貴方様に逢いたい
切欠は自分の立場からなる窮屈さや孤独から出たものだった。
彼女は月面王国の次期女王として、この世に生まれてきた……その時点から彼女の運命は決まっていた。
物心ついた時から自分より年上の侍女や大臣達に囲まれて生活しており『次期女王だから』という理由で教養や品のある仕草、言葉遣い、立ち振る舞いの稽古を送る日々。
また女王自身も賊に襲われても撃退出来るよう護身術━━宇宙格闘技━━を身に付けることを余儀なくされた。
初めは、それが当たり前だと思っていたが成長するにつれ女王としての品格を身につけるための稽古事に息苦しさを覚えた。
王宮の窓から見下ろした先には、自分と同い年の月面人が友達と談笑したり、食べ歩きしたりと楽しそうに過ごしているのに自分には、そういった友と呼べる者が居ない。
いるのは護衛の者や大臣達、自分より年上だったり年下の侍女達のみ。
自分が次期女王という肩書きから周囲の者は遠慮というわけではないが、己の身を弁えて一歩引いた物言いをする。
どこかへ行こうとしても常に護衛の者達がついてくる。
それは決してイヤな気はしないものの、自分を女王としてではなく宙良光琉(そら ひかる)個人として見てくれていないことにモヤモヤしていた。
やがて、その気持ちは自分の肩書きからなる窮屈さや孤独が芽生え、彼女の心に暗い影を落とすことになった。
一時は女王としての地位を蹴って、ここから離れた星━━地球━━へ行き、野に下ろうかとも思ったが、それでは今迄の自分の人生を否定しているのではと思い、それがまた光琉の心を苛ませる要因ともなった。
そんな彼女が己のモヤモヤとした心を紛らわす方法として見出したのが『身体を鍛えること』、『小説を書くこと』、そして『織物をすること』の3つだった。
身体を鍛えるのは日常茶飯事なため、ストレス発散にはなるものの織物と恋愛小説を書くことは特別だった。
織物は1つの作業に集中・没頭出来ることと完成した時に得られる何とも言えない達成感を味わえるから好きなのだ。
小説を書くこととは主に恋愛小説がメインで、自分自身がこういう恋をしてみたいという妄想や願望を、そのまま文にして書いていた。
中でも自分をモチーフとした『織姫』と『彦星』が結ばれる【七夕物語】なる作品の執筆には熱中である(無論、その作品は大臣や侍女達には見せていない)。
しかし、そんなある日のこと……書きかけだった七夕物語が大臣達に見つかりそうになったことから光琉は慌てて、その小説を隠そうとした。
結局その場を何とか乗り切ることに成功したものの肝心の七夕物語は、あろうことか地球へ落としてしまうことになってしまった。
これが後に地球では『7月7日』は七夕の行事をする切欠になる。
だが、その七夕を良しとしない者がいた。
それは豊葦原の東海地方に位置する名地駿河を統治する色彩団当主、足川元昭である。
彼は日頃からモテないことにくわえ、七夕になると織姫と彦星が逢瀬をするという伝説を間に受けて『麿なんか相手が居ないから伝説とはいえ、腹立つおじゃ!』と自分の境遇を逆恨みし、あろうことか織姫と彦星が天の河で逢うなら自分が彦星を殺害して織姫を脅迫して自分の願いを叶えさせようと目論んだ。
これにより色彩団による七夕作戦が決行されることとなる。
色彩団が総力を上げて七夕伝説を調べたところ、それは月のある方向に天の河があると聞き、そこを占拠して自分の願い━━色彩団による宇宙征服━━を叶えて貰うのが作戦の内容だった。
そして作戦は見事成功し、天の河を探し当てると色彩団は負の感情満載の当主を筆頭に天の河を占拠して織姫もしくは彦星が来るのを待った。
だが天の河占拠という報せは、ただちに月面王国にも知れ渡った。
何故ならば月面王国は天の河から水を引いており、そこを占拠するということは貴重な水源に何処ぞの軍が不法占拠したということを意味する。
月面王国は直ちに軍を派遣して色彩団と交戦に入る……その色彩団側は月面王国軍を『伝承通り天帝から派遣された軍』と勘違いして迎撃を開始。
自分達の技術力は宇宙一と自称しては他国へ侵略しようと日々研究している色彩団と、太陽系を統括している月面王国とでは結果は見えていた。
初戦は破竹の勢いで進み、王国の王宮内まで攻め込んだ色彩団だが肝心の彦星の姿が見えず捜索に時間が掛かっている際、宙良が鍛え上げた肉体と宇宙格闘技によって色彩団を撃退、七夕作戦の阻止に成功した。
しかし光琉は、その戦いの翌日以降、元昭の事を想い続けることとなった。
