勇者殺しに憎悪の鉄塊を
あらすじ
その武器屋には、開店当初からずっと買い手のつかない剣があった。
それは、店主が若い時に自作したきり買い手のつかないグレートソードだ。
品は悪くないはずなのに、とんと、誰も手を付けない。店の置物となるも、売りもできず、棄てるもできず。
その剣は、ずっと、武器屋に飾られていた。
ある日、そんな武器屋の扉を一人の小娘が叩いた。
武器屋に小娘。頑固一徹で通っている武器屋の店主は不機嫌だった。
このところ、神様から祝福を得たとかいう異世界からきた転生者の“お近づき”になりたいとかいう類のが、
貴族の令嬢から村娘まで増えている。――店主は、この手の小娘が嫌いだった。
こっちの世界の人間は、他所から来た転生者のおんぶにだっこ。
神の御業で万能な異世界から来た救世主。……いけ好かない。
こっちの世界の人間は、異世界の人間に常に劣るのだろうか?
神の祝福を受けているからと、非凡な才能を見せつけるだけ見せつけ自尊心を満足させる行為は果たして気高いのか。それ以上に、自分たちの世界の危機や有事を、他所から来た赤の他人に任せていいのか。
この世界の権力者はそんなだらしない様でいいの……等々。
店主はそんな思いを普段から募らせており、その思いの原因である異世界転生者にしっぽを振る連中に、
心底、憤りを感じていた。
「嬢ちゃんも、異世界転生者に憧れて冒険者になった口かい? 見るからに駆けだしって感じだが」
SALEと書かれた安物の剣を物色している小娘に、店主は重々しく切り出した。
小娘の身なりはそれなりにしっかりとしている。もしかしたら、どこかの商屋か何かのお嬢さんかもしれない。世間知らずのお嬢ちゃんらしい隙だらけの表情で、小娘は言った。
「そうだね。会ってみたいね。異世界転生者……勇者様だっけ?」
神の祝福を受けた非凡な才能を持つ異世界転生者は遅かれ早かれ【勇者】の称号を持つことになる。それが、何人もいるのだから、今、この世界は勇者のバーゲンセール状態だ。
「やめとけ、やめとけ! 勇者様のお近づきになりたいからって、花よ蝶よで育ったような町娘が気張って冒険者なんかになるもんじゃねぇよ」
「忠告ありがと。でも、もう決めたことだから」
言って、小娘は、件のグレートソードを手に取った。
「待て待て待て! お嬢ちゃんの細腕で、そんなデカブツ振れるわけないだろ? もうちょっと、身の丈に合った武器をだな!」
グレートソードを手にしてふらついた小娘を見て店主は思わず、腰を浮かしていた。
「そういえば――こんなうわさ聞いたことない? 転生者を殺して回る青い妖魔」
一度はふらついたものの、その後は事もなげに扱って、小娘は振り返った。駆け出し冒険者のように感じられた小娘が武器の種類としては、主に手練の剣士や巨獣狩りが好むグレートソードを事も無げに扱う様に、店主は思わず息を呑んだ。
「青い妖魔? あ、ああ、聞いたことがあるな」
小娘の口にした噂は、店主も聞き及んでいた。一人の妖魔が立て続けに7人。転生者のパーティを皆殺しにしたと。
「それで、ついたあだ名が青い悪夢……だっけ? 噂だとそいつの正体は、妖魔軍四天王の一人、蒼氷の魔将だとか。 名前は……なんだったっけ?」
