鉱石と歯車
「鉱石とはなんぞや」
とある階層で出会った老錬金術師は、僕にそう問いかけてきた。
ただ独り、書物と鉱石に囲まれた書斎の奥で、探求を続けた老人の問いだった。
「鉱石って、この鉱石のことだよね?」
僕は手近な場所に生えていた鉱石を指差す。
どれだけ長い間放っておいたのか、そこには本が雑に積み重なっていて、半分ほどが鉱石に呑まれかけていた。
老人は書物の置き場所が変わるのを嫌って、使用人に掃除をさせないどころか立ち入ることすら許していないそうだ。
そのせいで部屋は埃っぽくて空気が悪く、鉱石が部屋のあちこちに自生している。浄化系の鉱石が生えてくるのも時間の問題だろう。
本棚に生えた鉱石を撫ぜると、僕の指先に反応して薄ぼんやりとした光を強めた。
鉱石は僕らにとって身近な存在だ。
発光性の鉱石は灯りに使えるし、酸素を発生させるものや、浮遊性のものもある。
放っておけばどこにでも生えてくる。
時には必要になったり、時には邪魔になったりもする。
鉱石とは、常に僕らの傍らにあるものだ。
「そう、今はな」
「今は?」
「かつては違った」
老いた翁は語る。
鉱石とは金属資源を含む岩石のことを差し、このように透き通った結晶体を呼称するための名ではなかった、と。
原子配列変換炉から混じり気のない金属を生成するのではなく、かつては資源を含む石を砕き溶かし、精製して抽出していたのだ、と。
人はそれを鉱石と呼んでいた。鉱石とはただそれだけの存在だった、と老人は述べる。
「じゃあ、これは?」
根が浅かったのか、簡単に剥離した鉱石を手にとって僕は老人に訊ねる。
本来の鉱石は浮かず光らず、そして自生しない。
昔は違うものを差していた言葉なら、僕らが鉱石と呼ぶこれらは一体何なのだろう。
「残滓だよ」
「残滓……?」
「そう、残滓だ。その先は自分で見つけなさい。私とは違う答えを、お前たちなら見つけられるだろう」
老人はそれきり口をつぐみ、薄い結晶紙にペンを走らせる作業に没頭した。
僕は老人の書斎を出て、外で待っていたヘイエくんと合流する。
「おかえりなさい。何かいい話は聞けましたか?」
「いいや、ちっとも。蒼穹の手がかりになりそうなことは何も聞けなかったよ」
「そうですか」
肩をすくめる僕に、ヘイエくんは小さな微笑みを返す。
無口な使用人に案内され、屋敷を出た。
見上げた空は相変わらず天蓋で覆われている。重々しい、鈍色の鉄蓋。
この重圧を打ち破ることこそが、僕の望みだ。
「ヘイエくん」
「なんですか?」
「……。ううん、なんでもないっ」
頭を振ってヘイエくんに笑い返す。
僕らにはその言葉を確認する必要はない。
もう何度も誓いあったことだからだ。
この長い旅の果てにあるのは、無限に広がる蒼穹だと、僕は確信している。
だけど、それ以外にも見つけなければならない何かがあると、僕はその時初めて感じたんだ。
──アルトシエルの手記より
追記:
来たる7月1日! 蒼穹のアルトシエルがついに発売します!!
特設サイトも公開!
http://sneakerbunko.jp/series/AltoCiel/index.php
悠久ポン酢さんによる美麗なカバーイラストも公開されておりますので、一度ご覧ください!
『ムシウタ』の岩井恭平先生にも推薦文を頂いております! やったぜ!
あと小説本文だけでなく、ちょこっとだけCGの方で私も参加しております!
よろしければ書店に足をお運びいただき、ぜひご確認くださいませ!
