【PixSN空】攻防の最中・それぞれの【第2夜】
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「気をつけて。この召喚獣、手強いわ!」
アイーシャの緊迫した警告が響く。
理由は当然、彼女たちが相対する大型のはぐれ召喚獣だ。
しなやかでいて丸太のように太い尾の一振りは恐るべき鞭となり、艶めく鱗は堅牢な鎧でもあり鋭利な刃でもある。ただでさえこの巨体だというのに、まるで舞うように流麗な動きからは予想外の角度からの一撃を繰り出してくる。
巨大な白蛇のはぐれ召喚獣——サンサーラは、深く被ったベールの下から鋭い眼光を放つ。
その先には、先程から絶えず走り続ける二人の青年の姿があった。
片方は柔和な顔立ちにどこか自信なさげな雰囲気を漂わせる、白いローブをまとった男——ヘレナに属するレージだ。彼の振るう長杖はその不安なさげな表情とは裏腹にサンサーラの攻撃を寸でのタイミングですべて叩き落としている。
もう一人は、尖った髪に鋭い目つきの、レージとは対照的な見てくれの男。名前や素性は知らないが、少なくとも私兵団では見たことがない顔だ。レージの護衛獣を追いかける最中でサンサーラとともに見つけた青年だが、彼の衣服はその白蛇の尾によって無惨に切り裂かれていた。
しかし大きなダメージはないようで、疲れが見えながらもその手に握られた杖剣の刃は閃光となってサンサーラの鱗へと何度も襲いかかっていた。
やがてその布の波打ちがうっとうしくなったのか、彼は杖剣を握ったままの手で自らの上着を破り捨ててしまう。
さらに引きちぎれた布切れを散らしながらも、青年は勢いよく踏み込んで刃を振り下ろした。
しかし、流石に相手の規格が違いすぎる。
レージたちの決定的な一撃を何度もかわされ、そのたびに放たれる反撃を防ぐのが辛くなってきているのは明らかだった。
アイーシャは彼らのように敵の懐に入り込んで戦えるほどのポテンシャルはない。
さらに言えば、サンサーラには召喚術による魔法的な攻撃は通用しない。
ならば、王道なスタイルである召喚師の自分にできることは限られていた。
「援護は任せて、集中してちょうだい!」
自分が所有する杖にはめ込まれた、紫紺に輝くサモナイト石。そのみっつあるうちのひとつに手をかざした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わかりましたッ!」
私兵団からやってきた同行者、アイーシャからの心強い言葉にレージは頷きながら応えた。
先程からサンサーラの攻撃を見知らぬ青年とともにさばいてはいるが、このままでは先にこちらが力尽きてしまうのは目に見えていた。
アイーシャの召喚術による回復があれば、活動限界は何とかなるはずだ。
しかし、レージにはそれ以上に引っかかることがある。
サンサーラと交戦しているところを発見した青年は、身につけていた服を破り捨てて身軽になっていた。その左胸——ちょうど心臓がある辺りだろうか。その肌には、あまりにも無造作に縫合されたような傷跡が目立つ。
それだけならば、まだいい。ただヤブ医者の当たったのだろうと同情するだけだ。
だが、彼のその傷から、魔力を感じるのであれば話は変わってくる。
(この魔力の感じ何かに似てる気がする……なんだろう、何度も感じたことがある気がするんだけど……)
内心で首をひねりながら、迫る白蛇の尾をかいくぐってかわす。
そのまま長杖を翻して鱗に覆われた胴体に打ち付けた。しかし、手応えは固く内側に隠された肉に衝撃が届いたような気配はない。
一箇所に固まらないよう即座に後ろへと飛び退いたそのとき、レージの視界の端に光が入り込んだ。
目をやれば、そこには杖を掲げるアイーシャの姿。そして、紫紺の輝きを見せるのは彼女の手にした杖にはめ込まれたサモナイト石だった。
(……‼︎)
召喚術の施行とともにあらわれるその光を見たとき、レージの中でパズルのピースがひとつ噛み合った。
そうだ。彼の傷跡から感じる魔力の波長は、これに似ている。
マナの結晶体であるサモナイト石から発せられる具現化された魔力そのもの、それが青年から感じられる気配とよく似ていた。
(まさか、彼の体内にサモナイト石が……⁉︎)
必然的に至ったその結論に、レージはわずかに眉間を寄せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁっ……はぁっ……!」
ギィスの息は荒かった。
動悸は不自然に早く、身体には異様な熱が溜まっている。
確かに立て続けに遭遇するはぐれ召喚獣との戦闘に続いて、このサンサーラから受けた奇襲による動揺もある。
しかし、疲れているといっても大きなダメージがあるわけではない。現にこうして、ズタズタにされた服の下に新しい傷は特に見当たらない。
