【PFLS】むかしばなし
マルグリッテは夢を見ていた。
ずっと昔の、まだ小さかったころの夢だ。
◆◆◆
ある日夜中に目が覚めてしまった私。たしかそう、怖い夢でも見たんだったっけ。
泣きながら母さんたちの部屋を目指して歩いていたはずだった。
でも私は何故かそこではなくて、孤児院の外、庭の森の中で膝を抱えていたんだ。
…そこら辺の理由は流石に忘れてしまったけど。
涙が止まらないし、真夜中で誰もいないし、昼間は賑やかな森は怖いくらい静かで、すごく寂しかったのはよく覚えている。
丸くなったまましばらく一人で泣いていたら、後ろから声がした。
「どうしたの、マル」
よく聞き慣れた、すきとおったガラス玉みたいな可愛い声で名前を呼ばれて、振り向いたらラピアがいた。
「こんなじかんにそとにでるなんて、あんたそんなにワルガキだった?」
にっと笑って頭を撫でられると、引っ込みかけていた涙が途端にまた溢れだした。
「ら、らびぃ、うあああああああ!」
「ちょちょちょ、なに!?どうしたの、どこかいたいの!?」
慌てて駆け寄ったラピアが私を抱きしめた。
「よしよしもうだいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
ぎゅっと抱きしめながらとんとんと背中をたたいてくれるリズムで、私は少しずつ落ち着きを取り戻した。
「ご、ごめんね…こわいゆめ、みてね…」
「あー、そういうのたまにあるわよね…わかるー」
私の横でうんうんと頷くラピア。
「そーゆーときはね!たのしいこととか、すきなこととかかんがえるのよ!」
「たのしいこと…ってなに?」
「なんでもいいのよ?おいしいごはんとかぁー、きれいなはなばたけとか!あとは、うたのこと!」
目を輝かせて語り始めるラピアに目を奪われる。
夜中だというのに、彼女の笑顔につられて辺りが明るくなったようにすら感じた。
「わたしうたうのすきだから、いろんなひとにきいてもらいたいの!だから、おおきくなったらたびをしていろんなところでうたをうたうのよ!んで、すたーになるんだから!ほしよほし!あれ!」
夜空の星を指さしながら、ラピアは将来の夢を私に教えてくれた。
自信満々で、楽しそうで、ただの「素敵なお姉ちゃん」だったラピアに憧れが芽生えたのは、この時だったかもしれない。
「これ、まだだれにもいってないんだからね?マルだけのひみつにしてね!」
いたずらっぽい表情で顔の前に一本指を立てられ、私はぶんぶんと顔を縦に振る。
その反応に満足したのか、彼女は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしたのだった。
「じゃ、そろそろもどろっか?かあさんたちにばれるとおこられそうだし」
「う、うん…それはやだなぁ」
「まーもしばれたらいっしょにおこられてあげるわよ!さっかえるわよマル!」
「うん!」
ラピアは私の手を引いて、家へと向かって走り出した。
あったかくておおきかったあの手の感触は、きっとずっと忘れられない。私の宝物だ。
ちなみに、母さんたちはとっくに私たちの行動に気付いていて、玄関先でにこにこしながら仁王立ちして私たちを迎え入れてくれた。
次の日の掃除担当が私たちに回されたのは言うまでもない。
◆◆◆
「さーて、出発よマル!」
「だからまだ準備終わってないんだってば!手伝って!」
相変わらず忙しないラピアに、半ギレ気味に脱ぎっぱなしの寝間着(ラピアの)を投げつける。
いつの間にか背を抜いてしまった以外、ラピアはあの時のまま、真直ぐ前を見つめているのだろう。
そして私は、いつまでも変わらない姉を追いかける。それは何よりもたのしくて、私のすきなことだから。
※※※
とかいう昔の話でした。おねいちゃんだいすき。
ラピアとマルグリッテ【illust/72965710】
使い勝手のよすぎるいのち【illust/72940905】
ずっと昔の、まだ小さかったころの夢だ。
◆◆◆
ある日夜中に目が覚めてしまった私。たしかそう、怖い夢でも見たんだったっけ。
