鬼の父娘

「ちちさま、あの人間、手をもがれたのにまだこちらを睨んでいるわ」
「蛮勇ト呼ブベキカ。贄トシテ喰ラウニハ惜シイホドノ気骨ダ」

 私の右手から口を放した女は嘲る様な笑みをこちらに向け、手の甲に娘を乗せた大鬼も私を品定めするかように目を動かす。
 山に住む鬼神に捧げる生け贄として選ばれてしまった私は、突如として現れた鬼の娘に腕を引きちぎられてしまった。肩先からえぐられたはずの腕はいまや肘の辺りまで彼女の胃袋に収まってしまった。
 せめて抵抗の意思を示そうとしたが、既に私の体の主導者は恐怖に置き換わっており、うずくまる姿勢のまま彼らを睨め上げるだけで精一杯だった。

「綺麗ね、あなたのその目。すごくギラギラしてるわ」

 地に降りてきた鬼の娘はちぎった腕からちらりと覗く骨をちうちうと吸いながら私の周囲をくるくると回る。

「生きたくて生きたくてたまらないのかしら?」

 あたりまえだ、考えるより先に舌が動いていた。その言葉を聞いた鬼の娘は、私に輝くような笑顔を見せた。

「決めたわ」
「……ナニヲダ」

 その表情には見覚えがあった。無邪気で、恐れを知らず、ただ好奇のままに振り撒く喜色。例えるならば、

「ちちさま、私コレを飼ってみたいわ!!」

幼い童が蟻を潰して遊ぶ時のような。そんな笑顔だった。

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2019-01-09 23:12

 はるひら


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