はかり売り

カギの行商人 出品作です。
ご来場いただいた皆様、主催者様、参加作家の皆様、ありがとうございました。

◎カギの行商人 特設サイト
http://infosmzizu.wixsite.com/kagino2016

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『はかり売りの話』

その部屋にはたくさんの絵が飾ってありました。
大小かたちも様々な絵が天井や四方の壁に所狭しと並んでいます。

まるでその場を切り取ってきたような美しい山岳の風景画や、
禍々しい色彩で描かれた幻獣の視線を感じながら行商人はぐるりと見て回り、ある絵の前で足を止めました。

「これは、どなたですか?」

そこに描かれた人物を指差して訪ねると、奥から画家が顔を覗かせて「ああそれは…」と口を開きます。

「はかり売り、です」

「はかり売り?」

不思議そうな面持ちの行商人に画家は語り始めました。

「ええ、ここに天秤が描かれてるでしょう。自分が求めるものを言うとはかり売りは左の皿にそれを置いてくれます。こちらが釣り合う代償を右の皿に置けばそれが手に入るのです。これで得られるものは金品などではありません、時間や命・若さといったお金では買えないものです。……想い人の心とかね」

そう言うと、行商人はクスクス笑いました。

「それは素晴らしい」

行商人の言葉に画家は数回、頷きます。

「このはかり売りのおかげで死別した兄弟と再会した者や、一国の王となった者もいるそうです。しかしその一方、求めるものが大きければ払う代償もまた大きく、身を滅ぼした者もいるそうな…」

「因果なことで…」

「やがて噂が噂を呼び、誰もが天秤と彼女の能力を求めるうちに人々は私欲の為に争い始めました。はかり売りはそのさまに失望し、本来在るべき姿となってこの世界から姿を消してしまったのです。今では誰もその行方を知りません」

「では、この絵はどうして?」

行商人の問いかけに画家は遠くを見つめながら口を開きました。

「……彼女は私の知り合いでもありました。これは私が最後に見た彼女の姿を残そうと思って描いた絵です」

「はかり売りはどこへ消えてしまったのでしょう?」

「さぁ、どこでしょうね?」

行商人の問いかけに画家は笑って答えます。

ふむ、行商人は絵を眺めて少し考えると画家に言いました。

「この絵をください。自分は旅の行商人、今聞いた話と秘密のカギとも言えるこの絵を次に向かう町で卸したくなりました」

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2016-09-01 00:34

 YUKARI


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