「その青い妖魔は、なんで転生者を殺して回ってるんだろうね?」
言われて、店主はハッとした。目の前の小娘の様相は、噂の妖魔と同じ青髪赤目だったからだ。
「よしてくれ、まさか、噂の…転生者殺しって……」
「さあ? どうだろうね? それより、この剣はいいな。粗雑だけど芯がある。製作した者の憎悪が宿っているようだよ、これは」
「勘弁してくれ。これでも、俺にゃ、妻子がいるんだよ」
……。
…。
店主は心中は複雑だった。
一振りの剣が売れた。それは、店主が若い時に自作したきり買い手のつかないグレートソードだった。
そのグレートソードで魔王を倒す。
異世界転生者として若くしてこの地に来れども、“勇者としての適性がない”。ただそれだけで、
神の祝福を受けられなかったこの男が、現実と理想の狭間、絶望の果てに倒れた後、
こちらの精錬技術を一から学んで打ち上げた一本の大剣。
勇者ではなかった自分の過去の執着を憎悪の鉄槌で打ち固めた鉄塊。
それが、一人の妖魔に手渡った。
去り際、妖魔の小娘はこう言った。
「転生者を殺すのは、彼らがこの世界に必要ではないから。あるべき場所に還すため。そして…」
蒼い髪の赤い瞳の妖魔はつづけた。
「本物の勇者を、この世界に召喚するため。異世界から呼び出せる勇者の数には限りがある。偽の勇者は殺さなきゃならない。どんな手を使ってでも――」
「……竜殺しならぬ勇者殺しか。いいぜ、見せてくれよ。お嬢ちゃんの正義って奴を。俺らよりこの世界について詳しいあんたら妖魔がそういうなら、多分、きっとアンタの行いはアンタなりに正しいんだろ。それはともかく、俺は死にたくない」
店主が両手を上げると、小娘はあきれたような表情で言った。
「……言ったでしょ。転生者は殺す。偽の勇者は殺す。君の打ったこの剣は、この世界の技術で作られたものだ。そして、君からは特別な力は感じない。君はもう、この世界の住人だよ」
――それは、転生者ながら神の祝福を得られなかった一人の男が命を拾ったある日の物語。
~以上~
というわけで、新しい開発環境(PC)に移行したのでテストも兼ねたオリジナルを一枚。
キャラクターはオリジナル。転生者絶対殺す妖魔、ミレー。
わりと設定がゆるふわしてる四天王(ぇ
その武器屋には、開店当初からずっと買い手のつかない剣があった。
それは、店主が若い時に自作したきり買い手のつかないグレートソードだ。
品は悪くないはずなのに、とんと、誰も手を付けない。店の置物となるも、売りもできず、棄てるもできず。
その剣は、ずっと、武器屋に飾られていた。
ある日、そんな武器屋の扉を一人の小娘が叩いた。
武器屋に小娘。頑固一徹で通っている武器屋の店主は不機嫌だった。
このところ、神様から祝福を得たとかいう異世界からきた転生者の“お近づき”になりたいとかいう類のが、
貴族の令嬢から村娘まで増えている。――店主は、この手の小娘が嫌いだった。
こっちの世界の人間は、他所から来た転生者のおんぶにだっこ。
神の御業で万能な異世界から来た救世主。……いけ好かない。
こっちの世界の人間は、異世界の人間に常に劣るのだろうか?
