく笑ったり照れたり、娘の結婚を頑固に認めなかったり.
そんな彼の表情を見るのが楽しくてしょうがなかった.
…やはり一番の心残りはそんな彼を置いて早々に自分がいなくなること.
子供を望まなければ、おそらく彼を見送る側にもなれただろう.
でもこの人との家族をつくりたいと、どうしても思った.最初で最後のわがままだったかもしれない.
結果、彼女たちに会えて本当に良かったと思う.後悔はしていない.
だから先に逝くことへの謝罪は言葉にしないことにした.
昔初めて気持ちを伝えた時のように彼の手をとって、伝える.
「私と家族になってくれて、ありがとう.幸せだった.後悔は何もない.
…今度は私が、ルタを迎えに来るから.それまで、私の代わりにたくさんのことを見て、生きて.」
**********
勇者歴94年
ずっとずっと、この庭で待っていた.
あの日と同じ風にのって、愛しい人の元へ、約束を果たしに.
ルタ ルタ あいたかった
おつかれさま ありがとう
さあ つきないはなしをしよう ふたりで
**********
エリメとは雪解け.
真白で美しくも冷たい雪は解け、新たな命の芽吹きを見守り生きた.
己の芯は見失わず 愛しいものの背を見守った 白き花添う人のおはなし.
コチョウラン:純粋な愛
エリメ【illust/57221329】から
玄さん【illust/57319453】へ
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その青年に会ったのは、いつものように街へ行く途中、雨上がりのきらきら光る森の中.
同じく傭兵をしているというその人は、探し人があるらしい.
ならば市場で話を聞けばどうかと誘った.あそこは、各地をまわる旅人や商人も多いから、と.
それがはじまり.
それから彼は意外にも、たびたび私の元へ訪れた.
親切で、可愛らしい娘はもっと他にいるだろうに、物好きな人だ.
けれどいつしかそんな彼を、今日は来るだろうかと待っている自分に気が付いた.
(そういえば探し人が見つかったら、ここから去るのかな、なんて)
…考えていることは言わないと伝わらない.元来自分は思っていることは口に出す性格だ.
さて、彼はどんな顔をするだろうか…………………
「ああ、よかった来たのか.待っていた.そう、玄を待っていた.
今日は聞いてほしいことがあって―――
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勇者歴33年
傍の窓から外を眺める.彼の故郷であるこの国は今日も賑やかで、色鮮やかだ.
この国に共に移り住んで、だいぶ時が過ぎた.家族もふえた.
二人きりのおだやかな時も好きだったが、子供を2人も授かってからはこの家も賑やかで、
ずいぶん時がたつのが早かったように思う.
その子供たちも数年前それぞれ相手を見つけ、結婚したのだから.
しかも娘のフィリズは来年、母になるんだと嬉しそうについこの間教えてくれた.
孫か、それは会ってみたかったなと少し残念に今は思う.
見た目がほとんど老いないのでわかりにくいものの、なんとなく自分の死期はわかるのだ.
だから先ほど、娘と息子には別れを済ませた.
孫の顔を見るまで待てなくてすまないと言ったら娘をわんわん泣かせてしまった.
彼女には息子がついていてくれるだろう.家に帰ればあの背の高い彼もいるのだ.きっと大丈夫.
フィルもアルも優しく、まっすぐに育ってくれたので特に心配はしていない.
部屋のドアが開いたので、窓から視線を移す.
娘と息子に、自分がいなくなった後の父さんをお願いね、と言ったのはこの人には内緒だ.
3つ年下の彼はとてもまっすぐな人で、そのピンと伸びた背中が好きだった.その立ち姿は今も変わらない.
話してみると意外と柔らかく笑ったり照れたり、娘の結婚を頑固に認めなかったり.
そんな彼の表情を見るのが楽しくてしょうがなかった.
…やはり一番の心残りはそんな彼を置いて早々に自分がいなくなること.
子供を望まなければ、おそらく彼を見送る側にもなれただろう.
でもこの人との家族をつくりたいと、どうしても思った.最初で最後のわがままだったかもしれない.
結果、彼女たちに会えて本当に良かったと思う.後悔はしていない.
だから先に逝くことへの謝罪は言葉にしないことにした.
昔初めて気持ちを伝えた時のように彼の手をとって、伝える.
「私と家族になってくれて、ありがとう.幸せだった.後悔は何もない.
…今度は私が、ルタを迎えに来るから.それまで、私の代わりにたくさんのことを見て、生きて.」
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勇者歴94年
ずっとずっと、この庭で待っていた.
あの日と同じ風にのって、愛しい人の元へ、約束を果たしに.
ルタ ルタ あいたかった
おつかれさま ありがとう
さあ つきないはなしをしよう ふたりで
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エリメとは雪解け.
真白で美しくも冷たい雪は解け、新たな命の芽吹きを見守り生きた.
己の芯は見失わず 愛しいものの背を見守った 白き花添う人のおはなし.
コチョウラン:純粋な愛
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2016-06-12 21:10
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