イイ顔見せて / ぐだ蘭 表紙イラスト
燐さん(user/25176201)の小説表紙イラストを描かせていただきました。初クリスタで久々のお絵かき楽しかったです。2枚目はトリミング前です。以下あらすじ↓
あらすじ--------
最終再臨を果たした蘭陵王は込み上げてくる感謝を伝えたい人間がその場にいないことに悲しみを隠せなかった。こういうときこそ仮面が必要だろうに、前回の再臨時にマスターに取り上げられて以来、エーテルで生成できると分かっているがそれは命に背くようで実行できずにいる。再臨を見守っていたマシュと幼い姿のダヴィンチが彼の目に涙が浮かぶのに気付いて心配そうに近寄った。聡明なふたりは生前の蘭陵王がどのような最期を迎えたのか知っている。
「……っ、私は、マスターになにか、してしまいましたか……っ?
覚えがない。覚えてない。だけどこの感覚は記憶にある。たとえ毒を贈られても易々と死ねる身体ではなくなったが。
「立香くんにも困ったものだねぇ」
この場にいない彼だって蘭陵王のことは分かっているはずだ。だというのに英霊にとって数限られた再臨の場に顔を出さないなんて、疑われても仕方ないだろう。せっかく蘭陵王からの絆も深まっていたというのに。ダヴィンチはふぅー、と長い呆れの溜め息を零しながら小さな手で震える背をそっと撫でた。
「先輩は外せない用事があるとおっしゃっていましたが、もう終わって蘭陵王さんをお待ちかもしれません!行ってみてはどうでしょう?」
カルデアにいるすべての英霊たちの再臨に、マシュはマスターとともに立ち会ってきた。蘭陵王の最終再臨にだけ顔を出さないなど、よほどのイレギュラーが発生したに違いない。立香に絶大な信頼をおくマシュだからこその言葉であるが、ダヴィンチ、そして蘭陵王はそれが慰めにならないことに気付いていた。
ぐっと拳を握り込み、俯きかけていた顔をなんとか上げて無理やり笑みを作る。女性に涙を見せて弱音を吐くなど、武人にあるまじき醜態だ。
「マシュ殿、ダヴィンチ殿、ありがとうございます。みっともないところをお見せしてしまい申し訳ございません。できればこのことはお忘れいただけますと……」
指先をもじもじ擦り合わせながらふたりを窺えば、顔を見合わせたマシュとダヴィンチが包み込むような優しさを眼差しに乗せた。その笑みに少し勇気をもらえた気がして、蘭陵王は決心する。
「マシュ殿のおっしゃったように、私はマスターに会いに行こうと思います。まずはここまでのお取立てに感謝をお伝えしなければ……」
本来ならば再臨のその場で伝えるべきであった口上も胸の内で黙したままだ。マスターのいないところで献身を紡いでも虚しさが募るだけなのは召喚されてから存分に思い知った。だがこの身すべてを捧げる覚悟はできている。どのように思われていようと自身はマスターの判断で最終再臨を迎えたのだ。今度こそ、マスターから何か、……たった一言でいい、お言葉を賜れたら。
火急の用事とあれば仕方ない。時期が悪かったのだ。自身に言い聞かせる。あぁ、だけど。最終再臨という英霊にとっての一大事が最初で最後の機会だと思うほどに、蘭陵王はマスター・藤丸立香とうまく言葉を交わせずここまできた。
ノウム・カルデアにて初めて召喚されるサーヴァントも増える中、比較的遅い召喚だった蘭陵王はそれにも関わらず早々に再臨の機会を得て、また出陣にも絶え間なく同行を命じられた。前線に出る機会はとても少なかったけれども。
召喚の折、無礼と知りながら仮面をつけたままの自身に、マスターの瞳が揺れたことを覚えている。この目と近いようで異なる青は底の見えない深さを携えていた。もとより戦しか知らぬ身だ、どんなマスターに仕えることになろうと忠節を尽くすのみと心に決めていたものの、その瞳に、……そう、落胆の色を感じてしまった。自身の何がそうさせたのか、この仮面のせいなのか、外すことで何かが変わるのか……。確認しようと口を開くが、ほぼ同時にマスターは踵を返し召喚室を出てしまう。
「先輩?どこへ行くのですか?」
「ッ、追いかけます」
「あっ、蘭陵王さん!?」
のちにマシュ・キリエライトという名を知ることになる少女の制止を振り切って、後を追った。道も分からぬ中を僅かに感じる彼の魔力の名残を辿っていく。か細くてすぐにも消えてしまいそうな魔力の足跡は、道を閉ざした一角に立ち竦む彼へと導いた。
「あの、……マスター、」
向けられた背から感じる拒絶に拳を握り、意を決してマスターを呼ぶ。
「なんで来たの」
座に帰ろう。氷の刃でぐさりと貫くような声音の冷酷さが即座にそう思わせた。
