話がある。

そう切り出されて、1つ目に脳裏に浮かんだのは、
(あー、明日バレンタインか。)
次に、
(え?俺なんかやっちゃったかな……)
だった。
ネロに言われるがままついて行きながら考える。
まあ多分、ネロのことだから前者だろうが、後者である可能性も勿論否めない。
まず第一、ネロから今年もチョコを貰えるとは確定していない。
そう、仮に毎年貰っているとしてもだ。
依然変わらず俺の立ち位置は宙ぶらりんのままで、ネロが実際のところ俺をどう思っているかなんて、知る由もないんだ。
去年のネロの「特別」と言う言葉を、何処まで真剣に受け取っていいのか……
恥ずかしくて、こちらから告白してしまったけれど、今思えばあの言い方では告白と言うより味方に対する信頼……の言葉にも取れる。
それでいてネロからは「好き」の2文字は貰ってはいないのだ。
……いや、違うな。ネロに限ってそんなことはないか。
謙虚になりすぎか?
……うーむ、最近のネロの俺に対するスキンシップは明らかに友達とも逸脱した近さだし、ましてやマスターとサーヴァント同士という言葉では片付けきれない。
そう言うことでいいんだろうか……
なんて、長々考えていると、
どうやら目的地に着いたらしい。
目的地……?人気のない、人の殆ど来ないボイラー室だ。
ここが目的地?
促されるまま中へ入り、徐ろに中を見回していると、後ろでガチャンと錠の落ちる音がした。
「え?!」
ダン!
と、急に壁に押し付けられる。
「ぐっ!ね、ネロ?!」
何を……と、言おうとした所で口が塞がれた。
それがネロの唇で–––––なら、なんてロマンチックだっただろう。
実際塞がれたのは少し硬い黒い板だった。
(これは–––––!)
「待たせたなマスターよ!むふふ……長引いた分、例年のものよりも特別なものと捉えよ!」
俺の驚きを他所にニヒルに笑ってみせるネロ。
舌に乗る感覚は–––––
「–––––甘い。」
反射でそう言うと、
「……ふふ♡であろうであろう♡とびきり甘いであろう?♡」
と、零れるような笑みを浮かべた。
ああ、こっちだったか。
「チョコ?ありがとう、ネロ。」
チョコをくわえたままお礼を言うと、ネロはうむうむと満足そうに頷いた。
「しかしだなマスターよ。このサプライズはまだこれで終わりではないのだ。次のこれで–––––」
と、
ネロが不意に顔を寄せる。
パキッ
と音がした。
眼を下げると、ネロはまた満足気な顔で割れたチョコの半分をくわえ笑っていた。
「くくく……甘い……甘いなあ"奏者"よ。ほうけた顔をしおって。2つの意味で甘いぞ?いや……」
よもや、と。
「3つ目、があるな。そなたとの二人きりでの一時は……これ以上ない程甘美なるものだ……♡」
眼前で喋るネロに、完璧に見とれていて、チョコの味なんてまるでわからずいつの間にか口の中から消えていた。
「うむ?口が寂しそうだな。どれ……」
ネロは俺を壁に押し付けたまま、背伸びをして、唇を重ね「とびきり甘い」キスをした。
「……まさか、ハジメテという訳でもあるまい。まあハジメテならそれはそれで余の得なのだがな♪」
「……ハジメテ……でした……」
「おおー。なんとなんと♪むふふ♡余が奏者のハジメテかあ……♡むふふふっ♡」
ネロは唇を離しても顔は離さないまま、吐息がかかるほど近くでしゃべり続ける。
「どうだ?余のサプライズは。悦んで貰えたか?」
ほうけていた俺も、その言葉には反応せねば。
「……勿論。凄く嬉しい。今のキスは……トモダチとして……ではないってことで、いいんだよね?」
「むむ、そなた、少しそれ失礼だな。いくら余が人好きだからといって誰でも彼でもキスをする訳では無いぞ?むしろ余が本当に気に入った者しかせん。そこは日本人と同じだ。」
「うん……ごめん、でもずっと不安でさ……俺なんかが……」
お前の隣にいていいのか。
お前に愛されていいのか。
お前を好きでいていいのか。
「それ以上は言うな、奏者よ。流石の余も怒るぞ。それは……余の気持ちも踏みにじるやもしれん。発言には気をつけよ。」
「……!……ごめん……」
「……まったく……そんなに不安か?言葉にせねば、行動にせねば不満か?」
「いや、決してそんなことは–––––」
また口を塞がれる。
こういうのは男の特権だと思っていたが、もう何がなにやら、ネロがするととても様になるし決まるしカッコいいし、とにかく気持ちいい。
今度のはとても長かった。
息が詰まるほど、とても。
「–––––ッハ……」
息の限界が近づくと、ネロから離れた。
そして真っ直ぐと俺の目を見て、
「好きだ、奏者よ。友人としてでもなく、尊敬の意でもなく。異性として。一人の男として、そなたの事が好きだ。愛している。臆面もなく、言いきろう。」
堂々と、ハッキリと、屈託なく、言い放った。
「〜〜〜〜ッ!」
恥ずかしくて顔を背けそうになったけれど、ここで負けたら男の名が廃る。
お返しだ。
今度は攻守逆転。素早く背中に手を回し口付ける。
なんだ。ネロだって引け腰になるじゃないか。
「……ハッ……」
口を離すと、ネロは少し蕩けたような眼をしていた。
と、ガクッと抱いていたネロの身体から力が抜ける。
「すっすまん……ち……ちから……抜け……」
足が産まれたての小鹿のようになっている。
とても面白くて可愛くて、愛おしくて。
もう少し、意地悪してみたくなった。
「ネロ。1ヶ月後、お返し……楽しみにしててね。」
「ふんっ♪余のこれを超えられるとはそうそう思えんがな。」
せいぜい強がっているネロもまた……
「ちょっと攻められた程度で足の力抜けてるようじゃまだまだ……気絶しないといいけどね。」
「ふん!よく言うわ!余を弱くした張本人が!」

さて、お返しはどうしようかな。

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2019-02-14 01:08

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