とある階層で出会った老錬金術師は、僕にそう問いかけてきた。
ただ独り、書物と鉱石に囲まれた書斎の奥で、探求を続けた老人の問いだった。
「鉱石って、この鉱石のことだよね?」
僕は手近な場所に生えていた鉱石を指差す。
どれだけ長い間放っておいたのか、そこには本が雑に積み重なっていて、半分ほどが鉱石に呑まれかけていた。
老人は書物の置き場所が変わるのを嫌って、使用人に掃除をさせないどころか立ち入ることすら許していないそうだ。
そのせいで部屋は埃っぽくて空気が悪く、鉱石が部屋のあちこちに自生している。浄化系の鉱石が生えてくるのも時間の問題だろう。
本棚に生えた鉱石を撫ぜると、僕の指先に反応して薄ぼんやりとした光を強めた。
鉱石は僕らにとって身近な存在だ。
発光性の鉱石は灯りに使えるし、酸素を発生させるものや、浮遊性のものもある。
放っておけばどこにでも生えてくる。
時には必要になったり、時には邪魔になったりもする。
鉱石とは、常に僕らの傍らにあるものだ。
「そう、今はな」
「今は?」
「かつては違った」
老いた翁は語る。
鉱石とは金属資源を含む岩石のことを差し、このように透き通った結晶体を呼称するための名ではなかった、と。
原子配列変換炉から混じり気のない金属を生成するのではなく、かつては資源を含む石を砕き溶かし、精製して抽出していたのだ、と。
人はそれを鉱石と呼んでいた。鉱石とはただそれだけの存在だった、と老人は述べる。
「じゃあ、これは?」
根が浅かったのか、簡単に剥離した鉱石を手にとって僕は老人に訊ねる。
本来の鉱石は浮かず光らず、そして自生しない。
昔は違うものを差していた言葉なら、僕らが鉱石と呼ぶこれらは一体何なのだろう。
「残滓だよ」
「残滓……?」
「そう、残滓だ。その先は自分で見つけなさい。私とは違う答えを、お前たちなら見つけられるだろう」
老人はそれきり口をつぐみ、薄い結晶紙にペンを走らせる作業に没頭した。
僕は老人の書斎を出て、外で待っていたヘイエくんと合流する。
「おかえりなさい。何かいい話は聞けましたか?」
「いいや、ちっとも。蒼穹の手がかりになりそうなことは何も聞けなかったよ」
「そうですか」
肩をすくめる僕に、ヘイエくんは小さな微笑みを返す。
無口な使用人に案内され、屋敷を出た。
見上げた空は相変わらず天蓋で覆われている。重々しい、鈍色の鉄蓋。
この重圧を打ち破ることこそが、僕の望みだ。
「ヘイエくん」
「なんですか?」
「……。ううん、なんでもないっ」
頭を振ってヘイエくんに笑い返す。
僕らにはその言葉を確認する必要はない。
もう何度も誓いあったことだからだ。
この長い旅の果てにあるのは、無限に広がる蒼穹だと、僕は確信している。
だけど、それ以外にも見つけなければならない何かがあると、僕はその時初めて感じたんだ。
──アルトシエルの手記より
追記:
来たる7月1日! 蒼穹のアルトシエルがついに発売します!!
特設サイトも公開!
http://sneakerbunko.jp/series/AltoCiel/index.php
悠久ポン酢さんによる美麗なカバーイラストも公開されておりますので、一度ご覧ください!
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うごイラ
ugoira
鉱石世界シリーズ
kousekisekaishiri-zu
蒼穹のアルトシエル
歯車
gear
永久機関
perpetual motion
鉱石とは我々を魅了するモノ
ふつくしい
beautiful
927
735
27439
2017-06-27 15:54
Comments (15)
映画の宣伝とかでありそう クリスタルっぽいのもだけど歯の部分も凄く綺麗
厉害了
The light and shadow are very real
1日早いですが、地元で販売開始してたので購入致しました!これから病院の待ち時間に読み進めようと思います!
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