【月光の樹海】樹人の渡り

昔の伝票を繰っていると、頁のあいだに掌ほどの大きさの紙片が挟まっていた。片面には絵が、もう片面には文章が記されている。

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　月の国へ向かいひて月光の樹海を往きたる人、樹々の密なる道程にて日の暮れしに、当夜の宿は此処なればと大樹のもとに幕を張りて寝床とす。其の夜、獣らの気配薄く、虫の音まばら、梟の声さへなかりしかど、葉陰落ちるほどの月明かりが為かと思ひ深く眠りぬ。
　明くる朝、やけに陽光の目に射すを覚えて身を起こさば、幕張りたるかたはらの大樹はもとより辺り一帯の樹木悉く失せにけり。ただそちらこちら掘り起こされたる様の土くれの小山、また身を露わにされたる地虫の小鳥に啄まれたるを見ゆ。呆然のまま身支度し、広々拓かれたる地を歩みたれば鍬携へる人と行き合ふ。其の人、古より一円に住みたりと云ふ由、事の次第を語るに、其れは樹人の方々の渡りに行き遭ひけむ、根共に轢かれなば御身月の加護厚からんとなむ云へり。

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