黒潮さんの小噺

♪～ﾄﾝﾂｸﾃﾝﾃﾝ　ﾃﾝﾃﾝﾂｸﾃﾝ

海乃黒潮と申します。えー、毎度ばかばかしい小話を一つ。

モノっちゅうのは、これは大事にせにゃなりませんわな。
必要なものがなくて困るというのは、どこにでもある話でして。
ウチの鎮守府でも、いろいろ足りないものが出てくるんですな。
例えば、艤装を改修するってんで必要になるネジ。
せっかく工廠に赴いて、いざ使うとなったら一個足りん、なんてのはザラですわ。

ウチとこの提督はんも、意気揚々と工廠に出向いたはいいものの、着いたところで持ってきたネジが一個足らんことに気が付いた。
さぁ、いまさら引き返すのも面倒くさい。どないか誤魔化せんやろか。

明石さん、ご苦労さん！
あら提督さん、どうしました？
ちょっと艤装の改修を頼みたくてなー？
はいはいわかりました、改修ですねぇ。じゃあ必要なネジをここに出してくださいね。
よしよし、じゃあ数えながら行くぞ？
ひとつふたつみっつよっついつつ、時に明石さん、ウチのビッグセブンって誰だっけ？
陸奥さんでしょ？
そうそう、ななつやっつ、ここのつとお。
はい、じゃあ確かに十個、受け取りました。
それじゃ明石さん、改修よろしくね！

とまぁ、うまいこと誤魔化したもんです。
たかが一個、されど一個。貴重なネジを一個でもごまかしたとなると、ええ気になりますわな。
さて、この話がどこぞで噂になって、ほかの鎮守府の提督さんにも広まった。そうなると、ついついマネしたくなるのが人情っちゅうもんですな。

おう明石、やっとるか？
なんですか提督、こんなところまで珍しい。
おうおう、そう邪険にされると傷つくな……。改修を頼みに来たんやわ！
あら何か悪いものでも食べました？　そんなことに興味ないと思ってたわ。じゃあ改修に使うネジ、ここに置いてくださいな。
よし来た、じゃあ行くぞ？
ひとつふたつみっつよっついつつ、時に明石よ、ウチのビッグセブンってどいつだ？
あらあら、面白いことおっしゃいますね？　――貴方が昨日、沈めたじゃないですか。

艦ネジという噺でした。