死闘 -蒼い戦神と黒い裁き-
「今度は、どこを攻めるか…。」
肩に黒猫を乗せ、今日も地球人を殲滅するために飛んでいる、仮称・「ブラック」。
気配。
彼は急停止した。
「よう、また会ったな。」
その言葉を筆頭に、三人の男。
一人は孫悟空、一人はベジータ、一人はトランクスだ。
何故……いや、もはやどうでもよい。
「まさか、君とまた闘う日が来るとは思っていませんでした。」
「………カカロットだけではない。
ツケは返してもらうぞ。」
怒るベジータ。いや、あれを借金に例えるとは、まだ冷静か。
そして今さらのごとく控えているトランクス。
「みゃあ」
険悪な空気などお構い無しの、鶴、いや、「猫の一声」。
三人とも、つかの間呆気にとられた。
「あれは…。」
トランクスは、気づく。
よりによって、あんな奴の相棒になっているなんて。
降りる。
「ここから先は、行かせねぇ!」
気をとりなおす。ベジータも構える。
トランクスは見守っていることにしたらしく、すこし離れて立つ。
ならば
「私から離れ、しばらく捕食して待て。」
猫に囁き、こちらも構えた。
「 …安心しろ、貴様が再びそいつに会うことはない。」
かすかに眉をひそめる悟空をよそに、ブラックは
「すぐに片づける。
さあ、行け。」
言う。
猫はとびおり、しばらく駆けていたが、やがて獲物を見つけたのか、忍び足で遠くに消えた。
「…おめぇ、意外と優しいやつなんだな。」
「あの生物種が、神のしくじりでないというだけです。
…完璧なものまで消すほど、私は愚かではない。」
敬語を捨てる。
「…人間は、なんで[しくじり]なんだ?」
「理由は主に二つあります。
まず一つは、中途半端な知識を持つがゆえに、この世を不用意に疲弊させることです。
そして………もう一つは、むやみやたらに何かをうみだすことにあります。
それが世界に与える影響を、全く考えもしない。一つ目の理由の派生ですね。
そんな者たちが消えるのは、当然の理です。」
最後のあたりには、何かがこめられている。
「…そうか…。」
その言葉が、合図。
ボウッ!
蒼い神が、二人現れた。
(何て、力だろうか!)
驚くが、顔には出さない。
ちらりと背後を見て、ブラックはとびかかった。
蒼い神も。
・・・・・・・・
ドカッ!!…バキッ!
何度目か分からぬ、二人の打ち蹴り。
力の差は、圧倒的なものだ。
何とか、しなければ!
手がのびてくる。
ベジータの殴りだ。
(速い!)
咄嗟に、左に足を踏み出すのが精一杯だった。
真ん中には当たらなかったが、こめられた激しい気は、右の脇腹を削っていった。
「…っ!」
血に濡れる。
その時には、ブラックは体を彼にぶつけていた。
ゼロ距離で何発も撃つ。
「ぐっ!」
堪える。
背後。
「そこだっ!!!!!!!」
振り向きざまに、悟空を蹴り飛ばす。
「ぐあっ!!!」
…少しずつ、少しずつ慣れてきている。
やつらの動きに。
ただ、猫に言った「すぐ」は、とうに過ぎていた。
「…傷つけば傷つくほど、私は…強くなれる!」
だから恐れない。
食らう。
服が裂け、また傷がつく。そして気は増える。
(……このままじゃ……。)
ふとベジータを見ると、彼は頷く。
…決まった。
二人は、全力でブラックの腹に拳をぶつけた。
「…がっ!!!」
地面に叩きつける。
ドゴ!!!
「「はあっ!!!!!!!」」
己の力を放出する。
地で頭を打ち、気が遠くなりかけていた彼は、光を見てはっきりと目が覚めた。
!!!!
こんな、ところで、私は……
「………消えない……消えられるものかーーーーっ!!!!!!!」
間一髪、こちらも撃つ。
使えるギリギリを超えた、名のすべてを…こめる。
力に焼かれて自滅するとしても、せめて敵の弾にだけは倒れたくない!