その切欠は元昭が月面王国の王宮内に侵入した際、側近の黒沢秀明と話していたことにある。
黒沢「当主、仮に彦星をどうにか出来なかった場合はどうするんですか?」
元昭「その時は麿が彦星より先に織姫を娶るおじゃ。本当に織姫がおるのなら、彦星なんかより麿の妻に相応しいおじゃ!」
その言葉は完全に恨み節だが光琉にとっては、それが衝撃的だった。
元は自分の妄想や願望からなった、ただの恋愛小説……それが地球に広まっていたことに驚いたが、それ以上に織姫こと自分を娶ると言ってくれた見ず知らずの他人である元昭の言葉が嬉しかった。
動機は、どうあれ自分という存在に求婚してくれた……それが衝撃的だった。
だが自分は月面王国の次期女王として賊を撃退しないといけない……嬉しいことを言ってくれた人を倒さなければならない。
光琉は涙を飲んで自分に求婚にも似た宣言をした元昭達を撃退する時、その宣言をした元昭の姿を目に焼き付けた。
それ以降、光琉は気がつけば元昭のことばかり考えるようになっていた。
宙良(足川元昭様……お慕い申し上げますわ。貴方様に、もう1度お逢いしたい……いいえ、七夕みたいに1年に1度とは言わず、ずっとお傍に……嗚呼、元昭様っ! どうして、こんなに切ないんですの……!)
瞼の裏にいる彼を忘れまいと必死に想いつつ、光琉は自分にとって彦星的な存在に逢いたいと思いつつ、それが叶わない状況に彼女は涙した。
しかし、それから1年後……自分が色彩団に加入することになるとは夢にも思わなかった。
(あとがき)
1日遅れですが、七夕のイラストを掲載します。
イラストでは全く分かりにくいですが宙良は巨乳&筋肉娘の持ち主であり、尚且つ女性寄りのフタナリです。
これは地球人とは異なる月面人との違い、ということでフタナリにしています。
裏設定ですが月面人は全てが雌雄同体であり宙良と同様、フタナリです。
子作りする際は片方が男性、片方が女性の肉体に変化するよう自ら操作して交わります。
それに伴い宙良も戦闘になると筋肉質の身体を隆起・膨張させて戦います。
ただ私の画力上、その姿を晒すことは現段階で出来ないのが口惜しいです。
彼女は月面王国の次期女王として、この世に生まれてきた……その時点から彼女の運命は決まっていた。
物心ついた時から自分より年上の侍女や大臣達に囲まれて生活しており『次期女王だから』という理由で教養や品のある仕草、言葉遣い、立ち振る舞いの稽古を送る日々。
また女王自身も賊に襲われても撃退出来るよう護身術━━宇宙格闘技━━を身に付けることを余儀なくされた。
初めは、それが当たり前だと思っていたが成長するにつれ女王としての品格を身につけるための稽古事に息苦しさを覚えた。
王宮の窓から見下ろした先には、自分と同い年の月面人が友達と談笑したり、食べ歩きしたりと楽しそうに過ごしているのに自分には、そういった友と呼べる者が居ない。
いるのは護衛の者や大臣達、自分より年上だったり年下の侍女達のみ。
自分が次期女王という肩書きから周囲の者は遠慮というわけではないが、己の身を弁えて一歩引いた物言いをする。
どこかへ行こうとしても常に護衛の者達がついてくる。
それは決してイヤな気はしないものの、自分を女王としてではなく宙良光琉(そら ひかる)個人として見てくれていないことにモヤモヤしていた。
やがて、その気持ちは自分の肩書きからなる窮屈さや孤独が芽生え、彼女の心に暗い影を落とすことになった。
一時は女王としての地位を蹴って、ここから離れた星━━地球━━へ行き、野に下ろうかとも思ったが、それでは今迄の自分の人生を否定しているのではと思い、それがまた光琉の心を苛ませる要因ともなった。
そんな彼女が己のモヤモヤとした心を紛らわす方法として見出したのが『身体を鍛えること』、『小説を書くこと』、そして『織物をすること』の3つだった。
身体を鍛えるのは日常茶飯事なため、ストレス発散にはなるものの織物と恋愛小説を書くことは特別だった。
織物は1つの作業に集中・没頭出来ることと完成した時に得られる何とも言えない達成感を味わえるから好きなのだ。
小説を書くこととは主に恋愛小説がメインで、自分自身がこういう恋をしてみたいという妄想や願望を、そのまま文にして書いていた。
中でも自分をモチーフとした『織姫』と『彦星』が結ばれる【七夕物語】なる作品の執筆には熱中である(無論、その作品は大臣や侍女達には見せていない)。
しかし、そんなある日のこと……書きかけだった七夕物語が大臣達に見つかりそうになったことから光琉は慌てて、その小説を隠そうとした。
