残されたラクリムの庭守:ハリス・ラサカラ・シアーティーグ
彼は妄想癖があった。自分は三人の王が神々を精製したときより前から生きていると言った。そして水竜の末裔を父にもち、光る虫の乙女を母に持つと言った。自分の首や手首の模様は発光するのだとか、彼の名も父親と母親から継いだ水竜と光る虫の名なのだと、たびたび言ったものだ。彼は確かに若くは無い、しかしそんなに昔から生きているものが珍しいものを集める者に捕まらずにいるわけがない。彼のその世迷言を信ずるものはただ、残された生贄ユーレンだけだった。ハリスはよそ者だった。彼は大都会「新晶(アラタアキラ)」の街からこのラクリムの聖地であった「碧街(ヘキガイ)」の辺りに咲く花を少しだけ分けてもらいにふらりと立ち寄っただけだった。彼は美しい花の噂の中に可哀想な聖人の話を聞いた。彼女は人を陥れる汚れた娼婦のような扱いを受け、しまいには機械にされてしまったという。機械は確かにそこにあるべきではあったが、手入れをするものはほとんどいなかった。臭く汚いままにされていたのだった。ハリスはいてもたってもいられず、その可哀想な人魚の手入れをする司祭になることを申し出た。そして歓迎されながらラクリムの聖堂の掃除係になったのだ。司祭は生贄の従者であるから。ハリスは呻くユーレンの肌に触れ、目を閉じて古の言葉で話しかけた。ユーレンは静かに答えた。
「私よりも長く生きていらっしゃる!貴方は光る虫(アラヴァフ)としてずっと生きていらっしゃる!貴方は空から、そして地下から来たのですね」
「貴方は人魚の王族(ロアドファリア)の血を濃くひいていらっしゃる。この世界の人は皆、人魚のおかげで生きているのに王族への感謝を忘れちゃったみたいじゃないか。美しいお姫様、信じてくれてありがとう、俺が力になってあげることがあったらいいのだけどなあ」
「王族、その言葉も忘れてしまったように思います。私はただの人魚族(サイレンス)に落ちぶれてしまいました。皆もそう言いました。私は王族などでは無い、哀れなただの人魚の女です。ああ、出来れば、また美しい香りに包まれたいのです」
「俺は、花を育てているんだよ。だからこの聖堂の周りを花でいっぱいにしてあげよう」
「まあ!嬉しい・・ありがとう」
ユーレンはハリスの言う言葉にそっと嬉しそうなため息をついた。それは禍々しい機械の姿であったが、安寧を得た乙女にほかならなかった。ハリスは優しい心でラクリムの聖堂に孤児を招きいれもした。親のいない少年ロクスとマグネはまったく仲は良くなかったが、ラクリムの聖堂に残った者の心を一つに結束させた。少年達は無垢な心を持ち、皆の子供という役割を持った。ハリスも、ユーレンも、ロクスも、マグネも幸せだったのである。ハリスが狂ってしまうまでは。ハリスはユーレンに、はさみを入れたのだ。既に彼の眼にはすべて手折られるための花にしか見えなかった。ユーレンは既に首を切られるための蓮であった。13歳になったマグネはハリスの味方をするロクスを憎み、自ら聖堂を出た。ロクスはその頃18歳になっていたがハリスによって殺されるまで聖堂に留まり続けたのである。ハリスは聖堂の花を全て刈り取るまで「正気」でいつづけた。ハリスは衰弱していくユーレンの側で、花を救えない罪の意識に苛まれながらとうとう怪物に成り果てた誰かが裁いてくれるまで聖堂に居座り続けたのだ。枯れない蓮を一生懸命に切り刻みながら。
追記:2017年3月30日のpixivオリジナルランキング第297位に入りました!
ありがとうございました~!
「私よりも長く生きていらっしゃる!貴方は光る虫(アラヴァフ)としてずっと生きていらっしゃる!貴方は空から、そして地下から来たのですね」
「貴方は人魚の王族(ロアドファリア)の血を濃くひいていらっしゃる。この世界の人は皆、人魚のおかげで生きているのに王族への感謝を忘れちゃったみたいじゃないか。美しいお姫様、信じてくれてありがとう、俺が力になってあげることがあったらいいのだけどなあ」
「王族、その言葉も忘れてしまったように思います。私はただの人魚族(サイレンス)に落ちぶれてしまいました。皆もそう言いました。私は王族などでは無い、哀れなただの人魚の女です。ああ、出来れば、また美しい香りに包まれたいのです」
「俺は、花を育てているんだよ。だからこの聖堂の周りを花でいっぱいにしてあげよう」
「まあ!嬉しい・・ありがとう」
ユーレンはハリスの言う言葉にそっと嬉しそうなため息をついた。それは禍々しい機械の姿であったが、安寧を得た乙女にほかならなかった。ハリスは優しい心でラクリムの聖堂に孤児を招きいれもした。親のいない少年ロクスとマグネはまったく仲は良くなかったが、ラクリムの聖堂に残った者の心を一つに結束させた。少年達は無垢な心を持ち、皆の子供という役割を持った。ハリスも、ユーレンも、ロクスも、マグネも幸せだったのである。ハリスが狂ってしまうまでは。ハリスはユーレンに、はさみを入れたのだ。既に彼の眼にはすべて手折られるための花にしか見えなかった。ユーレンは既に首を切られるための蓮であった。13歳になったマグネはハリスの味方をするロクスを憎み、自ら聖堂を出た。ロクスはその頃18歳になっていたがハリスによって殺されるまで聖堂に留まり続けたのである。ハリスは聖堂の花を全て刈り取るまで「正気」でいつづけた。ハリスは衰弱していくユーレンの側で、花を救えない罪の意識に苛まれながらとうとう怪物に成り果てた誰かが裁いてくれるまで聖堂に居座り続けたのだ。枯れない蓮を一生懸命に切り刻みながら。
追記:2017年3月30日のpixivオリジナルランキング第297位に入りました!
ありがとうございました~!
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2017-03-27 03:14
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