しかしギィスは自らの身体に起きている異常に、焦りを感じざるを得なかった。
引き裂かれた服に鬱陶しささえ感じ、ただでさえボロ布寸前のそれを引きちぎって捨ててしまったほどだ。
実は就職活動を始めたころに姉が自分に選んでくれた服だったが、アパートのタンスにまだ予備が残っているので心配はいらないだろう。
それよりも、いまはこの状況を把握したい。
用心棒という仕事柄、今までにも手強い敵を相手取ることもあった。その度に背中に冷や汗を伝せたり、戦慄で指先が強張ることも何度かあった。
しかし、こんな風に身体の内側から異常を感じたことなど無い。こんなことは初めてだ。
「クソッ……!」
思わず誰にともなく悪態をつきながら、刃を振るう。
冷静さに欠けがむしゃらに放った斬撃は、いつものそれよりも遅く切れ味も鈍っていた。
反撃とばかりに繰り出されたサンサーラの鞭のようにしなる尾をかわす。
熱のこもる心臓を、古い傷痕の上から手でおさえる。この傷自体はギィスが幼少の頃に拾われた孤児院に入るまえ——記憶を失う以前からあるものだ。
他人から見れば異様で気味の悪いものだろうが、記憶喪失の自分にとっては生まれた時からあるようなものであり、過去につながる唯一の手がかりのようでもある。
その傷が、いやに疼く。
初めて感じる不自然な衝動、気配。その全てが何かが起こる前兆のようで、杖剣を持つ手に力が入った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今回は一枚絵です!
せっかくなので全部脱いでもらいました(言い方
こちら[illust/75782214]からこちら[illust/75718480]、そしてこちら[illust/75835587]につながるまでの間をイメージさせていただいてます!
ギィスの体内に、魔力を放つなにかがあるという可能性が浮上しました。
それがサモナイト石なのかわかりませんが、マナを持つ何かだということは確かなようで……?
2枚目の『モフモフタイム』は完全なるおふざけです。本編とは関係ない形でだいじょうぶです……!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お借りしました!
アイーシャさん
レージさん
バウくん
サンサーラさん
「気をつけて。この召喚獣、手強いわ!」
アイーシャの緊迫した警告が響く。
理由は当然、彼女たちが相対する大型のはぐれ召喚獣だ。
しなやかでいて丸太のように太い尾の一振りは恐るべき鞭となり、艶めく鱗は堅牢な鎧でもあり鋭利な刃でもある。ただでさえこの巨体だというのに、まるで舞うように流麗な動きからは予想外の角度からの一撃を繰り出してくる。
巨大な白蛇のはぐれ召喚獣——サンサーラは、深く被ったベールの下から鋭い眼光を放つ。
その先には、先程から絶えず走り続ける二人の青年の姿があった。
片方は柔和な顔立ちにどこか自信なさげな雰囲気を漂わせる、白いローブをまとった男——ヘレナに属するレージだ。彼の振るう長杖はその不安なさげな表情とは裏腹にサンサーラの攻撃を寸でのタイミングですべて叩き落としている。
もう一人は、尖った髪に鋭い目つきの、レージとは対照的な見てくれの男。名前や素性は知らないが、少なくとも私兵団では見たことがない顔だ。レージの護衛獣を追いかける最中でサンサーラとともに見つけた青年だが、彼の衣服はその白蛇の尾によって無惨に切り裂かれていた。
しかし大きなダメージはないようで、疲れが見えながらもその手に握られた杖剣の刃は閃光となってサンサーラの鱗へと何度も襲いかかっていた。
やがてその布の波打ちがうっとうしくなったのか、彼は杖剣を握ったままの手で自らの上着を破り捨ててしまう。
さらに引きちぎれた布切れを散らしながらも、青年は勢いよく踏み込んで刃を振り下ろした。
しかし、流石に相手の規格が違いすぎる。
レージたちの決定的な一撃を何度もかわされ、そのたびに放たれる反撃を防ぐのが辛くなってきているのは明らかだった。
アイーシャは彼らのように敵の懐に入り込んで戦えるほどのポテンシャルはない。
さらに言えば、サンサーラには召喚術による魔法的な攻撃は通用しない。
ならば、王道なスタイルである召喚師の自分にできることは限られていた。
「援護は任せて、集中してちょうだい!」
自分が所有する杖にはめ込まれた、紫紺に輝くサモナイト石。そのみっつあるうちのひとつに手をかざした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わかりましたッ!」
私兵団からやってきた同行者、アイーシャからの心強い言葉にレージは頷きながら応えた。