結局その場を何とか乗り切ることに成功したものの肝心の七夕物語は、あろうことか地球へ落としてしまうことになってしまった。
これが後に地球では『7月7日』は七夕の行事をする切欠になる。
だが、その七夕を良しとしない者がいた。
それは豊葦原の東海地方に位置する名地駿河を統治する色彩団当主、足川元昭である。
彼は日頃からモテないことにくわえ、七夕になると織姫と彦星が逢瀬をするという伝説を間に受けて『麿なんか相手が居ないから伝説とはいえ、腹立つおじゃ!』と自分の境遇を逆恨みし、あろうことか織姫と彦星が天の河で逢うなら自分が彦星を殺害して織姫を脅迫して自分の願いを叶えさせようと目論んだ。
これにより色彩団による七夕作戦が決行されることとなる。
色彩団が総力を上げて七夕伝説を調べたところ、それは月のある方向に天の河があると聞き、そこを占拠して自分の願い━━色彩団による宇宙征服━━を叶えて貰うのが作戦の内容だった。
そして作戦は見事成功し、天の河を探し当てると色彩団は負の感情満載の当主を筆頭に天の河を占拠して織姫もしくは彦星が来るのを待った。
だが天の河占拠という報せは、ただちに月面王国にも知れ渡った。
何故ならば月面王国は天の河から水を引いており、そこを占拠するということは貴重な水源に何処ぞの軍が不法占拠したということを意味する。
月面王国は直ちに軍を派遣して色彩団と交戦に入る……その色彩団側は月面王国軍を『伝承通り天帝から派遣された軍』と勘違いして迎撃を開始。
自分達の技術力は宇宙一と自称しては他国へ侵略しようと日々研究している色彩団と、太陽系を統括している月面王国とでは結果は見えていた。
初戦は破竹の勢いで進み、王国の王宮内まで攻め込んだ色彩団だが肝心の彦星の姿が見えず捜索に時間が掛かっている際、宙良が鍛え上げた肉体と宇宙格闘技によって色彩団を撃退、七夕作戦の阻止に成功した。
しかし光琉は、その戦いの翌日以降、元昭の事を想い続けることとなった。
その切欠は元昭が月面王国の王宮内に侵入した際、側近の黒沢秀明と話していたことにある。
黒沢「当主、仮に彦星をどうにか出来なかった場合はどうするんですか?」
元昭「その時は麿が彦星より先に織姫を娶るおじゃ。本当に織姫がおるのなら、彦星なんかより麿の妻に相応しいおじゃ!」
その言葉は完全に恨み節だが光琉にとっては、それが衝撃的だった。
元は自分の妄想や願望からなった、ただの恋愛小説……それが地球に広まっていたことに驚いたが、それ以上に織姫こと自分を娶ると言ってくれた見ず知らずの他人である元昭の言葉が嬉しかった。
動機は、どうあれ自分という存在に求婚してくれた……それが衝撃的だった。
だが自分は月面王国の次期女王として賊を撃退しないといけない……嬉しいことを言ってくれた人を倒さなければならない。
光琉は涙を飲んで自分に求婚にも似た宣言をした元昭達を撃退する時、その宣言をした元昭の姿を目に焼き付けた。
それ以降、光琉は気がつけば元昭のことばかり考えるようになっていた。
宙良(足川元昭様……お慕い申し上げますわ。貴方様に、もう1度お逢いしたい……いいえ、七夕みたいに1年に1度とは言わず、ずっとお傍に……嗚呼、元昭様っ! どうして、こんなに切ないんですの……!)
瞼の裏にいる彼を忘れまいと必死に想いつつ、光琉は自分にとって彦星的な存在に逢いたいと思いつつ、それが叶わない状況に彼女は涙した。
しかし、それから1年後……自分が色彩団に加入することになるとは夢にも思わなかった。
(あとがき)
1日遅れですが、七夕のイラストを掲載します。
イラストでは全く分かりにくいですが宙良は巨乳&筋肉娘の持ち主であり、尚且つ女性寄りのフタナリです。
これは地球人とは異なる月面人との違い、ということでフタナリにしています。
裏設定ですが月面人は全てが雌雄同体であり宙良と同様、フタナリです。
子作りする際は片方が男性、片方が女性の肉体に変化するよう自ら操作して交わります。
それに伴い宙良も戦闘になると筋肉質の身体を隆起・膨張させて戦います。
ただ私の画力上、その姿を晒すことは現段階で出来ないのが口惜しいです。
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2018-07-08 22:06
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