「まずい……!!」
隣で焦る声。
凄まじい力で、ブラックは押し返していた。
(ブラック…。)
今、彼は何も感じていないのだろう。
ただでさえ浅黒い肌から、血の気がなくなっていくのに、笑っているのだから。
「界王、拳!」
息をするように、体が動く。
何倍かなんて気にしない。
終わらせるために撃つ。
…ドンッ!
(…受けねば!!)
最後に自分が何をしたのか理解する前に、全てが真っ白になった。
・・・・・・・・
たらふく、食った。
そのまま少し寝ようと思ったとたん、すごいおとがした。
何だろう?
すぐに片づけるという言葉と顔が、頭にうかんだ。
・・・・・・・・
静まりかえった野。
「…やりましたね…。」
近づいてくるトランクスに、二人は首を振る。
ブラックは、未だ立っていた。
右腕でかばうような体勢で、地面をぐっとふみこんでいる。
黒衣の所々は、もはや赤衣とよんでも差し支えなかった。
「あれを…耐えきったか…。」
「……。」
悟空は答えない。
…それが、お前の心か。
命を懸けて、背後の草木、虫、鳥、獣を守りきるとは。
「はあ………はあ……。」
ドサッ
それを見たトランクス、剣を抜いて…
「母さんの仇!!」
あまりの一瞬に、とめる間もない。
悟空が声をあげそうになった瞬間、トランクスの手から血が噴き出した。
そいつは口からいくつか指を吐き出すと、すぐにブラックのもとに寄った。
飼い猫に手を噛まれるとはよく言ったものである。
猫はゆさぶったりひっかいたりするものの、ブラックはぴくりとも動かなかった。
「…ベジータ、先にけえっててくれ。」
有無を言わさない。
「ちっ……。」
…納得はいかないが…。
・・・・・・・
やがて一人になった。
悟空は謝る。
「…すまねぇ。
あいつを、どうしても止めたかったんだ。」
神妙にしている猫。
悟空の瞳を見る。
「そっか。」
思いつく。
「わりぃけど、一つ頼まれてくんねぇか…?」
懐を探る悟空に、猫は一声鳴いた。
・・・・・・・
「………。」
目を開いたとたん、西日に目を射られる。
身体中が、まるで石にでもなってしまったかのようだ。
「みゃあ」
その声は……!
再び開くと、今度こそ見えた。
「…お前…ずっと、ここに…?」
猫は声を聞き、また鳴く。
前足で首をかまう。
橙色の布が巻かれていた。
(孫悟空の気配…。)
を微かに感じる。
まさか。
無理矢理腕をもたげ、ほどき、包みを開いた。
中のものを危うく取り落としそうになる。
それは、小さな緑色の豆だった。
「名」の記憶をたどる…地球特産の仙薬の一種で、摂取すると十日分の糧となり、また傷を癒す。
名は、確か仙豆。
笑わずにはいられない。
…そうか、これが孫悟空のやり方か。
まったく敵わなかったが、闘った意味は大いにあった。
コン
猫は鼻面でブラックの手を押した。
豆は微かに開いていた口に落ちる。
噛みしめて、飲みこむ。
…体が軽くなった。
あらためて決める。
「………孫悟空…私は、必ず君に勝ちます。
そして………人間には…消えてもらう…この世を救うために。
私は、必ず実行する。
…猫よ…見届けてくれるか?」
「みゃあ」
ブラックは頷き、そっと黒猫の顎の下に触れた。
猫は、気持ちよさげに喉をならし、やがて離された指先をなめる。
こうして、その日は暮れた。
・・・・・・・
追記
7月26日デイリーランキング316位になりました!ありがとうございます!