「っ、申し訳、ありません……、あの、すみません……っ、無駄な、召喚をさせてしまい、本当にっ、……っぐす」
すでに仮面で覆われた顔を両手がさらに覆う。仮面の内側を雫が流れ落ちた。一歩下がり、二歩目を退き、三歩目はもうマスターのほうを向いていられないと座へと繋がる道筋を探しかけたそのとき、顔を隠していた右手首を強く引っ張られた。前のめりになった身体は反動で真後ろのマスターに向かって体勢を崩し、だが見た目よりも鍛えているのか彼は身じろぐことなく、腰に回された腕にがっしりと抱き留められた。
「無駄ってなんだよ。俺はなんで追いかけてきたのかって聞いたの。……蘭陵王が来たことを無駄だなんて言ってない」
背中に触れる温度が、纏う筋肉の感触とともに伝わってくる。ぞくぞくと腹の奥が震えたのは初めての感覚だった。
「それ、は、失礼いたし、ました……。マスターが、私を避けるようだったので、気になって……」
「あぁ……、うん」
「っ……!」
マスターの吐息が耳の裏を掠めていく。びくっ。尾骶骨から電気のようなものが背を駆け登った。膝が笑って力が入らない。私はどうかしてしまったのだろうか。マスターが魔力を使った?そんな形跡はない。
「ま、マスター……もう、手を、お離しくださいっ……」
鼓動が痛いほど強く叩く。戦場でどれだけ駆けてもこんなに胸が痛くなったことはなかったのに。
パタパタパタと通路を走る足音が近づく。軽やかな足取りはこちらへ向かってきているようだ。それに気付いたマスターの手が離れ、ふらつく脚を叱咤しながらなんとか壁にもたれて膝をつくことを回避する。
「あ!先輩、蘭陵王さん、こちらにいらっしゃったのですか」
殺伐とした砂漠に一瞬で花が咲いたような華やかさを携えて薄桃色の髪がふわりと揺れた。
「編成の話をしてたんだ、明日から蘭陵王は控えで入ってもらうから」
「そうですか!よかったですね、蘭陵王さん。ご活躍を期待しています!」
微笑むマシュに曖昧に頷けば、特に怪しまれることもなく。
「よろしく、蘭陵王」
そう言いながら初めて交差した視線が、次に彼女へと向けられた青色が変わるほどの穏やかさにあまりに違いが過ぎて、ひとり置いて行かれた廊下の隅で今度こそ蹲った。
続きはこちら(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12950863)へ
あらすじ--------
最終再臨を果たした蘭陵王は込み上げてくる感謝を伝えたい人間がその場にいないことに悲しみを隠せなかった。こういうときこそ仮面が必要だろうに、前回の再臨時にマスターに取り上げられて以来、エーテルで生成できると分かっているがそれは命に背くようで実行できずにいる。再臨を見守っていたマシュと幼い姿のダヴィンチが彼の目に涙が浮かぶのに気付いて心配そうに近寄った。聡明なふたりは生前の蘭陵王がどのような最期を迎えたのか知っている。
「……っ、私は、マスターになにか、してしまいましたか……っ?
覚えがない。覚えてない。だけどこの感覚は記憶にある。たとえ毒を贈られても易々と死ねる身体ではなくなったが。
「立香くんにも困ったものだねぇ」
この場にいない彼だって蘭陵王のことは分かっているはずだ。だというのに英霊にとって数限られた再臨の場に顔を出さないなんて、疑われても仕方ないだろう。せっかく蘭陵王からの絆も深まっていたというのに。ダヴィンチはふぅー、と長い呆れの溜め息を零しながら小さな手で震える背をそっと撫でた。
「先輩は外せない用事があるとおっしゃっていましたが、もう終わって蘭陵王さんをお待ちかもしれません!行ってみてはどうでしょう?」
カルデアにいるすべての英霊たちの再臨に、マシュはマスターとともに立ち会ってきた。蘭陵王の最終再臨にだけ顔を出さないなど、よほどのイレギュラーが発生したに違いない。立香に絶大な信頼をおくマシュだからこその言葉であるが、ダヴィンチ、そして蘭陵王はそれが慰めにならないことに気付いていた。
ぐっと拳を握り込み、俯きかけていた顔をなんとか上げて無理やり笑みを作る。女性に涙を見せて弱音を吐くなど、武人にあるまじき醜態だ。
「マシュ殿、ダヴィンチ殿、ありがとうございます。みっともないところをお見せしてしまい申し訳ございません。できればこのことはお忘れいただけますと……」
指先をもじもじ擦り合わせながらふたりを窺えば、顔を見合わせたマシュとダヴィンチが包み込むような優しさを眼差しに乗せた。その笑みに少し勇気をもらえた気がして、蘭陵王は決心する。
「マシュ殿のおっしゃったように、私はマスターに会いに行こうと思います。まずはここまでのお取立てに感謝をお伝えしなければ……」