神の祝福を受けているからと、非凡な才能を見せつけるだけ見せつけ自尊心を満足させる行為は果たして気高いのか。それ以上に、自分たちの世界の危機や有事を、他所から来た赤の他人に任せていいのか。
この世界の権力者はそんなだらしない様でいいの……等々。
店主はそんな思いを普段から募らせており、その思いの原因である異世界転生者にしっぽを振る連中に、
心底、憤りを感じていた。
「嬢ちゃんも、異世界転生者に憧れて冒険者になった口かい? 見るからに駆けだしって感じだが」
SALEと書かれた安物の剣を物色している小娘に、店主は重々しく切り出した。
小娘の身なりはそれなりにしっかりとしている。もしかしたら、どこかの商屋か何かのお嬢さんかもしれない。世間知らずのお嬢ちゃんらしい隙だらけの表情で、小娘は言った。
「そうだね。会ってみたいね。異世界転生者……勇者様だっけ?」
神の祝福を受けた非凡な才能を持つ異世界転生者は遅かれ早かれ【勇者】の称号を持つことになる。それが、何人もいるのだから、今、この世界は勇者のバーゲンセール状態だ。
「やめとけ、やめとけ! 勇者様のお近づきになりたいからって、花よ蝶よで育ったような町娘が気張って冒険者なんかになるもんじゃねぇよ」
「忠告ありがと。でも、もう決めたことだから」
言って、小娘は、件のグレートソードを手に取った。
「待て待て待て! お嬢ちゃんの細腕で、そんなデカブツ振れるわけないだろ? もうちょっと、身の丈に合った武器をだな!」
グレートソードを手にしてふらついた小娘を見て店主は思わず、腰を浮かしていた。
「そういえば――こんなうわさ聞いたことない? 転生者を殺して回る青い妖魔」
一度はふらついたものの、その後は事もなげに扱って、小娘は振り返った。駆け出し冒険者のように感じられた小娘が武器の種類としては、主に手練の剣士や巨獣狩りが好むグレートソードを事も無げに扱う様に、店主は思わず息を呑んだ。
「青い妖魔? あ、ああ、聞いたことがあるな」
小娘の口にした噂は、店主も聞き及んでいた。一人の妖魔が立て続けに7人。転生者のパーティを皆殺しにしたと。
「それで、ついたあだ名が青い悪夢……だっけ? 噂だとそいつの正体は、妖魔軍四天王の一人、蒼氷の魔将だとか。 名前は……なんだったっけ?」
「その青い妖魔は、なんで転生者を殺して回ってるんだろうね?」
言われて、店主はハッとした。目の前の小娘の様相は、噂の妖魔と同じ青髪赤目だったからだ。
「よしてくれ、まさか、噂の…転生者殺しって……」
「さあ? どうだろうね? それより、この剣はいいな。粗雑だけど芯がある。製作した者の憎悪が宿っているようだよ、これは」
「勘弁してくれ。これでも、俺にゃ、妻子がいるんだよ」
……。
…。
店主は心中は複雑だった。
一振りの剣が売れた。それは、店主が若い時に自作したきり買い手のつかないグレートソードだった。
そのグレートソードで魔王を倒す。
異世界転生者として若くしてこの地に来れども、“勇者としての適性がない”。ただそれだけで、
神の祝福を受けられなかったこの男が、現実と理想の狭間、絶望の果てに倒れた後、
こちらの精錬技術を一から学んで打ち上げた一本の大剣。
勇者ではなかった自分の過去の執着を憎悪の鉄槌で打ち固めた鉄塊。
それが、一人の妖魔に手渡った。
去り際、妖魔の小娘はこう言った。
「転生者を殺すのは、彼らがこの世界に必要ではないから。あるべき場所に還すため。そして…」
蒼い髪の赤い瞳の妖魔はつづけた。
「本物の勇者を、この世界に召喚するため。異世界から呼び出せる勇者の数には限りがある。偽の勇者は殺さなきゃならない。どんな手を使ってでも――」
「……竜殺しならぬ勇者殺しか。いいぜ、見せてくれよ。お嬢ちゃんの正義って奴を。俺らよりこの世界について詳しいあんたら妖魔がそういうなら、多分、きっとアンタの行いはアンタなりに正しいんだろ。それはともかく、俺は死にたくない」
店主が両手を上げると、小娘はあきれたような表情で言った。
「……言ったでしょ。転生者は殺す。偽の勇者は殺す。君の打ったこの剣は、この世界の技術で作られたものだ。そして、君からは特別な力は感じない。君はもう、この世界の住人だよ」
――それは、転生者ながら神の祝福を得られなかった一人の男が命を拾ったある日の物語。
~以上~
というわけで、新しい開発環境(PC)に移行したのでテストも兼ねたオリジナルを一枚。
キャラクターはオリジナル。転生者絶対殺す妖魔、ミレー。
わりと設定がゆるふわしてる四天王(ぇ
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2018-04-11 07:30
Comments (6)
このゾクゾクする雰囲気…いいですねぇ
View Replies残りの四天王も美少女なのかが気になりますw
View Replies面白そうなお話し〜。『正義』って単純じゃないからね〜。
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