先程からサンサーラの攻撃を見知らぬ青年とともにさばいてはいるが、このままでは先にこちらが力尽きてしまうのは目に見えていた。
アイーシャの召喚術による回復があれば、活動限界は何とかなるはずだ。
しかし、レージにはそれ以上に引っかかることがある。
サンサーラと交戦しているところを発見した青年は、身につけていた服を破り捨てて身軽になっていた。その左胸——ちょうど心臓がある辺りだろうか。その肌には、あまりにも無造作に縫合されたような傷跡が目立つ。
それだけならば、まだいい。ただヤブ医者の当たったのだろうと同情するだけだ。
だが、彼のその傷から、魔力を感じるのであれば話は変わってくる。
(この魔力の感じ何かに似てる気がする……なんだろう、何度も感じたことがある気がするんだけど……)
内心で首をひねりながら、迫る白蛇の尾をかいくぐってかわす。
そのまま長杖を翻して鱗に覆われた胴体に打ち付けた。しかし、手応えは固く内側に隠された肉に衝撃が届いたような気配はない。
一箇所に固まらないよう即座に後ろへと飛び退いたそのとき、レージの視界の端に光が入り込んだ。
目をやれば、そこには杖を掲げるアイーシャの姿。そして、紫紺の輝きを見せるのは彼女の手にした杖にはめ込まれたサモナイト石だった。
(……‼︎)
召喚術の施行とともにあらわれるその光を見たとき、レージの中でパズルのピースがひとつ噛み合った。
そうだ。彼の傷跡から感じる魔力の波長は、これに似ている。
マナの結晶体であるサモナイト石から発せられる具現化された魔力そのもの、それが青年から感じられる気配とよく似ていた。
(まさか、彼の体内にサモナイト石が……⁉︎)
必然的に至ったその結論に、レージはわずかに眉間を寄せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁっ……はぁっ……!」
ギィスの息は荒かった。
動悸は不自然に早く、身体には異様な熱が溜まっている。
確かに立て続けに遭遇するはぐれ召喚獣との戦闘に続いて、このサンサーラから受けた奇襲による動揺もある。
しかし、疲れているといっても大きなダメージがあるわけではない。現にこうして、ズタズタにされた服の下に新しい傷は特に見当たらない。
しかしギィスは自らの身体に起きている異常に、焦りを感じざるを得なかった。
引き裂かれた服に鬱陶しささえ感じ、ただでさえボロ布寸前のそれを引きちぎって捨ててしまったほどだ。
実は就職活動を始めたころに姉が自分に選んでくれた服だったが、アパートのタンスにまだ予備が残っているので心配はいらないだろう。
それよりも、いまはこの状況を把握したい。
用心棒という仕事柄、今までにも手強い敵を相手取ることもあった。その度に背中に冷や汗を伝せたり、戦慄で指先が強張ることも何度かあった。
しかし、こんな風に身体の内側から異常を感じたことなど無い。こんなことは初めてだ。
「クソッ……!」
思わず誰にともなく悪態をつきながら、刃を振るう。
冷静さに欠けがむしゃらに放った斬撃は、いつものそれよりも遅く切れ味も鈍っていた。
反撃とばかりに繰り出されたサンサーラの鞭のようにしなる尾をかわす。
熱のこもる心臓を、古い傷痕の上から手でおさえる。この傷自体はギィスが幼少の頃に拾われた孤児院に入るまえ——記憶を失う以前からあるものだ。
他人から見れば異様で気味の悪いものだろうが、記憶喪失の自分にとっては生まれた時からあるようなものであり、過去につながる唯一の手がかりのようでもある。
その傷が、いやに疼く。
初めて感じる不自然な衝動、気配。その全てが何かが起こる前兆のようで、杖剣を持つ手に力が入った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今回は一枚絵です!
せっかくなので全部脱いでもらいました(言い方
こちら[illust/75782214]からこちら[illust/75718480]、そしてこちら[illust/75835587]につながるまでの間をイメージさせていただいてます!
ギィスの体内に、魔力を放つなにかがあるという可能性が浮上しました。
それがサモナイト石なのかわかりませんが、マナを持つ何かだということは確かなようで……?
2枚目の『モフモフタイム』は完全なるおふざけです。本編とは関係ない形でだいじょうぶです……!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お借りしました!
アイーシャさん
レージさん
バウくん
サンサーラさん
10
11
497
2019-07-24 07:36
Comments (0)
No comments