本来ならば再臨のその場で伝えるべきであった口上も胸の内で黙したままだ。マスターのいないところで献身を紡いでも虚しさが募るだけなのは召喚されてから存分に思い知った。だがこの身すべてを捧げる覚悟はできている。どのように思われていようと自身はマスターの判断で最終再臨を迎えたのだ。今度こそ、マスターから何か、……たった一言でいい、お言葉を賜れたら。
火急の用事とあれば仕方ない。時期が悪かったのだ。自身に言い聞かせる。あぁ、だけど。最終再臨という英霊にとっての一大事が最初で最後の機会だと思うほどに、蘭陵王はマスター・藤丸立香とうまく言葉を交わせずここまできた。
ノウム・カルデアにて初めて召喚されるサーヴァントも増える中、比較的遅い召喚だった蘭陵王はそれにも関わらず早々に再臨の機会を得て、また出陣にも絶え間なく同行を命じられた。前線に出る機会はとても少なかったけれども。
召喚の折、無礼と知りながら仮面をつけたままの自身に、マスターの瞳が揺れたことを覚えている。この目と近いようで異なる青は底の見えない深さを携えていた。もとより戦しか知らぬ身だ、どんなマスターに仕えることになろうと忠節を尽くすのみと心に決めていたものの、その瞳に、……そう、落胆の色を感じてしまった。自身の何がそうさせたのか、この仮面のせいなのか、外すことで何かが変わるのか……。確認しようと口を開くが、ほぼ同時にマスターは踵を返し召喚室を出てしまう。
「先輩?どこへ行くのですか?」
「ッ、追いかけます」
「あっ、蘭陵王さん!?」
のちにマシュ・キリエライトという名を知ることになる少女の制止を振り切って、後を追った。道も分からぬ中を僅かに感じる彼の魔力の名残を辿っていく。か細くてすぐにも消えてしまいそうな魔力の足跡は、道を閉ざした一角に立ち竦む彼へと導いた。
「あの、……マスター、」
向けられた背から感じる拒絶に拳を握り、意を決してマスターを呼ぶ。
「なんで来たの」
座に帰ろう。氷の刃でぐさりと貫くような声音の冷酷さが即座にそう思わせた。
「っ、申し訳、ありません……、あの、すみません……っ、無駄な、召喚をさせてしまい、本当にっ、……っぐす」
すでに仮面で覆われた顔を両手がさらに覆う。仮面の内側を雫が流れ落ちた。一歩下がり、二歩目を退き、三歩目はもうマスターのほうを向いていられないと座へと繋がる道筋を探しかけたそのとき、顔を隠していた右手首を強く引っ張られた。前のめりになった身体は反動で真後ろのマスターに向かって体勢を崩し、だが見た目よりも鍛えているのか彼は身じろぐことなく、腰に回された腕にがっしりと抱き留められた。
「無駄ってなんだよ。俺はなんで追いかけてきたのかって聞いたの。……蘭陵王が来たことを無駄だなんて言ってない」
背中に触れる温度が、纏う筋肉の感触とともに伝わってくる。ぞくぞくと腹の奥が震えたのは初めての感覚だった。
「それ、は、失礼いたし、ました……。マスターが、私を避けるようだったので、気になって……」
「あぁ……、うん」
「っ……!」
マスターの吐息が耳の裏を掠めていく。びくっ。尾骶骨から電気のようなものが背を駆け登った。膝が笑って力が入らない。私はどうかしてしまったのだろうか。マスターが魔力を使った?そんな形跡はない。
「ま、マスター……もう、手を、お離しくださいっ……」
鼓動が痛いほど強く叩く。戦場でどれだけ駆けてもこんなに胸が痛くなったことはなかったのに。
パタパタパタと通路を走る足音が近づく。軽やかな足取りはこちらへ向かってきているようだ。それに気付いたマスターの手が離れ、ふらつく脚を叱咤しながらなんとか壁にもたれて膝をつくことを回避する。
「あ!先輩、蘭陵王さん、こちらにいらっしゃったのですか」
殺伐とした砂漠に一瞬で花が咲いたような華やかさを携えて薄桃色の髪がふわりと揺れた。
「編成の話をしてたんだ、明日から蘭陵王は控えで入ってもらうから」
「そうですか!よかったですね、蘭陵王さん。ご活躍を期待しています!」
微笑むマシュに曖昧に頷けば、特に怪しまれることもなく。
「よろしく、蘭陵王」
そう言いながら初めて交差した視線が、次に彼女へと向けられた青色が変わるほどの穏やかさにあまりに違いが過ぎて、ひとり置いて行かれた廊下の隅で今度こそ蹲った。
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2020-05-17 15:43
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