落書き ナーナ

『マルくんのおことわり』 五 マルくんとお母さんのショール
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 翌朝。
 目覚めたマルトは、布団にくるまったまま、身もだえしていた。
(ぼく、いったいどうしちゃったんだろう?)
 昨日のことを思い出していた。何か一日ずっと、テンションがおかしかった。
 マイラが危ない仕事をしていると知って、心配するところまではいい。それは今でも、そう思う。
 しかし、心配のあまり、ぎゅっと抱きしめたりとか、マイラに優しくしたくなってあーんとしたりとか、胸に抱かれて眠ったりとか。
 あげく、ナーナを「お母さん」と呼んだ気がする!
「うわああああ」
 マルトは恥ずかしさのあまり、布団を頭の上まですっぽりかぶって、中でじたばたと暴れた。
「マルくん、起きたの?」
「!」
 その音が聞こえたのだろう。扉が開いて、ナーナが顔をのぞかせた。
 やばい、昨日のことを言われる! マルトは身を固くして身構えた。
 だが、その予想は外れた。
「ご飯食べないでまた寝ちゃったから、おなかすいてるでしょ。朝ご飯できてるよ」
 ナーナはそれだけ言うと、ベッドのわきに寄ってきた。その顔はあくまでも優しく、いじわるくからかう様子はみじんもない。
(気がつかなかったのかな?)
 マルトは一瞬そう考えたが、いけない、いけないと、その考えを打ち消した。相手はナーナだ。油断をさそっているのかもしれない。
 じっと布団の中から様子をうかがう。
 ナーナはそんなマルトに、ちょっと小首をかしげると、こちらにかがんで両手を差し出してきた。マルトを抱き上げて起こそうとしている。
 それはよくマルトが、寝坊した時にお母さんにされていたやつだ。
「ち、ちがうからね!」
「?」
「お、お母さんって言ったの、ちがうから! ナーナがお母さんのショールしてたから、寝ぼけてまちがえただけだから! ナーナがお母さんみたいだって話じゃないから!」
 マルトはとっさに言い訳をした。
 ナーナはきょとんとした顔でこちらを見ていた。
 やがてゆっくり口の端を上げると、瞳にいたずらっぽい光が宿る。
 マルトは自分が墓穴を掘ったことに気づいた。
 両手を広げたナーナは満面の笑みで言った。
「マルくん、お母さんにおはようのキスしてくれないの?」
「!!!!」
(本当にもう、かわいいなあ)
 真っ赤になって、また布団を頭からすっぽりとかぶったマルトを見守りながら、ナーナは思った。

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2019-09-16 21:00

 かわせひろし


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