泣きながら母さんたちの部屋を目指して歩いていたはずだった。
でも私は何故かそこではなくて、孤児院の外、庭の森の中で膝を抱えていたんだ。
…そこら辺の理由は流石に忘れてしまったけど。
涙が止まらないし、真夜中で誰もいないし、昼間は賑やかな森は怖いくらい静かで、すごく寂しかったのはよく覚えている。
丸くなったまましばらく一人で泣いていたら、後ろから声がした。
「どうしたの、マル」
よく聞き慣れた、すきとおったガラス玉みたいな可愛い声で名前を呼ばれて、振り向いたらラピアがいた。
「こんなじかんにそとにでるなんて、あんたそんなにワルガキだった?」
にっと笑って頭を撫でられると、引っ込みかけていた涙が途端にまた溢れだした。
「ら、らびぃ、うあああああああ!」
「ちょちょちょ、なに!?どうしたの、どこかいたいの!?」
慌てて駆け寄ったラピアが私を抱きしめた。
「よしよしもうだいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
ぎゅっと抱きしめながらとんとんと背中をたたいてくれるリズムで、私は少しずつ落ち着きを取り戻した。
「ご、ごめんね…こわいゆめ、みてね…」
「あー、そういうのたまにあるわよね…わかるー」
私の横でうんうんと頷くラピア。
「そーゆーときはね!たのしいこととか、すきなこととかかんがえるのよ!」
「たのしいこと…ってなに?」
「なんでもいいのよ?おいしいごはんとかぁー、きれいなはなばたけとか!あとは、うたのこと!」
目を輝かせて語り始めるラピアに目を奪われる。
夜中だというのに、彼女の笑顔につられて辺りが明るくなったようにすら感じた。
「わたしうたうのすきだから、いろんなひとにきいてもらいたいの!だから、おおきくなったらたびをしていろんなところでうたをうたうのよ!んで、すたーになるんだから!ほしよほし!あれ!」
夜空の星を指さしながら、ラピアは将来の夢を私に教えてくれた。
自信満々で、楽しそうで、ただの「素敵なお姉ちゃん」だったラピアに憧れが芽生えたのは、この時だったかもしれない。
「これ、まだだれにもいってないんだからね?マルだけのひみつにしてね!」
いたずらっぽい表情で顔の前に一本指を立てられ、私はぶんぶんと顔を縦に振る。
その反応に満足したのか、彼女は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしたのだった。
「じゃ、そろそろもどろっか?かあさんたちにばれるとおこられそうだし」
「う、うん…それはやだなぁ」
「まーもしばれたらいっしょにおこられてあげるわよ!さっかえるわよマル!」
「うん!」
ラピアは私の手を引いて、家へと向かって走り出した。
あったかくておおきかったあの手の感触は、きっとずっと忘れられない。私の宝物だ。
ちなみに、母さんたちはとっくに私たちの行動に気付いていて、玄関先でにこにこしながら仁王立ちして私たちを迎え入れてくれた。
次の日の掃除担当が私たちに回されたのは言うまでもない。
◆◆◆
「さーて、出発よマル!」
「だからまだ準備終わってないんだってば!手伝って!」
相変わらず忙しないラピアに、半ギレ気味に脱ぎっぱなしの寝間着(ラピアの)を投げつける。
いつの間にか背を抜いてしまった以外、ラピアはあの時のまま、真直ぐ前を見つめているのだろう。
そして私は、いつまでも変わらない姉を追いかける。それは何よりもたのしくて、私のすきなことだから。
※※※
とかいう昔の話でした。おねいちゃんだいすき。
ラピアとマルグリッテ【illust/72965710】
使い勝手のよすぎるいのち【illust/72940905】
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2019-02-18 23:58
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