肩に黒猫を乗せ、今日も地球人を殲滅するために飛んでいる、仮称・「ブラック」。
気配。
彼は急停止した。
「よう、また会ったな。」
その言葉を筆頭に、三人の男。
一人は孫悟空、一人はベジータ、一人はトランクスだ。
何故……いや、もはやどうでもよい。
「まさか、君とまた闘う日が来るとは思っていませんでした。」
「………カカロットだけではない。
ツケは返してもらうぞ。」
怒るベジータ。いや、あれを借金に例えるとは、まだ冷静か。
そして今さらのごとく控えているトランクス。
「みゃあ」
険悪な空気などお構い無しの、鶴、いや、「猫の一声」。
三人とも、つかの間呆気にとられた。
「あれは…。」
トランクスは、気づく。
よりによって、あんな奴の相棒になっているなんて。
降りる。
「ここから先は、行かせねぇ!」
気をとりなおす。ベジータも構える。
トランクスは見守っていることにしたらしく、すこし離れて立つ。
ならば
「私から離れ、しばらく捕食して待て。」
猫に囁き、こちらも構えた。
「 …安心しろ、貴様が再びそいつに会うことはない。」
かすかに眉をひそめる悟空をよそに、ブラックは
「すぐに片づける。
さあ、行け。」
言う。
猫はとびおり、しばらく駆けていたが、やがて獲物を見つけたのか、忍び足で遠くに消えた。
「…おめぇ、意外と優しいやつなんだな。」
「あの生物種が、神のしくじりでないというだけです。
…完璧なものまで消すほど、私は愚かではない。」
敬語を捨てる。
「…人間は、なんで[しくじり]なんだ?」
「理由は主に二つあります。
まず一つは、中途半端な知識を持つがゆえに、この世を不用意に疲弊させることです。
そして………もう一つは、むやみやたらに何かをうみだすことにあります。
それが世界に与える影響を、全く考えもしない。一つ目の理由の派生ですね。
そんな者たちが消えるのは、当然の理です。」
最後のあたりには、何かがこめられている。
「…そうか…。」
その言葉が、合図。
ボウッ!
蒼い神が、二人現れた。
(何て、力だろうか!)
驚くが、顔には出さない。
ちらりと背後を見て、ブラックはとびかかった。
蒼い神も。
・・・・・・・・
ドカッ!!…バキッ!
何度目か分からぬ、二人の打ち蹴り。
力の差は、圧倒的なものだ。
何とか、しなければ!
手がのびてくる。
ベジータの殴りだ。
(速い!)
咄嗟に、左に足を踏み出すのが精一杯だった。
真ん中には当たらなかったが、こめられた激しい気は、右の脇腹を削っていった。
「…っ!」
血に濡れる。
その時には、ブラックは体を彼にぶつけていた。
ゼロ距離で何発も撃つ。
「ぐっ!」
堪える。
背後。
「そこだっ!!!!!!!」
振り向きざまに、悟空を蹴り飛ばす。
「ぐあっ!!!」
…少しずつ、少しずつ慣れてきている。
やつらの動きに。
ただ、猫に言った「すぐ」は、とうに過ぎていた。
「…傷つけば傷つくほど、私は…強くなれる!」
だから恐れない。
食らう。
服が裂け、また傷がつく。そして気は増える。
(……このままじゃ……。)
ふとベジータを見ると、彼は頷く。
…決まった。
二人は、全力でブラックの腹に拳をぶつけた。
「…がっ!!!」
地面に叩きつける。
ドゴ!!!
「「はあっ!!!!!!!」」
己の力を放出する。
地で頭を打ち、気が遠くなりかけていた彼は、光を見てはっきりと目が覚めた。
!!!!
こんな、ところで、私は……
「………消えない……消えられるものかーーーーっ!!!!!!!」
間一髪、こちらも撃つ。
使えるギリギリを超えた、名のすべてを…こめる。
力に焼かれて自滅するとしても、せめて敵の弾にだけは倒れたくない!
「まずい……!!」
隣で焦る声。
凄まじい力で、ブラックは押し返していた。
(ブラック…。)
今、彼は何も感じていないのだろう。
ただでさえ浅黒い肌から、血の気がなくなっていくのに、笑っているのだから。
「界王、拳!」
息をするように、体が動く。
何倍かなんて気にしない。
終わらせるために撃つ。
…ドンッ!
(…受けねば!!)
最後に自分が何をしたのか理解する前に、全てが真っ白になった。
・・・・・・・・
たらふく、食った。
そのまま少し寝ようと思ったとたん、すごいおとがした。
何だろう?
すぐに片づけるという言葉と顔が、頭にうかんだ。
・・・・・・・・
静まりかえった野。
「…やりましたね…。」
近づいてくるトランクスに、二人は首を振る。
ブラックは、未だ立っていた。
右腕でかばうような体勢で、地面をぐっとふみこんでいる。
黒衣の所々は、もはや赤衣とよんでも差し支えなかった。
「あれを…耐えきったか…。」
「……。」
悟空は答えない。
…それが、お前の心か。
命を懸けて、背後の草木、虫、鳥、獣を守りきるとは。
「はあ………はあ……。」
ドサッ
それを見たトランクス、剣を抜いて…
「母さんの仇!!」
あまりの一瞬に、とめる間もない。
悟空が声をあげそうになった瞬間、トランクスの手から血が噴き出した。
そいつは口からいくつか指を吐き出すと、すぐにブラックのもとに寄った。
飼い猫に手を噛まれるとはよく言ったものである。
猫はゆさぶったりひっかいたりするものの、ブラックはぴくりとも動かなかった。
「…ベジータ、先にけえっててくれ。」
有無を言わさない。
「ちっ……。」
…納得はいかないが…。
・・・・・・・
やがて一人になった。
悟空は謝る。
「…すまねぇ。
あいつを、どうしても止めたかったんだ。」
神妙にしている猫。
悟空の瞳を見る。
「そっか。」
思いつく。
「わりぃけど、一つ頼まれてくんねぇか…?」
懐を探る悟空に、猫は一声鳴いた。
・・・・・・・
「………。」
目を開いたとたん、西日に目を射られる。
身体中が、まるで石にでもなってしまったかのようだ。
「みゃあ」
その声は……!
再び開くと、今度こそ見えた。
「…お前…ずっと、ここに…?」
猫は声を聞き、また鳴く。
前足で首をかまう。
橙色の布が巻かれていた。
(孫悟空の気配…。)
を微かに感じる。
まさか。
無理矢理腕をもたげ、ほどき、包みを開いた。
中のものを危うく取り落としそうになる。
それは、小さな緑色の豆だった。
「名」の記憶をたどる…地球特産の仙薬の一種で、摂取すると十日分の糧となり、また傷を癒す。
名は、確か仙豆。
笑わずにはいられない。
…そうか、これが孫悟空のやり方か。
まったく敵わなかったが、闘った意味は大いにあった。
コン
猫は鼻面でブラックの手を押した。
豆は微かに開いていた口に落ちる。
噛みしめて、飲みこむ。
…体が軽くなった。
あらためて決める。
「………孫悟空…私は、必ず君に勝ちます。
そして………人間には…消えてもらう…この世を救うために。
私は、必ず実行する。
…猫よ…見届けてくれるか?」
「みゃあ」
ブラックは頷き、そっと黒猫の顎の下に触れた。
猫は、気持ちよさげに喉をならし、やがて離された指先をなめる。
こうして、その日は暮れた。
・・・・・・・
追記
7月26日デイリーランキング316位になりました!ありがとうございます!
12
9
1176
2016-07-26 05:12
Comments (16)
マイが言っていた『猫は3日で飼い主を忘れる』という言葉を思い出しました。悟空が仙豆をあげちゃうあたり、彼らしいですね(笑)戦闘シーンは迫力がありますね!ベジータさんカッコいい!
View Repliesブラックの猫に対する優しさにほんわかしました。
View Repliesベジータさんと悟空さんが共闘とは!ビックリしました。
View Replies